天皇陛下「全国豊かな海づくり」お言葉全文
天皇皇后両陛下は3日、宮城県石巻市で行われた「全国豊かな海づくり大会」の式典にオンラインで出席されました。東日本大震災から10年たった今年、被災地・石巻で行われた式典で述べられた天皇陛下のお言葉全文を紹介します。
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【天皇陛下のお言葉】
第四十回全国豊かな海づくり大会に、オンラインという形で、皆さんと共に出席できることを大変うれしく思います。四方を海に囲まれた我が国は、古くから豊かな海の恵みを享受してきました。また、山や森から河川や湖を経て海へ至る自然環境と、そこに育まれる生命や文化は、私たちに様々な恩恵をもたらしてくれます。
この豊かな海の環境を保全するとともに、水産資源を適切に保護・管理し、海の恵みと海に関わる文化を次世代に引き継いでいくことは、私たちに課せられた大切な使命であります。
今回で四十回を数える本大会が果たしてきたこのような役割と意義に思いを馳(は)せ、大会に携わってこられた多くの関係者の努力を多といたします。
今大会の開催地・宮城県は、沖合で親潮と黒潮が交わり、サンマやカツオ、マグロなどの海の幸に恵まれてきました。また、沿岸では、カキやノリ、ギンザケなどの養殖が盛んに行われ、全国有数の生産地となっています。
その宮城県では、今から十年前に東日本を襲った巨大地震とそれに伴う津波により、一万人以上の尊い命が失われました。また、多くの家屋やあらゆる産業基盤にも甚大な被害が発生しました。震災後、皇后と共に訪れた被災地の光景は、今も目に焼き付いて、私たちの脳裏を離れることはありません。
この震災によって亡くなられた方々に対し、深く哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた全ての方々に対し、改めて心よりお見舞いを申し上げます。
震災発生から今日まで、数多くの被災者が共に助け合い、また、国内外から多くの支援を受けながら、復興への歩みが進められてきました。その地において、震災を乗り越えて、初めて全国豊かな海づくり大会が開催されることは誠に意義深く、復興に向けた地域の人々のこれまでのたゆみない努力と関係者の尽力に深く敬意を表します。
現在、宮城県では、「環境と調和した持続可能で活力ある水産業の確立」を目指し、稚魚の育成や放流、藻場の造成など、水産資源の回復を図る取組が積極的に行われるとともに、海浜清掃や植林活動など、海の環境を保全する取組も進められていると聞き、心強く思っています。
本日表彰を受けられる方々を始め、全国各地において日頃から豊かな海づくりに尽力されている皆さんの活動が、今後も多くの人々によって支えられ、更に発展していくことを期待します。
私たちは、今もなお、新型コロナウイルス感染症の影響により、様々な困難に直面しています。水産業に携わる皆さんの御苦労もいかばかりかと思いますが、私たちが皆で心を一つにし、力を合わせてこの試練を乗り越えていくことを心から願います。
「よみがえる豊かな海を輝く未来へ」をテーマとするこの大会が、海や漁業への関心と理解を深め、豊かな海づくりを目指して更に多くの人々が協力していくための契機となることを願い、挨拶といたします。
※写真提供:宮内庁
2021年10月3日 御所・大広間