【なぜ宮城だけ紛糾する?】4病院再編の疑問<広島・山形の例に学ぶ>
宮城県が進める4病院再編の進め方には多くの疑問の声が上がっている。それはなぜなのか?県外の事例も参考に取材した。
Aさん「勝手に決めないでほしい。私たちがどうしたいか聞いて話を進めてほしかった」
仙台市太白区のAさん(50代)は10年ほど前、精神疾患を発症し、以来、名取市の県立精神医療センターに通院。病院の移転には反対している。
Aさん「精神疾患の患者は急激な変化に弱い。移転で環境が変わることが一番問題。病状の悪化につながる」
仙台医療圏の4つの公立・公的病院について県は赤字解消などを理由に2つに集約し富谷と名取に移転させる計画だ。
説明会参加者「ここが無くなると非常に困る」
赤十字病院とがんセンターの統合は去年暮れ、県は初めて住民説明会を開催。そのわずか5日後、基本合意が締結された。
一方、労災病院と精神医療センターの移転・合築は患者らの反対を受け、精神病院を富谷・名取に2拠点化する計画に修正。名取は分院として大幅に縮小される反面、2拠点化によるコスト増加は避けられない。
参加者「問題点が多いということが分かりました」
県と再編病院との協議についてミヤギテレビは、県に情報公開請求した。しかし開示された文書はほぼ黒塗り。再編のビジョンや議論のプロセスはブラックボックスのままだ。
Aさん「後で話を聞いた、説明しました、進めます、何ですかそれ?」
1957年開院の県立精神医療センターは、全国に先駆け、訪問看護を導入するなど半世紀以上にわたって、地域の精神医療を支えてきた。患者およそ3000人のうち2000人が太白区より南に在住。小学生など子供240人もいる。
Aさん「地域に暮らしていけるホームタウン、コミュニティが出来上がっている。それを壊すのが移転、医師看護師が辞めてしまう」
<名取では長い年月をかけて信頼構築>
名取市で、患者が通院しながら社会復帰を目指して集団生活する施設も移転で大きな影響を受ける。市内75の障害者施設のうち5つのグループホームを運営する精神医療センターの元院長、小泉潤医師は、かつては精神疾患への偏見による苦労があったと言う。
小泉潤医師「不動産屋に行っても精神患者を入れるアパートはないと。かつては閉鎖病棟に10年20年入院が多かった」
しかし長い年月をかけて地域から信頼を勝ち取ってた。小泉医師は県の構想はこうした地域の努力を踏みにじっていると批判している。
小泉潤医師「(今では)入院しても3か月くらいで退院、薬もよくなっている。普通に生活できるくらい治っている。名取ではグループホームでは苦情はない」
村井知事は去年8月の県精神保健福祉審議会で次のように述べている。
村井知事「県民に対して約束したわけです。それで私が当選した以上、実現できなければ私は辞めなければいけないと思っている」
小泉潤医師「何も知らない知事が勝手にこっちあっちに分ける。公約だけで村井知事を選んだわけではない」
財政赤字などを背景に病院再編は全国各地で進んでいる。しかし、ここまで紛糾しているのは宮城県だけのようだ。
一体なぜ宮城だけ紛糾?
再編構想が進む広島県からは宮城県の構想への疑問の声が聞かれた。
広島県医師会の松村誠会長は…
松村会長「行政だけで制度を作っただけでは現場は動かない」
広島県の病院再編は広島市内の公立・民間合わせて4つの病院を1つに集約するもの。1000床の大病院を作ったうえ5つの中小病院の一部機能も集約するという一見、大胆な構想だ。背景には広島が長年抱える課題、医師不足がある。
とりわけ40歳未満の若手医師はこの20年の間に140人減少(7%減)するなど深刻となっている。
(全国平均203人増=11%増 宮城県 255人増=18%増<20年間の40歳未満医師数>)
松村会長「横並び的に同じような医療をしてきた。県民にとっても医療従事者にとっても特色がないため医師の流出、医師がやってこないという現実がある」
病院の医療水準が低いため多くの症例の経験を積みたい若手医師が首都圏や関西圏などに流出していると分析。そこで狙うのは官民が結集し、全国トップレベルの病院を作り若手医師を呼び戻すこと。県民も高度医療の恩恵を享受できる。宮城県に比べ、再編のビジョンが明確で課題を改善する意気込みがうかがえる。
松村会長「医師も医療機器も予算も集約し、全国に通用するトップレベル、期待感は大きい」
こうしたビジョンは松村会長ら医療関係者が知事の会見に同席し、発信してきた。
村松会長「政治から入ると現場の意見をくみ上げられないし現場を無視した話になる」
山形県でも病院再編の先行例
一方、山形県酒田市には病院再編の先行例がある。それは、山形県立病院と酒田市立病院の再編だ。2008年旧県立病院は、急性期に特化した日本海総合病院に。旧市立病院は、回復期・慢性期を中心に担う日本海酒田リハビリテーション病院に再編された。機能を分担させるためだ。
主導した旧市立病院院長の栗谷医師は、当時、県立・市立ともに莫大な累積赤字で共倒れの危機にあるとして当時の県知事と市長を説得した。
栗谷理事長「課題は山のようにあった。最初は6億の赤字になって」
稼働率が低いMRIなど高額機器の二重投資の廃止などで黒字に転換。その後も医療の質を下げることなく、黒字経営を続けている。
栗谷理事長「費用管理ができない。分散させると重複投資が大量に発生する、病院同士の争いはだめ」
では栗谷理事長は宮城県の病院再編をどう見ているのだろうか?
栗谷理事長「乱暴にすぎる。精神科が入ってくれば整合性が取れないに決まっている。精神科医療は全然別のもの。とんでもない赤字になる」「目指す方向性が曖昧模糊としているので再編の話が、富谷と名取の地域おこしの話とこんがらがって訳わからなくなっている。個別の問題点を整理して進む方向を組み立てる作業がなされていない。管理職の医師は言うべき。特に公的病院の医師は」
県外からも疑問視される宮城の病院再編。目指すビジョンが定まらない中、構想は進められている。
宮城県の考え方は?
最後に、「なぜ4病院の再編が必要なのか」県の主な考え方は以下の通りだ。
①「施設の老朽化」
⇒例えば、県立精神医療センターは築42年が経過している。
②「仙台市内への病院集中」
⇒病院同士の競合によって経営が圧迫されているほか、仙台市周辺の市町への救急搬送に時間がかかる。また、仙台市に病院が集中していることから災害拠点に空白が生まれている点が課題とされている。
③「高齢化に対応した病床配置」
⇒今後高齢化がさらに進んでいくと手術などに必要な〝急性期〟のベッドが余っていく一方で、リハビリなどに必要な〝回復期〟の病床は足りなくなるという予測もある。
こうした課題を一気に解消できるのが4病院の再編だというのが県の構想となっている。