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“マザーキラー”と呼ばれる子宮頸がん 39歳で余命半年の宣告「現実として受け入れられなかった…」

2024年9月14日 8:00
“マザーキラー”と呼ばれる子宮頸がん 39歳で余命半年の宣告「現実として受け入れられなかった…」
子宮頸がんで亡くなったヤスコさん

「本当に最高の妻でしたね。最高のパートナーであって、最高の親友であり、よき理解者でした」こう語るのは、バルーンアーティストのタロウさん(48)。
タロウさんの妻・ヤスコさんは10年前、末期の子宮頸がんで亡くなった。まだ41歳だった。
生前、ヤスコさんは「人を笑顔にしたい」と夢を語っていたという。その夢を引き継ぎ、タロウさんは様々なイベントでバルーンアートを作り人を笑顔にする活動をしている。

突然の余命宣告 「現実として受け入れられなかった…」

2人は4年の交際を経て結婚し、幸せな生活を送っていた。ある日、ヤスコさんの生理による出血が止まらなくなった。病院を受診したところ、子宮頸がんのステージ4B、余命は半年と宣告された。すでにヤスコさんの体は、がんに蝕まれていたのだ。二人ともすぐには現実と受け入れられなかったという。

余命1か月 諦めかけたときに起きた”奇跡”

ついに余命が1か月と言われた時には、がんはすでに脳に転移していた。そして、意識が戻らなくなってしまった。もうダメかと思ったとき”奇跡”が起きた。ヤスコさんの意識が戻ったのだ。
ヤスコさんはうまく話をすることはできなかったが、タロウさんはその様子を必死に目に焼き付けた。「ヤスコのどんな些細なことも逃したくなかった」とタロウさんは話す。
タロウさんは片時もヤスコさんのそばを離れなかった。寝ることなく、ずっとヤスコさんの手を握って「あの時、こんなことがあったね」と二人の思い出話をヤスコさんに話していた。もう一度目を覚ましてくれると信じて。
しかし願いは叶わず、ヤスコさんは41歳の誕生日に天国へと旅立った。

毎年2900人が命を落とす”マザーキラー”

ヤスコさんが命を落とした子宮頸がんは、主にHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染して生じるがんだ。子宮の出口である頸部近くにでき、発症率は20代から増え始め、30代後半にほぼピークに達する。
出産適齢期や子育て時期に発症する可能性があることから、別名「マザーキラー」と呼ばれていて、日本では毎年1万人以上が罹患し、このうち約2900人が命を落としている。

“88%リスク減” 高い予防効果のHPVワクチン

子宮頸がんの予防に有効なのが「HPVワクチン」だ。日本では2013年から定期接種となっており、小学6年から高校1年にあたる年齢の女性が無料で接種できる。
HPVワクチンの効果については研究が進んでおり、10~16歳でワクチンを接種すると、接種をしていない人に比べて子宮頸がんになるリスクが88%減少するという研究結果もある。また、予防効果は20年以上続くとも言われている。つまり、定期接種を受ければ、出産を考える時期まで予防効果が続くことになる。

遅れる日本のワクチン接種

ただ、日本では接種が進んでいないのが現状だ。2019年時点での接種率は、カナダが83%、イギリスが82%、オーストラリアで79%と高い接種率の国がある一方で、日本は1.9%。近年、日本でも接種率は上がっているというが、それでも3割には満たないと言われている。
その要因は、HPVワクチンをめぐるこれまでの経緯が関係している。2013年4月にHPVワクチンは日本で定期接種となった。しかし、接種後に手が震えるなどの症状の報告が相次ぎ、厚労省は一時、積極的な接種の呼びかけを中止した。このことがきっかけで、ワクチンの接種率は大きく低下した。
その後、安全性と有効性が改めて検証され問題はないとして、厚生労働省は2022年4月に接種の呼びかけを再開したが、接種率の上昇は限定的である。

懸念する声が根強い副反応については、調査が進んでいる。今年1~3月までにワクチン(9価ワクチン)を打った人のうち、副反応疑いがあった人は42万人(のべ人数)のうち8人で、割合は0.0019%。医療機関や企業で女性特有の健康課題について取り組みを行っている元名古屋大学教授の内科医・柴田玲さんは「世界中でたくさんの人が接種しており、安全性についてのエビデンスはかなり増えた。2013年のころに比べると安全性がより担保されているので、ずいぶんと安心して打てるワクチンになったと思う」と話す。ちなみに、一生のうちに子宮頸がんを発症するリスクは1.32%である。

“キャッチアップ接種”に迫るタイムリミット

積極的な呼びかけの中断によって接種できなかった人に向けて、厚生労働省は”キャッチアップ接種”として、無料で接種の機会を提供している。対象となるのは1997年度から2007年度生まれの女性。接種期間は2025年3月末までだが、HPVワクチンは半年に3回接種しないといけないため、今月末までに1回目の接種を打たなければ、すべてを公費で打つことができない。タイムリミットが迫っているのだ。自費で打つとなると3回接種で約10万円かかる。

子宮頸がんの“撲滅”を目指すオーストラリア

日本での子宮頸がんの罹患者数は、近年増加傾向にある。そんな日本とは対照的に、子宮頸がんを”撲滅”しようとしている国がある。オーストラリアだ。オーストラリアでは、2028年までに子宮頸がんは撲滅されると予測されている。その要因の一つが、男性のワクチン接種。HPVは主に性交渉で感染する。男性の接種率が上がれば、女性の感染も起こりにくくなるというのが狙いだ。また、HPVは喉のがんである中咽頭がん、肛門がんなども引き起こすとされていて、接種は男性にもメリットがある。

子宮頸がんを予防するHPVワクチン。接種を検討している人は、近くの産婦人科などで接種を受けることができる。ワクチンのメリットとデメリットをしっかりと理解して、接種するかどうか判断することが大切である。また、接種する人も接種しない人も、2年に1度は検診を受けることが推奨されている。
ワクチンと検診で、子宮頸がんによる悲しみが少しでも無くなることを期待したい。

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