海のマイクロプラスチック 意外な犯人は?
マイクロプラスチックと聞いて、何をイメージするだろうか。ポイ捨てされたゴミが原因と考える人も多いだろう。しかし、私たちが自覚なしに生活の中で使い、食べているものが、マイクロプラスチックを増やす一因になっているかもしれない。
■「ポイ捨てしないから、大丈夫」は間違い
海のマイクロプラスチック問題。小さなプラスチックの破片が、自然に分解されることなく、海の生物の生体に影響を及ぼしてしまうというものだ。
「海に落ちているゴミなど、ポイ捨ても原因のひとつではありますが、ポイ捨てしていないから大丈夫というわけではありません。気づかないうちに日常生活の中で使っているものから、どんどん漏れていくこともあるのです」
そう語るのは小嶌不二夫さん。京都大学の大学院在学中に、拾ったゴミの情報を共有するSNSアプリ「ピリカ」をリリースした。「ピリカ」はこれまで世界108か国で利用され、累計で1億8000万個以上のゴミが拾われているという。自ら作った装置で、日本全国のマイクロプラスチックの流出実態を調査するなど、小嶌さんは「環境問題を科学技術の力で解決する」ことを目指しているという。
「ちゃんとゴミを捨てて、自治体の焼却炉まで届けば問題はありません。しかし、例えばゴミを収集した後に雨風で漏れ出すなど、普通に分別して捨てていても、マイクロプラスチックを生み出す可能性があるんです」(小嶌さん/カギカッコ内、以下同)
ポイ捨てしていなくても、私たちはどこかでマイクロプラスチックにつながる行動をしているかもしれないのだ。
■一番多く流出しているマイクロプラスチックとは?
小嶌さんによると、マイクロプラスチックを一番多く出しているものは、ポイ捨ての印象がなく、意外なものだったという。
「正解は、ちぎれた人工芝です。グラウンドに敷かれている人工芝や、玄関の足ふきマット、ベランダに使われている人工芝が破れてボロボロになり、水路に流れます。実は日本の近くの川や海で見つかるプラスチックの10~20パーセントは人工芝なのです」
また、人工芝以外にも意外な犯人がいるという。
「もう一つはお米にまつわるもので、肥料なんです。肥料は、表面を薄いプラスチックでコーティングしてからまきます。まかれた後に残る殻は、4ミリくらいのとても小さな粒です。田んぼの水を入れ替えたり抜いたりするシーズンには、米を作っている地域の海岸は、このプラスチックの殻で覆われます」
肥料をプラスチックでコーティングすることにより、カプセルのすき間からじわじわと成分が染み出すので、長持ちするのだという。毎日まく必要があった肥料を、シーズンごとに一回まくだけでよくなるなど、とても便利なのだ。しかし、間接的にマイクロプラスチックを出していることを知っておきたい。
では、私たちはどんな行動を取ればいいのだろうか。
「まずはこの問題について知り、ちゃんと選択をしていくことが大事なのかな、と思います。例えば、お米も多くのものはプラスチックの肥料が使われていますが、一部のお米はこの肥料を使わずに育てています。そういうものを選んでいくことが、第一歩です」
■まずは身近なゴミ拾いから
お米を作るのにどれぐらいの労力がかかり、米農家がどんな事情でこの肥料を選択しているのか。素人が想像するのは、難しい面もある。しかし、声を上げていくことが大切だと小嶌さんは言う。
「肥料を使っている側も肥料を作っているメーカーも、消費者がどう思うかを気にして製品開発をしています。私たちが声を上げなければ、何も変わりません。現在は米を買うときも、プラスチックの肥料が使われているかどうかの表示がなく、わからない状態です」
事実を把握し、周りの人に伝える。そして、環境に影響を与えるものなのか知りたい、という空気作りをしていくことが、大切なのかもしれない。
加えて、私たちがすぐに身近で起こせる行動とは、何だろうか。
「みんなができる身近なアクション、それはゴミ拾いです。とても単純だし地道ですが、ゴミ問題を考えるにあたって、とても重要なことです」
小嶌さんは、ゴミ拾いの情報をシェアするSNSアプリ「ピリカ」を通した活動で、ゴミ問題の普遍性を感じているという。
「ゴミ問題は、世界共通。ジャングルの奥地や砂漠の真ん中にまでゴミは落ちています。ピリカでゴミを拾う前、拾った後の写真をシェアすることで、ゴミ問題をみんなで共有できるんです。それに、後からいろいろな人が見て、その行為に対して感謝をしたり、真似してゴミ拾いの活動が広がったりすることもありますよ」
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この記事は、2021年5月29日に配信された「Update the world #5 きれいな水と海のためにわたしたちができること」をもとに制作しました。
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