【専門家が解説】サル痘の最新情報・欧州拡大の要因は?日本の国家機密ワクチンとは
海外で相次いで感染の報告がある「サル痘」。日本では感染が確認されていないが、WHOも危機感を強めており、各国がワクチン確保に奔走している。サル痘は、なぜいま広がっていて、どの程度“怖がる”べきなのか?日本の対策は十分なのか?専門家に現状を取材した。
■200人超え感染は「異例」…背景に欧州の大規模パーティー?
サル痘の人から人への感染が世界で合計200人を超える現状について、「今回が初めてのケース」と指摘するのは、サル痘に詳しい岡山理科大学の森川茂教授だ。
これまでもアフリカから帰国した人がサル痘を発症するケースはあったものの、1人か2人にうつしたところで終息するのがほとんどで、ここまで感染が拡大することは「異例」だと指摘する。
森川教授「サル痘ウイルスには、2種類があります。『コンゴ盆地型』という感染力や病原性が強くて重症化しやすいものと、『西アフリカ型』という比較的、病原性が弱く感染しにくいものです。いま流行しているのは『西アフリカ型』で、それほど感染が広がらないと考えられていたので、今回は、特殊な事例だということになります」
――なぜこのような拡大を?
「その理由はよくわかっていません。1つは、ヨーロッパで5月に行われた大規模な同性愛者のパーティーの参加者の間で広がっているのじゃないか、というのは言われていますけど、全貌はわかっていません」
――今後も、感染が拡大する危険性は?
「現時点で言えるのは、非常に濃厚な接触をする人たちの間で感染が広がっているので、そういう中において、今後も感染が起きるかもしれません。しかし、(要因がそうだとすれば)一般のほとんどの人の間では、それほど広がらないだろうと思います。ただし、人から人へ何回もウイルスが感染する状態が続けば、サル痘が人に感染しやすく変化をするリスクはあると思います。そうなるとより感染しやすくなる」
一方で、イギリスの専門家は、今回のサル痘患者の遺伝子配列を調べたところ、今回の感染拡大より前に、2018年や19年にイギリスなどで確認された症例の遺伝子配列と似ており、当時の感染のあと、ほそぼそと気づかれないまま広がった可能性も否定できないと指摘している。
■衣類やシーツの接触でも感染…症状や注意点は
――サル痘ウイルスの潜伏期間や症状は?
「ウイルスに暴露してからの潜伏期間は、その人の免疫状態にもよりますが、平均で12日、通常は7日から最大で3週間と言われています。症状は、最初は発熱や悪寒。その後、発疹が出てリンパ節が腫れます。リンパ節が腫れるのが、天然痘とは違うサル痘の特徴です。発疹は、中に水がたまったように膨れる『水疱(すいほう)』から、だんだん膿(うみ)のようになる『膿疱』になりますが、『水疱』や『膿疱』には多量のウイルスが含まれます。回復してくると最後はかさぶた状になり皮膚からはがれ落ちますが、この乾いた『痂(かさぶた)皮』の中にもウイルスが大量に含まれています。皮膚から落ちたものに触れた下着などの衣類、枕やシーツなどの寝具に素手で直接触れるだけで感染します」
天然痘では、こうした接触感染の特徴を利用して、患者が使った毛布をバイオテロの“兵器”として使い、感染を広めようとした動きも、かつてあったという。
――発疹などの症状が出る前の潜伏期間中も周囲の人にうつる?
「ほとんどそのリスクはないと考えられています。(新型コロナウイルスなどの)コロナウイルスと違って、感染した細胞が血液中をまわり、だんだんと発疹などの症状が出てきたときに、人にうつりやすくなります。その辺の道を歩いていて(無症状の人から)感染しちゃうということはあり得ないと考えていいと思います」
サル痘の感染は、患者の血液、体液、皮膚病変からするほか飛沫(ひまつ)感染もあるが、新型コロナウイルスのような呼吸器感染症ではなく、感染力もコロナウイルスほど強くはないという。
■日本が唯一持つ“国家機密のワクチン”とは
――サル痘に有効なワクチンは日本にある?
「そもそも(天然痘が流行した)当時の天然痘のワクチンは、非常に重篤な副反応を出して、亡くなる方もいましたのでいま使うことはありません。その後、天然痘がバイオテロに使われる可能性もあるため、より安全性の高いワクチン開発が進められました。日本では、天然痘根絶の少し前に、非常に安全性の高いワクチンが開発され、現在では、そのワクチンをテロ対策として国家備蓄しています」
通常には流通せず、国が備蓄するワクチンの詳細は、テロ対策の観点から国家機密とされ、企業名や製造状況などは、秘匿だという。
森川教授は、このワクチンについて、これまでの研究から「サル痘に感染した人に対して有効なことは間違いない」とした上で、「国家備蓄はかなりの人数分あるので、足らなくなるということはまずない。製造能力もかなりある」と強く指摘した。
一方で、治療薬はアメリカが開発したものしかない。
森川教授は「日本では未承認なので、医師の判断で輸入して使うなどの方法があるが、ワクチンもあり、入手に動くかは政治的な判断になる」と推察する。
■「サル痘は新型コロナのような新興感染症ではない」
――天然痘ワクチン未接種の世代で、感染が広がっているという指摘もある
「天然痘は、1980年にWHOが根絶宣言していますが、日本で最後にワクチン接種をしたのは1976年です。ですから、そのときに1歳くらいの方がワクチン接種をしたのが最後で、それより下の世代では受けていません。今回の感染者が、接種していない世代だというのは確かですが、ここまで広がったのは特殊で、(未接種世代で)いつも必ず広がるわけではありません」
あくまで、ワクチン未接種の世代が理由で感染が拡大しているわけではなく、濃厚な接触がある関係性の中で、今回は異例の広がりとなっていると分析する。
最後に、サル痘の拡大についてどこまで恐れるべきなのか。心構えを聞いた。
「サル痘は、『西アフリカ型』など鑑別する検査方法があり、国立感染症研究所でできますが、いま都道府県の衛生研での検査体制も検討しています。また、新興感染症でワクチンもなかった新型コロナウイルスとは違って、こちらは再興ウイルスです。ワクチンも治療薬も、世界には承認されたものがあります。ですから、それほど心配しなくてもいいのではないかと思います」