特集「キャッチ」 保護ネコの命つなぐ保護団体に密着 赤字分は生活費削り「ぎりぎり運営」
愛らしい姿を見せるネコたちですが、ここにいるのはすべて捨てられたり、飼い主が手放したりして引き取られたネコ、つまり『保護ネコ』です。
保護団体を運営しているのは、中村あかねさんです。
■ネコ保護団体 代表・中村あかねさん
「私たちがここでその子たちを引き取って、できるだけ殺処分にならないように、その環境をつくりたいなという思いでこの店をつくっていますので。」
保護したネコは、『保護ネコカフェ』で人に慣れさせ、訪れた人と相性が合えば、家族として迎え入れてもらいます。
■ネコの保護を相談した女性
「地下鉄で行きます。」
『保護ネコカフェ』に相談に向かう女性の姿がありました。
■ネコの保護を相談した女性
「半分は(ネコたちが)幸せになれるんだったらというのと、半分は最後まで育てたかったというのがあります。そのつもりで育てていたので。」
保護を依頼するネコは、あわせて12匹です。自宅の老朽化で引っ越すことになったものの、12匹のネコとともに暮らせる引っ越し先が見つからなかったといいます。飼い主の責任を全うできなかった罪悪感を感じながらも、なすすべがありませんでした。
■ネコの保護を相談した女性
「預かっていただくので、それなりには気持ちは切り替えたつもりですけれど、やっぱり寂しくなりますね。新しい家族、見つかると信じていますので。」
飼いネコを手放す人にも、さまざまな事情があります。行き場のないネコを引き取り、譲渡先を探す取り組みは、県や市の保健所でも行っています。しかし人手や経費に限界があり、福岡市では昨年度約90匹の譲渡のうち、10匹以上は保護団体を頼ったものでした。
中村さんのネコカフェも保護の相談が絶えず、常に満員・順番待ちの状態です。
そこに舞い込んだのが、12匹の保護の相談です。今回はやむをえない事情と判断し、12匹の一部を建物の2階で一時的に預かる対応などをとることになりました。
ただ、運営は決して余裕のある状況ではありません。
毎月かかる費用の中で、人件費と家賃の次に大きいのが病院にかかる費用です。
この日は、甲状腺の病気を持つネコの検査と子ネコのワクチン接種のため、動物病院を訪れました。多くの保護ネコの健康を保つため、中村さんは週に1回は通院しています。
■パーク動物医療センター・古江加奈子 副院長
「過酷な環境からレスキューされた子は、やっぱりトラブルは多かったりするんですけど。大事にされて、最初はとんでもない暴れん坊だったのが、こんなに触らせてくれて、チュール(おやつ)も食べるようになっているから、やっぱり大事なことだなと。」
■中村さん
「私たちじゃ治療はできないので、病院の存在は心強いです。」
頼れる病院ですが、一方で費用はかさみます。
■中村さん
「多い時は20万円とか30万円かかるときも。ちなみに8月にかかった費用が、だいたい11万円ぐらいですかね。これでも少ないほうではあります。」
エサ代、人件費などを合わせると、ことし8月の出費は合計110万円以上にのぼります。ネコの引き取り費用や猫カフェの売り上げ、障がい者就労支援事業の補助金など、あわせて90万円あまりの収入をあてても約20万円の赤字です。
中村さんは、赤字分を生活費を削って補てんしてきました。
■中村さん
「ぎりぎり運営している状況です。ですが、もうこの店ができて約3000万円ほど(自分の)お金は使っています。正直何年(もつか)というか、もう(もって)数ヶ月ですね。」
ことし8月、中村さんは預かっていた2匹の保護ネコを連れて出かけていました。
■中村さん
「きょうはほかの団体が主催している譲渡会に参加することになりましたので、会場に向かっているところです。」
連れられてきたのは『フウ』と『ミミ』、1か月前に相談を受けた12匹のネコのうちの2匹です。新たに迎え入れてくれる家族を探しに来ましたが、難しい問題を抱えていました。
■中村さん
「この子がエイズキャリアというのがあって。ネコエイズのウイルスを体に持っている状態。」
2匹は、猫免疫不全ウイルス感染症、いわゆる『ネコエイズ』に感染していたのです。人にうつる心配はありませんが、発症したネコは免疫力が低下して病気にかかりやすくなり、最終的に全身の機能が低下し死亡してしまいます。『フウ』と『ミミ』は、発症に至っていません。
中村さんは、発症までに数年以上かかるケースが多いこと、発症しないまま暮らせる場合もあることを丁寧に説明します。
■譲渡会に参加した人
「いままで(ネコを)飼ったことがないので、初めてはちょっと。違う子がいいのかなと。」
この日、引き取り手は見つかりませんでした。
元の飼い主のためにもなんとか新たな家族を見つけたいと、中村さんは諦めず譲渡会に参加し続けました。
そして、1か月後の9月、ようやく2匹を引き取りたいという人が見つかりました。
■中村さん
「譲渡会に来られたお客さんが、最初は他のネコちゃんを検討されていたんですけど、フウちゃんたちを気に入ってくれて。」
『フウ』と『ミミ』の新しい家族になるのは、福岡県糸島市に住む60代の女性です。
■フウとミミの新しい家族・糸島市の女性(60代)
「ネコちゃんが緊張してるー。私も緊張しとるけど。」
女性は、ネコを飼うのは初めてだといいます。
■中村さん
「すごい、もう完璧ですね。」
■糸島市の女性(60代)
「フウちゃん、ミミちゃん、よろしくー。」
「苦労している子とか、ケガしている子とかがいっぱいいるんですよ。そういう子たちが少しでも、私たちが引き受ければ、中村さんのところにまた新しく入れますよね。」
「ミミちゃん、これから慣れていこうね。」
中村さんは、2匹の命を新たな家族に託しました。
■中村さん
「どうしても命は待ったなしでやってきますので、ここはもう自分の気持ちとの葛藤で、本当に私たちも余裕はないんですけど、見て見ぬふりをしても、自分の視界からは見なきゃ消えるかもしれないけど、問題はなくなるわけじゃない。それに立ち向かう人がいないと、社会は良くならないかなと、もう本当にその思いだけでやっていますね。」
弱く小さな命をつないでゆくために、中村さんたちはきょうも助けを待つネコたちと向き合い続けています。
全国で殺処分されるネコの数は、この10年で10分の1まで減りました。しかし、それでも2021年度の1年間で、1万匹あまりが殺処分されているという現実があります。