藤井八冠の師匠・杉本八段が「金シャチ賞」受賞!記念品の扇子のテーマは“ちょい悪い親父”!?
名古屋で新たにつくられた“金シャチ賞”を受賞した、棋士の杉本昌隆八段。藤井八冠をはじめ、有力な棋士を育てあげてきた杉本八段には、大切にしている師匠から受け継いだ“ある教え”があった。
名古屋市で新たにつくられた「金シャチ賞」受賞第一号に選ばれたのは、棋士の杉本昌隆八段。“金シャチ賞”とは、市の文化芸術の推進に多大な貢献をしたことを称える「名古屋市文化芸術特別表彰」の通称。受賞について杉本八段は、「(金シャチ賞)一人目として、今回このような形で受賞できましたことを棋士として誇りに思っております」と述べた。
藤井八冠など有力な棋士を育成するなど、名古屋の将棋文化の普及促進に貢献したことが評価された杉本八段。普及活動の一つが、市内で開いている将棋教室「杉本昌隆将棋研究室」だ。2014年に開校した教室で、これまで約30人の生徒が在籍。現在、将棋教室の方は休止中だが、今もプロを目指す弟子たちが多く訪れている。
藤井八冠も月に2回ほど、永瀬九段との研究会のために訪問。杉本八段は「タイトルをとる前は藤井八冠が下手に座って、永瀬九段が上座に座っていたんだけど、今は上手が(藤井八冠の)定位置になりました」と、研究会で“八冠達成”後の変化を明かした。
「何かを受賞するというのは、すごく名誉なことです」と嬉しさを滲ませた杉本八段。続けて、「弟子達はきっと“おめでとうございます”と言ってくれるかなと思ってます。もしかしたら内心は“僕たちのおかげですね”と思っているかもしれませんけど」と冗談を交えながら、共に棋士人生を歩んできた大切な弟子達へ想いを寄せた。
これまで5人のプロを育成してきた杉本八段。その心には、同じく名古屋を拠点に活動した師匠・板谷進九段から引き継ぐ“ある教え“があった。
「私の師匠の板谷進九段は棋士が存在するのは、アマチュアの将棋ファンがいるからだと。だからファンは大事にしなければいけないと。自分が勝てばいいっていうわけではないと、(弟子にも)時折話すようにしています」と“教え”を語る杉本八段。
そんな板谷九段の教えを大切にし続ける師匠について、弟子の藤井八冠は「温厚な師匠で忌憚なく意見を交わすことができて、自分としてはいい師匠に恵まれたなと思います」と話している。
この2人のつながりを表すのが、「漸進」という文字を師弟で綴った扇子だ。漸進とは、「順を追ってだんだんと進む」という意味。杉本八段は扇子について、「弟子の気持ちとかを、改めて思い返したい時に使うことはあります」と述べた。
扇子といえば、対局中に棋士が開いたり閉じたりを繰り返している印象が強いが、この動きは杉本八段曰く「読みのリズムをとっている」という。棋士にとって必需品ともいえる扇子。実は「金シャチ賞」の記念品としても、扇子が選ばれていた。
杉本八段に贈られたのは“真っ黒な扇子”。扇の部分には「名古屋黒紋付染」という深みのある黒い絹地が用いられ、一番外側の骨組にはアルミが使用されている。扇子を作ったのは、名古屋市西区にある大正元年創業の扇子店『末廣堂』。実は名古屋は京都と並ぶ扇子の二大生産地で、「名古屋扇子」は伝統工芸品。京都の扇子が女性向けが多いのに対し、名古屋扇子は男性ものが多いことが特徴だ。
今回、杉本八段に贈られたのは“名古屋扇子を後世に残そう”と、同じく伝統工芸品である「名古屋黒紋付染」と共同で開発したもの。値段は3万8千500円。ひとつひとつ職人による手作業でつくられ、作るのに半年ほどかかった大作だ。
“真っ黒な扇子”について、「末廣堂」の川瀬なをみさんは「“ちょい悪い親父”っぽい感じっていうイメージで。私はそのターゲットとしてこの扇子を作ってますので、かっこよく使っていただけると思います」と話した。
こだわりの扇子を贈呈された杉本八段。受賞式では「対局の時に是非使わせていきたいなと思っています」と終始笑顔を浮かべていた。
今後の展望として、杉本八段は「自分としては70歳現役を目指しております。まだまだ15年ありますので、実現できるか分かりませんが、一年でも長く現役を続けることが、若い弟子たちへのメッセージになるかと思っています」と力強く語った。