【秘蔵映像】皇后さまの“カローラⅡ”や上皇さまの“インテグラ”、歴代御料車…「皇室と自動車」一挙公開!
■皇后さまの愛車”カローラⅡ”で両陛下がドライブ
一方、こちらは同じ年、栃木県の御料牧場で、両陛下が“マウンテンバイク”でサイクリングを楽しまれている映像です。
――これもまた貴重な映像ですね! ドラマのワンシーンのようで。
今年は両陛下が結婚されて30年の“真珠婚式”の年です。
30年前の6月9日、お二人がオープンカーに乗って皇居から赤坂御用地までの4.25キロをパレードし、沿道でおよそ19万人が祝福したことをつい昨日のことのように思い出します。
このオープンカーは、イギリス・ロールスロイス社の「コーニッシュ」で、上皇さまの即位のパレードでも使われた車です。皇室の車というと黒塗りの高級車のイメージですが、最初に見たように、さまざまな車や自転車にも乗られます。
――そして自らハンドルを握られることもあるんですよね。
今日は、井上さんとともに、自動車や自転車を中心に〝皇室と乗り物〟にスポットを当てたいと思います。
■乗られる車が違う…公務とプライベート
まずは、皇室の方々が公務などで乗られている車から見ていきます。
こちらは1月23日、天皇陛下が国会の開会式に向かわれた時の映像です。
「天皇旗」を立てた「御料車」の前部には、菊の紋章があり、「皇室」の「皇」の字をあしらった銀色の丸いプレート、「皇ナンバー」がついています。国会の開会式のほか、全国戦没者追悼式、国賓を迎えた時などに使われる、格式が最高の車です。
一方、こちらは今月2日、都内の美術館をお忍びで訪問された時の映像です。両陛下は白いワンボックスカーに乗られています。一瞬ですが、一般の「白」のナンバープレートが見えます。
さらに、去年11月、検査のために東大病院に向かわれた時の映像です。こちらも白の一般ナンバーです。
両陛下は、公務ではない、私的なお出かけの時は「御料車」以外の、一般と同じ白ナンバーを付けた車に乗られます。こうした姿勢は上皇さまの時からですが、公務とプライベートを分けられています。
■“赤ベンツ”も~かつては外国車だった“御料車”
――そうなんですね。ここまでさまざまな車が出てきましたが、皇室の車は国産が多いのでしょうか?
公務に使われる専用車は、現在は“国産車”ですが、戦前から戦後しばらくまで外国車でした。
――色が赤いのですね!?
「溜色(ためいろ)」といいます。“漆塗り”から来ています。溜色と黒の2色の塗装を、金色のラインが引き締めていて、左右のフェンダーの上にある“予備タイヤ”が特徴です。「溜色」は当時の“内務省通達”で一般の使用が禁止されていました。
――皇室専用の色だったんですね!
「赤ベンツ」が大活躍したのは、総距離3万3000キロに及んだ昭和天皇の戦後の「全国巡幸」の時でした。
当時は未舗装の道路ばかりで、冷房もない時代です。暑さにたまりかねて車内に氷の柱を入れたところ、すぐ溶け、土ぼこりが入らないように窓を閉めていたために車内は“蒸し風呂状態”になった、という話も残っています。
――車もそうですけれど、道路事情であったり、当時の沿道の人の近さなど、その当時の様子が伝わってくる貴重な映像ですね。
土ぼこりが上がって、ガタガタ道なのがわかります。人垣の中を車が分け入っていくような雰囲気ですよね。
そして今の天皇陛下も、この“赤ベンツ”に乗られたことがあるんです。
こちらは1987(昭和62)年、浩宮時代の陛下が、当時の西ドイツ、ダイムラー・ベンツ社の自動車博物館を訪問された時の映像です。昭和天皇が乗った車を、製造した国で孫の陛下が乗られるというのは感慨深いですよね。
――道路の中でも「映え」ますし、今見てもデザインがかっこいいなと思います。
外国車なのに全部に菊の紋章が付き、ドアの所にも菊のマークが付いています。
■1967年に登場した国産の御料車
――「御料車」が国産車となったのは、いつごろからなのでしょうか?
1967(昭和42)年、国産の御料車、日産「プリンスロイヤル」が登場しました。日本が自動車工業国になり、天皇陛下の御料車も“国産で”という機運が高まる中での導入で、堂々とした風格が特徴です。御料車はもう「溜色」ではなく「黒塗り」です。一般の車は高速走行の安定性が重要ですが、御料車は沿道の歓迎を受けてゆっくり走ることが多く、低速走行の安定性が課題だったそうです。
こちらは、今の天皇陛下が1991年、「立太子の礼」のあと「プリンスロイヤル」でパレードされた時の映像です。この車はおよそ40年の長きにわたって使われ、次の車にバトンタッチされます。
それが2006(平成18)年に導入されたトヨタ「センチュリーロイヤル」です。現在、両陛下が使われている格式の最も高い「御料車」です。沿道から両陛下がよく見えるように窓は5センチ大きく作られました。
ちなみに、御料車を運転する宮内庁職員は「御料技官」と呼ばれます。正式には「御料自動車操縦員」です。
――“運転”ではなく“操縦”という言葉に重みを感じます。また内部を見てみますと、広くて重厚感がありますね。
とても品格があって、落ち着いていて、外国の国賓を迎えた時、これが日本の車ですよというようなことを、さりげなくアピールできて素敵な車だと思います。
■上皇さまの愛車「インテグラ」や「黄色いワーゲン」…皇室の”マイカー”
そして…珍しい写真があります。こちらは、昭和天皇がスクーターに乗っている写真です。
『昭和天皇実録』によると、1948(昭和23)年、昭和天皇は、当時14歳だった上皇さまが暮らす小金井の「東宮御仮寓所」を訪ね、上皇さま愛用のスクーターに試乗しています。さっそうと乗りこなしている感じです。
――そうですね。この写真を見たときに驚きました。スクーターがコンパクトで非常にカジュアルな印象も受けました。
昭和天皇が乗り物を運転している写真は、極めて珍しいと思います。
――また、皇室には“マイカー”をお持ちの方もいらっしゃるんですよね?
上皇さまは5年前、85歳の誕生日を区切りに運転を卒業されましたが、皇居でテニスコートに向かわれるご夫妻が愛車に乗られているのを宮内庁担当だった頃に何度も見かけました。
“超”がつくほどの安全運転でゆっくりやってくる車があると、それが上皇さまの車でした。運転席に上皇さま、助手席に上皇后さまが座られ、後部座席にお付きが身を縮めて乗っているという、いつものお出かけとは前後逆の不思議な光景でした。
同じ車に30年近く乗られ、カーファンの間では“幸せのインテグラ”と呼ばれていました。
――およそ30年間、さまざまな思いと共に大切にお乗りになっていたんですね。
上皇さまは若い頃から運転がお好きでした。
1955(昭和30)年、愛車の「プリンス・セダン」で箱根をドライブされた映像が残っています。免許取得は20歳だった1954(昭和29)年ですから、その1年後で、葉山御用邸から箱根の芦ノ湖まで、初めての遠出だったそうです。
――まるで映画のワンシーンのような映像ですよね! 背景が今よりも自然がたくさんあるので、よりそう見えるんでしょうか。
並走して撮影されているのが驚きですよね。上皇さまは若い頃、当時のプリンス自動車の車を好んで運転されました。自動車を運転した初の皇太子であり、天皇なんです。
――そうだったんですか。
また新婚当時、紀子さまと軽井沢や都内の私的なお出かけでドライブされていた車も黄色いワーゲンでした。ナンバーは同じなんですが、以前のビートルとは少し見た目が異なります。
この車を上皇さまも運転されたことがありました。
それが、こちらの写真です。那須御用邸でのご静養中に撮影されました。
――上皇さま、真剣なまなざしでいらっしゃいますね。ご家族でこの鮮やかな黄色の車に乗ってドライブされているというのは、非常に貴重な写真なのではないでしょうか。
おそらく慣れない車に、上皇さま、緊張してハンドルを握られていると思いますが、ご家族の雰囲気が伝わってきて、いい写真だと思います。
一方、天皇陛下の妹の黒田清子さんは、結婚が決まって自動車免許を取得しました。こちらは仮免許で路上教習中の貴重な映像です。清子さんは、今も皇居や赤坂御用地での行事などの時に自ら運転して出入りする姿が見られます。
■天皇陛下は“自転車派”!? アメリカでは巨大トラクター“運転”
――ごきょうだいは運転免許をお持ちですが、天皇陛下はどうなんでしょうか?
陛下は運転免許をお持ちではありません。冒頭でサイクリングの映像を紹介しましたが、こちらも留学中のオックスフォードで愛用の自転車に乗られる様子です。“自転車派”といえるかもしれません。
とは言っても、陛下が運転をされている貴重な映像も残されています。
それがこちら…留学帰りのアメリカ旅行で、日系人の農園を訪ねられた時の映像です。この時、広大なトウモロコシ畑を巨大なトラクターで案内してもらううち、陛下も敷地内でハンドルを握られました。
――そうなんですね。こんなにワイルドに揺られる陛下を見るのは初めてです。免許がなくても、陛下は乗り物がお好きなのが伝わってきますね。
そのようです。子どもの頃からいろいろな乗り物を経験されています。
1970(昭和45)年の大阪万博では、10歳の陛下は、世界で初めて大西洋横断単独無着陸飛行に成功したアメリカ人、リンドバーグ飛行士の案内で、水上飛行「シリウス号」の操縦席に乗せてもらっています。
この万博では、天皇陛下が「急流すべり」のアトラクションに乗り水しぶきを浴びて大喜びのご様子や、秋篠宮さまとジェットコースターに乗られた映像も残されています。
――私たちの子ども頃と同じようにアトラクションを楽しまれていたんですね。
そうですね。陛下の後ろは侍従ですが、侍従も楽しんでいる雰囲気ですね。
■乗り物は国民の中に入っていく重要なツール
小さい頃から陛下は、新幹線に乗って一人旅などを経験されたからでしょうか。幼い愛子さまが、Suicaを使ってJRの駅の改札を通って電車に乗る機会や、都内を一般の乗客に混じってバスで回る機会などを作られてきました。
――こうした公共の乗り物に乗られて一般の生活を知るということも、皇室の方々にとっては貴重な体験なんでしょうね。
はい、そうだと思います。皇室に自動車が導入されたのは1913(大正2)年で、今年で110年になります。単に移動の手段というだけでなく、皇室にとって自動車は“国民の中に入っていく”重要なツールと言えます。
両陛下が2006年、東宮御所の玄関前で電気自動車をご覧になり、試乗されたことがあります。あれから17年。時代はいま、環境にやさしいEV、電気自動車の時代ですから、両陛下の日常使いの車、そして「御料車」が、EVになる日も近いかもしれないと思っています。
――その時々の新しいものを取り入れながらも一台一台を見ていきますと、大切にお乗りになっているんだなということが伝わってきました。皇室の映像を通じて、日本で豊かなクルマ文化、乗り物文化が脈々と続いてきたんだなということがわかるものばかりでした。
【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。