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受診難民を救え!埼玉・コロナ後遺症外来

2021年9月30日 11:08
受診難民を救え!埼玉・コロナ後遺症外来

新型コロナウイルスの後遺症に悩まされる人が後を絶たない。後遺症の患者は日本全国で20万人を超えるとも言われ、医療現場では今がその数のピークを迎えている。しかし、その診療にあたる医療機関は少ない。現状を改善しようと埼玉県が後遺症外来の開設を発表した。

■後遺症患者を悩ませる要因には“周囲の無理解”も

新型コロナウイルスの後遺症には、嗅覚・味覚障害、けん怠感や息苦しさ、脱毛など様々な症状があるとされている。エビデンスのある確立した治療法はなく、医療現場も手探りだ。症状の多様さもあいまって後遺症への理解が進まず、地域の医療機関にかかってみても「精神的なこと」などと取り合ってもらえないケースも。そして身近な家族や友人らからの理解を得にくいことも患者を悩ませる要因だ。

■背景にほとんど存在しない“後遺症外来”

さらに受け皿となる医療体制の問題もある。埼玉県の担当者によれば、県内にはこれまで新型コロナウイルスの“後遺症外来”を標ぼうする医療機関はほとんど存在せず、患者が治療を受けること自体が難しかった。しかしたとえ新型コロナウイルスの感染者数が減少しても、すでに苦しむ声があがっている後遺症患者の存在は見過ごすことができない。そのため、埼玉県は県医師会と協力し後遺症外来の設置を急いだという。

9月22日には後遺症外来開設に向けた検討会が開催された。県医師会の金井忠男会長は、冒頭「これほどまでに後遺症を発症する感染症が存在するのかという状況になっている。後遺症の定義は難しいが、苦しんでおられる方がたくさんいる。何とか早いうちに救える治療指針のようなものをつくりたい」と述べ、後遺症外来の設置に手をあげた医師らに呼びかけた。

これまでの県内の後遺症患者への対応について、県医師会の丸木雄一常任理事は「どうしても悩む患者は都内の医療機関に行っていたのではないかと思う」とし、その上で、今回の埼玉県と県医師会が協力して開設する後遺症外来を「後遺症に悩む患者の“道しるべ”にしたい」と語った。

■埼玉県と県医師会が認定する7医療機関8診療科の後遺症外来

その“道しるべ”となるのは、10月1日から本格的な後遺症の診療にあたる7医療機関8診療科だ。30日に埼玉県のホームページに公表された。

1:公平病院・戸田市(おおむね全分野の複数症状に対応)
2:埼玉精神神経センター・さいたま市(精神科、神経内科含む複数 症状に対応)
3:上福岡総合病院・ふじみ野市(呼吸器科含む複数症状に対応)
4:さいたま赤十字病院・さいたま市(呼吸器科)
5:埼玉医科大学病院・毛呂山町(呼吸器科)
6:埼玉医科大学病院・毛呂山町(耳鼻咽喉科)
7:川越耳科学クリニック・川越市(耳鼻咽喉科)
8:獨協医科大学埼玉医療センター・越谷市(皮膚科)

多岐にわたる後遺症の症状を診療するため診療科目に幅を持たせ、柔軟に連携を図るとしている。

■混乱防ぐための受診ルール

しかし、これらの医療機関を受診する際には注意が必要だ。どの程度の医療ニーズが見込まれるのか未知数な部分もあり、患者が殺到し混乱することを避けるためにもルールが設けられている。

前提として新型コロナウイルス感染後に療養期間が終了したにもかかわらず後遺症とみられる症状が4週間以上継続していること。その上で県ホームページに掲載されている「受診チェックシート」で医療機関を受診すべきかの判断を自分で行い、必要があった場合に、まずは近隣の医療機関へ行く。そして後遺症の治療の必要があれば、医師からの紹介状をもって予約を入れ、受診するという流れになる。

■埼玉県医師会認定“後遺症外来”の役割とは

県がこのような形で後遺症外来を設置したのには、今後を見据えた理由もある。県担当者は「この7医療機関だけですべての後遺症患者を支えるわけではない」とし、来年2月をめどに治療指針となる症例集をまとめ、地域の医療機関でも、後遺症の診療にあたることができる体制を目指したいとしている。

■新型コロナウイルスの確定診断を受けていない後遺症患者たちの存在

新型コロナウイルスの後遺症に悩む患者たちの中には、感染時にPCR検査や抗原検査などを受けられなかった人も一定数いる。しかし、今回の症例集作成のための事業としては受診の対象から除かれている。この件については検討会の中でも、すでに今年1月から先駆けて後遺症診療にあたってきた医師から声があがった。

公平病院の公平誠院長は「症例集をまとめる目的としてはいいが、感染の診断を受けた人でないと受診できないとなると、患者が行き場を失ってしまう」と意見を述べた。

この点については、当然診療にあたるべき対象の患者であり、今後、別途検討していく必要があるとされた。新型コロナウイルスの後遺症は世界的な関心事でもあり、海外でもその研究が進んでいるが、特効薬はないとされる。まずは今、目の前にいる苦しむ患者たちを救うため、診療体制の強化が急がれている。

写真:後遺症外来開設に向けた検討会に出席する医師ら(9月22日)