【カープ・新井の言葉】『まっすぐを泳ぐイメージで打て』 守備の達人が“打”でも存在感 矢野雅哉選手の背中を押した言葉とは
『新井の言葉』として、カープの新井貴浩監督のポジティブな言葉と、その真意を受け取った選手との絆からチームの強さの秘密を深掘りします。3回目は肩の強さを武器に規格外の守備とバッティングでファンを魅了する矢野雅哉選手です。
俺は守備だけじゃない!
2024年・新井カープの象徴といっても過言ではないのが、4年目の矢野雅哉。主要打撃部門ではいずれも昨年を大きく上回り、シーズン規定打席到達まであとわずか。自身がこだわりたいと口にする出塁率は、チーム5位の成績を誇ります。
■カープ 矢野雅哉選手
「全然ですね。あの投手やったら、こういう感じで打つだろうなと思っても、自分はできないので。まだまだ力もないですし、もっともっと試合の中でレベルアップしていかないといけないなと思います。」
3年目でキャリアハイの93試合に出場した2023シーズン。規格外の守備でチームに貢献する一方、バッティングでは146打席に立ち、放ったヒットはわずか22本でした。シーズンオフ、広島テレビの『進め!スポーツ元気丸』に出演した際に、こんな悩みを明かしてくれました。
■カープ 矢野雅哉選手(『進め!スポーツ元気丸』出演時)
「追い込まれてからまっすぐを待つのはなく、半速球を待って、まっすぐは触ってファウルでいいという考えでいたが、追い込まれてからその考えでいたら、まっすぐが当たらないことが多かったので。」
『絶対にポジションをつかむ』と意気込む矢野選手。ストレートへの対応を課題とし、2024年のキャンプは例年以上に覚悟をもって臨みました。明くる日も、また明くる日も、黙々とバットを振る日々。『新井の言葉』が生まれたのは、この時でした。
■カープ 矢野雅哉選手
「監督に呼ばれて『ちょっとまっすぐを泳ぐイメージで打ってみ』というふうに言っていただいて。」
■カープ 新井貴浩監督
「145キロくらいを超えた真っ直ぐっていうのが、なかなか自分のポイントで捉えることができていなかったんですよね。全部差し込まれた状態だったので。彼は性格がすごく真面目なんで。なので「ボールをしっかり最後まで見よう」だとか、「ボール球を振っちゃいけない」「見極めないといけない」って、そっちの方に寄っていきがちなんですよね。すごく真面目なので。ではなしに、変化球は空振りをしてもいいから、真っ直ぐを前で、ポイントで泳ぐくらいのつもりで打って、たぶんちょうどいいポイントになってくるよっていうふうなアドバイスをしました。」
体勢を崩されて打つ「泳ぐ」という逆転の発想を植え込むことで、課題だった打撃が大幅に向上。この言葉が、長いペナントレースでスランプに陥った時、原点に返る存在となりました。
■カープ 新井貴浩監督
「素直な子なので、すごく。こちらもアドバイスのしがいがありますよね。それをやってみよう。1日2日やってダメではなしに、しばらく根気よくやってみようという根気強さも持ち合わせています。」
手応えを得た試合の1つが、8月22日の巨人戦です。同点で迎えた延長10回の2アウト2・3塁の場面で、相手はセットアッパーのケラー。最速160㌔を超える豪腕です。1ボール1ストライクからの3球目…
■カープ 矢野雅哉選手
「2球高めのまっすぐを空振りした時点で、普通に打ったら当たらないなと思ったので、顔くらいのボールをどうやってバットに当てようかなと、それしか考えていなかったんで。」
ストライクゾーンを顔の部分に設定し、ストレート一本に絞ることで、大きく曲がる変化球を見極めることもできました。
■カープ 矢野雅哉選手
「本当にその一言が大きかったなっていうのが、自分の中にあったんで。それがなかったら、真っ直ぐをどういうふうに捉えればいいのかなというのが、今でも探していたかもしれないですし、その答えが本当に早く見つかったので、よかったなと思います。」
■カープ 新井貴浩監督
「バッティング伸びていますね。元々、守備は申し分ない。12球団のショートの中でも、もうトップクラスだと思うんですけれども。それに加えて、だいぶ力強さがでてきたかな。スイングの中でですね。試合に出て行く中で、色々試行錯誤しながら、また練習しながら、少しずつ自分の形を築きつつ、またスイングの力も増してきているなと思います。」
ペナントレースも残りわずか。ストレートを泳ぐイメージで打つことで、飛躍的な成長を遂げている矢野雅哉の一振りが、これからのチームを引っ張ります。
■カープ 矢野雅哉選手
「チームの中心として、やっぱり僕がプレーで引っ張るだという気持ちで、毎試合出たいと思いますし、追い込まれても簡単に終わらないようにするので、そこは監督含め、全員にみてほしいなと思います。」
「真っすぐを泳ぐイメージで打て」
矢野雅哉選手にかけられた『新井の言葉』は「真っすぐを泳ぐイメージで打て」でした。真っすぐのタイミングを、真っすぐを打つポイントを前に設定することで、例えば、変化球だったりタイミングがずれると「泳ぐような形になってしまう」と言います。しかし「それでもいいから、引きつけずに前でしっかり打て」という言葉で、実際にストレートに対応できるようになったそうです。
矢野選手に話を聞くと、シーズンの中でどうしても体の状態や疲れなどで、バッティングの波があったり、状態の変化があるそうです。そういった時にヒットが出なかったり、状態が良くない時でも、新井監督の『真っすぐを泳ぐイメージで打て』という言葉に戻ることで「僕には戻る場所がある」、ここに戻ることによって、また自分を取り戻していくそうです。新井監督は矢野選手を「真面目な選手」と評価し、どのようなアプローチをすればいいかを考えて掛けた言葉が「泳いでもいい」だったと思われます。
さらに、矢野選手は「チームの中心として、プレーで引っ張る」と印象的な言葉を最後に話していました。矢野選手は、今シーズンの始めに「こんなチャンスは滅多にないから、僕はレギュラーを取るんです。絶対このチャンスを逃さないように、レギュラーを取りに行きます。」と話していました。
しかし今、この言葉に変化が見えています。「チームの中心として、プレーで引っ張る」を有言実行するために、試合終了後や翌日の試合前練習時に、藤井ヘッドコーチと「昨日の試合のあの守備の位置・連携、どうだったんですか」「もうちょっとこうした方がいいんじゃないですか」「チームとしては、こういう約束ごとがあった方がいいんじゃないですか」などを話し、コーチも「そうだね。じゃ、それを今日みんなで、チームで共有しようよ」と意見交換をしているそうです。矢野選手は「基本の部分をもう一回きっちりやろうよ」という声かけも、チーム中心として行っています。
矢野選手の打撃は好調ですが、裏ではひたむきな努力をしています。全体での試合前練習が行われる約1時間前、まだまだ暑さが残るマツダスタジアムの中、連戦中にも関わらず、恒例の矢野選手の早出練習が行われています。
ホームでもビジターでも、矢野選手が早出で欠かさず行っているのが、小窪コーチとのマンツーマンでの打撃練習です。まずは緩いボールを、それから徐々に速度を上げていきます。練習の意図を小窪コーチに聞きました。
■カープ 小窪哲也コーチ
「速い球を打つよりは、緩い球でいろんな体のバランスを整えたりだったり、軸足に乗りすぎてるとか、前に行き過ぎてるっていうのは、確認作業のひとつとして、矢野と色々話をしながら、その時が一番本人も分かるっていうんで。はじめ緩い球を打って、そこから速い球を打つんですけど。本当にすごいね、成長は感じていますけどね。」
暑さや連戦中でも日々の大切にしているルーチンの確認作業を行うことについて、矢野選手は「疲れは大丈夫です。」と話していました。今試合に出られることが、矢野選手の喜びにつがっているようです。ビジターゲームの場合は、チームメートがアップ中に打撃練習のルーチン枠をこなしていくそうです。守備だけでなく、努力の末に掴んでいる成長、バッティングに今後も注目です。
【2024年9月18日 広島テレビ「テレビ派」で放送】