×

【解説】北朝鮮“人工衛星”打ち上げ予告 米韓の動きを把握する「目」の役割か

2023年5月29日 21:31
【解説】北朝鮮“人工衛星”打ち上げ予告 米韓の動きを把握する「目」の役割か

29日、政府は、北朝鮮が人工衛星を打ち上げると連絡してきたことを明らかにしました。しかし、過去には人工衛星と称した弾道ミサイルの発射が繰り返されています。

◇日本は破壊措置命令
◇最初の3日間
◇今回の目的は「目」

以上の3点について詳しくお伝えします。

■北朝鮮から打ち上げ予告…3つの海域に「航行警報」

政府によると29日未明、北朝鮮から海上保安庁に対して、「31日の午前0時0分から6月11日の午前0時0分までの間に、人工衛星を打ち上げる」との連絡があったということです。具体的には、「『黄海』『東シナ海』『ルソン島』の東の方向に打ち上げる」と連絡してきたといいます。

これを受けて、海上保安庁はこちらの3つの海域に「航行警報」を出しました。空から落ちてきたり、海に浮かんだりした残骸に船が衝突する危険があるので、注意を呼びかけています。官房長官の会見で、北朝鮮からは海上保安庁に、29日未明にメールで情報提供があったこともわかりました。

■岸田首相「直接向き合う覚悟」 日朝首脳会談も視野に

日本の領域内への落下に備え、浜田防衛相は自衛隊に対して、「破壊措置命令」を発出しました。岸田首相は、当然のことですが、北朝鮮を激しく批判しています。

岸田首相
「衛星と称したとしても、弾道ミサイル技術を用いた発射、これは安保理決議違反であり、国民の安全に関わる重大な問題であると認識をしています」

岸田首相は、不測の事態に備え万全の態勢をとることなどを指示しました。その上で、金正恩(キム・ジョンウン)総書記と「直接向き合う覚悟でこの問題に臨む」と述べていて、日朝首脳会談も視野に対応していく考えを示しています。

■人工衛星ではなく「ミサイル」…いずれも予告から初日~3日目に発射

人工衛星を打ち上げるためのロケットと弾道ミサイルは、構造が基本的に同じです。ざっくり言うと、先端に衛星を積んでいるか、兵器を積んでいるかの違いしかないといいます。

これまで北朝鮮は、「人工衛星」と称して、長距離弾道ミサイルの発射を繰り返してきました。

最初の事例は、1998年8月に起きました。人工衛星として打ち上げられたのは、「テポドン1号」でした。このとき北朝鮮は、『「金正日将軍の歌」などを地上に送信している』と説明していましたが、日本政府は「弾道ミサイルの射程を伸ばすための実験だった」と結論づけました。

それから、2009年には「3月に人工衛星打ち上げのためのロケットを発射する」と通知した上で、4月に弾道ミサイルを発射。2012年3月にも、「4月に人工衛星を打ち上げる」と予告し、このときは失敗に終わっています。同じ年の12月に改めて通知し、予告期間内に事実上の長距離弾道ミサイルが発射されました。

そして、直近は2016年2月です。このときも事前通告があり、期間内に人工衛星と称した長距離弾道ミサイルを発射しました。こういったことがずっと繰り返されてきたので、政府としては、今回も万全の体制をとるということになります。

また、事前に通知があった2009年以降の事例は、いずれも予告された期間の初日~3日目に発射されています。今回は7年ぶりとなりますが、今回はどうなるのか。通知された期間は、5月31日~6月11日です。あくまでも可能性ですが、これまでの事例の通りだとすれば、もしかすると今週中の発射もあるかもしれません。

■今回は本当に人工衛星? 専門家「ウソで覆い隠す必要もなくなった」

そして、打ち上げの場所はどこか。前回の2016年は、北朝鮮の北西部・東倉里(トンチャンリ)にある「西海(ソヘ)衛星発射場」から打ち上げられました。この周辺では、今月に入り活発な動きが確認されていて、今回もこの発射場が使われるものとみられます。

こうした中、金正恩総書記は娘を伴って、今月16日に「軍事偵察衛星」を視察したとメディアが報じています。今回、これが打ち上げられるとみられます。北朝鮮政治が専門の慶応義塾大学教授の礒崎敦仁教授にも話を聞いたところ、「今回は人工衛星の打ち上げと見ておいたほうがいい」と言っていました。これはどういうことかというと、「2016年まで、北朝鮮はアメリカの反発を気にしながら、ICBM(=大陸間弾道ミサイル)の開発を実に慎重に進めてきた。しかし、2017年以降は、ICBMの発射実験だとしてミサイル発射を続けている。もはやICBM開発のために『人工衛星だ』とウソで覆い隠す必要もなくなって、この数年は公言した上でミサイルを発射している。だから、今回は予告で『人工衛星』だと区別している通りに『軍事偵察衛星』を打ち上げるとみている」ということです。

軍事偵察衛星を持つ狙いについて、礒崎教授はこのように見ています。「とにかく北朝鮮は、今の体制を永続化させたい。そのためには国外、特にアメリカと韓国から攻撃を受けないような態勢をとっておく必要がある。そのため、アメリカや韓国の軍事的な動きを把握するための『目』の役割を担う軍事偵察衛星を打ち上げたい」という狙いがあるというわけです。

カメラや伝送の機能が初歩的なものだったとしても、礒崎教授は「金正恩氏自身が『1号機だ』と何度も言っているので、今後2号機、3号機と精度を上げてくる」とみています。北朝鮮による打ち上げは、まだ繰り返される可能性もあるということです。

   ◇

まずは5月31日から6月11日まで、万一に備えて、ニュースや政府・自治体からの発表にご注意いただければと思います。

(2023年5月29日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)

  • 日テレNEWS NNN
  • 社会
  • 【解説】北朝鮮“人工衛星”打ち上げ予告 米韓の動きを把握する「目」の役割か