【解説】待ったなしの物流2024年問題 政府の「政策パッケージ」は解決策となるか? そして構想が進む新たな物流システムとは
トラックドライバー不足の深刻化や輸送量の減少が懸念される物流2024年問題が来年に迫る中、政府が打ち出した「政策パッケージ」は抜本的な対応策となりうるのか。私たち消費者にも配送料の値上げなど痛みが求められる未来が…物流問題をめぐる現状と課題について社会部・田中記者が解説します。
■物流2024年問題とは…
2024年4月1日以降、トラックドライバーなど自動車運転業務に携わる人たちの年間の時間外労働の上限が960時間に法的に制限されることによって起こる問題です。
国土交通省によりますと、トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比較して大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者では約2割低くなっています。
一方で、年間の労働時間は大型トラック運転者で約1.22倍、中小型トラック運転者で約1.16倍です。これを法的に制限することで「長時間労働」や「低賃金」を余儀なくされているトラックドライバーの労働環境を改善し人手不足を解消しようという狙いがあります。
■ドライバー労働環境の改善狙うも… 収入減少→人手不足の懸念
トラックドライバーの労働時間には、荷物が物流ターミナルに届くのを待つ「荷待ち」と、積み込む「荷役」や「運搬」があります。支給される運賃は、荷物を運ぶ運搬作業の走行距離に応じて支給されるため、走れば走るほど収入が増えますが、実は「荷待ち」と「荷役」には労働時間に対する対価は発生していませんでした。その後、2018年の法改正により「荷待ち」と「荷役」も対価を受け取れるようになりましたが…。
物流問題に詳しい立教大学の首藤教授によりますと、現場の実態として荷主は「より安い」運送業者を選ぶため運送業者は荷待ちなどの対価を請求しづらい状況があり、法がしっかり守られていないのが現状だといいます。こういった現状の中、今回の労働時間の規制で距離が短くなれば主な収入源である「運搬時間」が減り、収入が減少してしまいますし、そうなると更なる人手不足が懸念されます。
今後、物流問題に対し何も対応しなかった場合、輸送できる貨物の量が2030年度には約34%も不足する可能性があるとされています。そうなった場合、消費者が当たり前のように受けている当日・翌日配達の宅配サービスなどが受けられなくなる可能性があり、私たちの生活に大きな影響が出てくることが予想されます。
来年に迫る物流問題を受けて、政府は対策案を取りまとめた「政策パッケージ」を今年6月に発表。そこには、賃金の対応策としてそもそもの「トラックドライバーの賃金水準の向上」や「物流の効率化」などが記されています。
■「物流の効率化」どう進める? 広がる「混載」…カギは「業者間の連携」
「政策パッケージ」に記載されている対策案として「物流の効率化」が掲げられています。1回あたりに運搬する荷物の積載量を増やしたり、トラック以外の船や貨物列車などをより活用し物流の効率化を図るというものです。
1運行あたりの積載量を増やすための工夫として、荷主の間で協力して荷物を運ぶ「混載」という方法があります。例えば、8トンの水を運びたい荷主と2トンのカップ麺を運びたい荷主がいるとします。それぞれが積載量10トンのトラックで運ぶ場合、積載量が余ってしまします。そこで、荷主同士が協力して水8トンとカップ麺2トンを一緒に運ぶという方法です。現在、大手の荷主企業はこの「混載」に取り組み始めています。
さらに、運送業者側でも荷物を効率的に運ぶ工夫が考えられています。
積載量の低さの要因の1つとして「帰り荷」の問題があります。荷物を運ぶ場合、目的地へと向かう際の積載量は多くても、目的地から帰る際に荷台にほとんど荷物が積まれていないという状況があります。
そこで、考えられているのが「途中で荷物を入れ替える」という方法です。例えば、北海道から東京へ魚を運ぶトラックと、東京から北海道へ向かう医薬品を運ぶトラックが、中間地点で荷台を入れ替えてそれぞれの地点に戻るというものです。この場合、行きも帰りもたくさんの荷物を積んだ状態で輸送できます。
ただ、「混載」と「入れ替え」はまず荷主と運送業者とが連携を強めることが重要となります。
■船や貨物列車利用した輸送…「倍増」目標も実現性は?
政府は船や列車などでの運搬を今後10年程度で、現在の2倍にするという案を出しています。ただ立教大学・首藤教授によりますと、トラック業界にだけでなく、フェリー船や貨物列車の業界でも人手不足の問題を抱えており、多少の積載量の効率化は図れても輸送量2倍は難しいのではないかと指摘しています。
■海外でも深刻な物流問題 地下トンネルで自動輸送?驚きの対策も
スイスでは貨物交通量が2040年までに約4割増加することが予想され、新たな輸送手段が必要とされています。そこで、物流専用道として主要都市を結ぶ地下トンネルを建設し、自動運転カートを走行させる物流システムの構築が計画されています。
地下トンネルはスイスを横断するような形で全長500㎞にも及び、自動運転ということで24時間態勢での走行が可能となっています。建設費用は約5兆円。インフラの建設・システム運営に公的資金は投入されず、民間資金で実施されました。この物流システムは2031年に一部運用開始を目指しているということです。
また、イギリスでは既存の線路を活用した自動運転による物流システムが考えられています。電車が走る横に新しく物流専用レールを敷き、荷物を運ぶというもので、比較的小さい荷物の輸送となりますが、既存の線路空間を活用することで大きなコストカットとなっています。2028年から2030年にかけての運用開始を目標としているということです。
日本でも道路空間を再利用し、路肩や中央帯を活用した「自動物流道路」という輸送方法が検討されています。
東京外環道では現在、大泉ジャンクションから、その先の東京方面に向けてのトンネル工事が行われていて、工事によって出る土砂を路肩や中央帯の中に設置されたベルトコンベアを使って約6キロ離れた仮置き場まで運搬しています。このシステムにより、10トンダンプ50万台分を削減出来ているということです。
このシステムをそのまま物流システムに転換できるということではありませんが、このような形で既存の道路空間を使うは新しい物流形態が検討されています。
「自動物流道路」は構想段階で、国土交通省は、今後10年で実現を目指すとしてますが、コスト面など解決しなければいけない問題があります。そのため当面は、「物流の効率化」という形で工夫せざるをえません。
■物流問題解決へ 利用者のコスト負担避けられず
立教大学の首藤教授は「運賃引き上げなど物流コストの上昇分は商品価格に転嫁されることが望ましい」としています。将来的に物流の持続可能性を考えると、消費者も負担せざるをえないということです。
喫緊に迫った物流問題は私たち消費者側の理解も不可欠となっています。