「おいてけぼり」―9060家族―後編
「自分だけ“おいてけぼり”というか、変わってないっていうか」
引きこもり歴35年の敬子と、63歳、無職の兄。2人のひきこもりの面倒を見る、91歳の父は突然亡くなった。
敬子、53歳。引きこもっていたこの家を離れる。
長男「元気でね」
パチンコをやめられない長男は、おいてかれる。
二男・俊光さん「兄の近くだと妹の生活保護費まで、兄に使われてしまう可能性があるのが1番の(理由)」
妹をこの家においておくわけにはいかない。
二男の俊光さんは、自分が住む名古屋へ連れ出した。六畳一間、はじめてのひとり暮らし。
「慣れた?」
敬子さん「あんまり慣れてない」
自立まで様々な助けが必要だ。生活保護などを申請し、1か月約13万円で生活する。
ヘルパー事業所の職員「こうやってサービス使いながら、一緒に関わらせていただきますんで、いいですか?よろしくお願いしますね」
社会から“おいてけぼり”だった35年。父は怒らず、子どもの生活を支えた。
父「モルモット用ですよ」
記者「あ、敬子さんの?」
父「もう草いかんぞ」
敬子さん「ないね、なかなか採る場所が」
そんな父は、もういない。ヘルパーの助けを借りながらの都会暮らし。はじめて、友達ができた。
敬子さん「これに肉が入るともうちょっと…」
友達「ウケる~」
敬子さん「あ~ごめんなさい。肉好きだからさ」
彼女も過去に心を閉ざしていた。二男・俊光さんが、立ち上げた、引きこもりや不登校で悩む人の会のメンバー。
友達「私も期間は短いけど家から出られなかった時が1年半ぐらいあったから」
友達「掃除していい?」
敬子「いいけど」
友達「けど?」
敬子「大変だよ」
自分の関わりが、少しでも助けになったら。『やってね』ではなく、『一緒にやろう』が敬子にとってありがたい。人とのつながりで。少しずつ。
二男・俊光さん「よかったね。色んな人とつながって」
敬子さん「よかったよ」
二男・俊光さん「怖かったのがうそみたいだね」
敬子さん「うん。前から比べると」
ひとり暮らしを始めて2か月。敬子は54歳になった。また、疎外感を抱きはじめていた。
敬子さん「また朝が来るのかと思うとつらい時ってあるよ」
友達「それはいまだにある」
敬子さん「夜のほうが気楽。昼間のほうがさみしい」
外の世界が怖い。みんな、抜け出したかった。
おいてけぼりの65歳の長男。部屋はきれいに片付いていた。
長男「もう掃除も全部終わった…早くじいさんのところにいきたいだけ。もう帰って」
90歳が60歳の子を支える“9060家族”。
敬子さん「私にしたら奇跡だよ。今の生活1人でいる時点でビックリしとる」
目の前の“9060家族”。おいてけぼりに、できるのか…。
※フルバージョンはhuluで配信中
2021年10月24日放送NNNドキュメント『おいてけぼり ~9060家族~』(中京テレビ制作)を再編集し、前後編の2回にわけてお届けします