「おいてけぼり」―9060家族― 前編
「自分だけ“おいてけぼり”っていうか、変わっていないっていうか」
引きこもり歴35年の敬子と、63歳無職の兄。2人の面倒を見るのは、91歳の父。
父・昭二さん「なんでこんな世の中になったんかな」
その一家を支える父が亡くなった。
敬子さん「まだあまりピンときてない」
生活は、父任せだった。敬子は保険証の場所も分からない。
敬子さん「保険証わかんない」
記者「あ!敬子さん」
見つかったのは、父が書いた遺書だった。
遺書『どうかお許しください』
敬子さん「何も言えないよ。保険証探そう。保険証…」
社会から“おいてけぼり”になっていた父と娘。家賃2万4000円の市営住宅。月18万円の父の年金だけが頼り。行政からの経済的支援は受けなかった。
手伝ってほしいところだが、敬子が1日中することは、スマホ。人も社会も怖くなったのは、18歳のころだった。
敬子さん「パートへ行ったけど、やっぱりしゃべらないし、簡単なことしかできなかったから2年ぐらいかな、やめさせられちゃった」
そこから、ひきこもり、35年。
敬子さん「自分だけ何もしてなくて、変わってないから。そういう葛藤はあったよ」
父は16年前、認知症の妻に先立たれ、それからずっと1人で家族を支えている。“怒らなかった”のか。
父・昭二さん「怒らなかったですね、半分あきらめた。今でも働いてもらいたいとは思いますよ」
長男も、ケガで仕事をやめたあと、“ひきこもり”に。面倒を見るのは、もちろん91歳の父。1か月、パチンコに4万、タバコに2万。金を使われ…
父・昭二さん「お金のことを考えないでゆっくりできれば。それだけです」
5年前、死のうと失踪した。
父・昭二さんの日記『刃を腹に当てる。迷う』
それでも、死ねなかった。
父・昭二さん「世の中に許してもらいたい。しょうがない子どもを作っちゃったことですね」
敬子さん「あ、来た!」
会いにきたのは名古屋で暮らす、二男の俊光。気になるのは、やっぱりあの兄のこと。
父・昭二さん「あいつがともかくパチンコで使っちゃう」
二男・俊光さん「ただ、あんまり締め付けてもいかんからね。お父さんも1人で抱える必要ない」
俊光が顔を出すたび、家族の表情はほころんでいた。敬子も少しずつ、外へ出ている。
敬子さん「これだ。ここだ」
母の墓参り。この家族にも少し動きが。そんな中…
敬子さん電話の声「病院におる。脳腫瘍だったんだって。亡くなっちゃった」
父は突然いなくなってしまった。長男は、葬儀に出なかった。
記者「お父さんにかける言葉ってありますか?」
兄「あるに決まってます。働けんでごめんなさいって」
二男・俊光さん「これだけは納骨するから持っていくよ」
敬子、53歳。ついに、ひきこもっていたこの家を…離れる。
<後編へ>
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2021年10月24日放送NNNドキュメント『おいてけぼり ~9060家族~』(中京テレビ制作)を再編集し、前後編の2回にわけてお届けします。