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クリスマス舞台のバレエ 楽しみ方は音楽も

2021年12月24日 15:23
クリスマス舞台のバレエ 楽しみ方は音楽も

24日はクリスマス・イブ。12月のこの時期に、世界中のバレエ団で上演される「くるみ割り人形」は、クリスマス・イブのお話だということを知っていますか?劇中では、デパートやCMなど街中で聞いたことがあるおなじみの曲も多く使われています。今回は、新国立劇場バレエ団の指揮者・冨田実里さんに、音楽を通じたバレエ「くるみ割り人形」の楽しみ方を聞きました。

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バレエ「くるみ割り人形」は、クリスマス・イブに行われるパーティーの場面から物語が始まり、主人公・クララがお菓子の国を訪れます。クリスマスツリーとサンタお菓子の国では、チョコレートの精や金平糖の精などが登場します(※演出家や振付家によって設定が変わることもあります)。

作曲は、「白鳥の湖」などバレエ作品を手がけたロシアの作曲家ピョートル・チャイコフスキー。どんな曲が使われているのか、指揮者の冨田さんに、シーンごとに解説してもらいました。

■子どもたちのワクワクが伝わる!「行進曲」

物語の冒頭のパーティーシーンに登場する「行進曲」。クララの友人など子役が登場することも多くあります。

――前半のパートはトランペットなどの管楽器のファンファーレのような音が聞こえてきます。その後に、弦楽器が交差されながら演奏されるのですが、『今年もクリスマスがやってきてワクワクする』という子どもたちの心とマッチしていて、聴いていても、みていても楽しくなる場面だと思います。

■天使の歌声に舞う…「雪の結晶の踊り」

――ねずみの王様との戦いを終えたクララと王子が、お菓子の世界へ旅立っていく場面です。オーケストラでは児童合唱(子どもたちの歌声)で演奏されます。子どもたちの声というのは大人には出せない独特の透明感があり、天使の歌声をここで効果的に使っているのは、さすがチャイコフスキーだなと思わせるところだと思います。子どもたちの歌声は、舞台上の真っ白な雪とマッチして、胸がいっぱいになるシーン。この曲は、チャイコフスキーが『くるみ割り人形』を作曲する際に、最初に取りかかった曲ともいわれています。

■「横笛」なのに「あし笛」?

携帯電話会社のテレビコマーシャルで使用されていたことがある「あし笛の踊り」。様々なお菓子の国の精が登場するシーンのひとつです。

最初のメロディは横笛、フルートが3人集まって演奏されるアンサンブルになっています。なぜ「あし笛の踊り」なのに、「横笛」なのでしょうか?

――振付家のプティパが最初にこの作品を作るときに、作曲家のチャイコフスキーへ『この場面には、こういう曲を作ってくださいね』と送った作曲注文書が残されています。それを読んでみると、実は『横笛の踊り』と書いてあるんです。チャイコフスキーは、そのアイディアをくみ取ってフルートという横笛を使い、こういう素敵な音楽を作ったのではないかというのが私の見解です。初演されたときは、羊飼いが『あし笛』を吹きながら踊ったいう説が残されておりまして、おそらくそういうところから『あし笛の踊り』と呼ばれるようになったのかなと思います。フルートの音というのは、チャーミングでかわいらしくて。みんなの心をくすぐる温かく素敵な曲だと思います。

■華やかな群舞「花のワルツ」

――お菓子の国の精は、5曲から6曲程度で、ひとりから多くて5、6人などの少人数で踊られます。しかし、『花のワルツ』は群舞として扱われることが多いです。お菓子の精の最後の曲として使われ、この後に金平糖の精と王子の主役のデュエットにつながっていきます。とても華やかで美しく、どんどん盛り上がっていく曲になっているので、演奏会やデパートなど街中のいろんなところで使われています。バレエでは、大勢で踊るボリューム感がすごくマッチしていると思います。全幕の中でも大きな見せ場となるところですので、華やかな踊りと華やかな音楽を聴いて優雅な気持ちになっていただけたらと思います。

コロナ禍で、海外から指揮者が来日できず、去年は出演回数が7~8倍に増えたという冨田さん。「一日一日に感謝しながら力強く前を歩いて行く力が鍛えられた」と話します。

所属している新国立劇場バレエ団では、今シーズンは、大晦日や元日も行う異例のロングラン公演となります。その意気込みを聞きました。

――くるみ割り人形というのは、世界で同じ時期に上演されるインターナショナルな演目だということが、すごく素敵なことだと思います。海を越えた向こうの人たちも、みんなこの作品に取り組んでいて、この作品が世界につながっているという独特の深さや温かさがあります。みんながこの1年を振り返って『来年がもっとよりよい年になりますように』という祈りを込めながらこの曲に取り組んでいるんだなって思うと、すごく元気が出るんですよね。だから私も出来ることを頑張りたいと思いますし、いろんな人のエネルギーが集まってお客さんに届いて『今年も終わって、よし2022年もよい年に頑張るぞ』と思ってもらえるようなものが届けられたら嬉しいです。

分かりやすいストーリーとお菓子の精がたくさん登場する「くるみ割り人形」。音楽を楽しみながら鑑賞してみるとバレエ初心者でも楽しめるかもしれません。(取材:社会部 和田弘江)