「懐かしい景色が戻ってきた」高さ最大9.7mの巨大防潮堤に描かれた“壁画” テーマは200年以上受け継がれてきた地域伝統の祭り<宮城・石巻市雄勝町>
宮城県石巻市雄勝町で行われている、東日本大震災後建設された最大高さ9.7mの防潮堤に「壁画」を描くプロジェクト。去年に続き、新たに壁に描かれたのは、震災や新型コロナの影響で消滅の危機となっている200年以上受け継がれてきた地域のお祭りだ。
■震災後作られた防潮堤に描かれた「壁画」
宮城県石巻市雄勝町。町の中心部に震災後建設された最大高さ9.7mの巨大な防潮堤。そこには去年から「壁画」が描かれている。10月22日、新たに完成した壁画の前で「雄勝壁画まつり」が開かれた。高所作業車から壁画を鑑賞することができたり、地元で獲れた海鮮が振舞われるなど、町の内外から訪れた多くの人で賑わった。
<雄勝町の住民>
「いいと思います、歓迎ですよ。描いてくれるから素敵な絵雄勝の発展になる」
「やっぱ嬉しいよね雄勝さこんなに人きてくれて」
■防潮堤に「新たな風景」を作る
壁画を制作したのは東京都の芸術家・安井鷹之介さん(30)
<芸術家・安井鷹之介さん>
「壁画が完成して、こうやってたくさんの人が集まってそれでようやく完成だと思うので、ほんと感慨深いそんな風景ですね」
12年前の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた雄勝町。町にあった住宅の約8割が津波で流された。震災後に建設された高さ最大9.7mの防潮堤。その存在は「命を守るため」作られた一方で、町のシンボルである海との隔たりともなった。
「住民の様々な想いを含んだ防潮堤に壁画を描き、新たな風景を作りたい」安井さんらは地元住民と協力し、防潮堤に壁画を描く「海岸線の美術館」プロジェクトを去年から行っている。これまで、リアス式海岸から生み出される雄勝の海の風景や、海に向かう漁師の背中の壁画を描いてきた。
■新たに制作する壁画のテーマは…200年以上続く伝統の祭り
10月初め、雄勝町にある名振地区。ほとんどの住民が漁業に携わる、人口60人ほどが暮らす小さな集落だ。地元住民から安井さんに、とある提案があった。
<芸術家・安井鷹之介さん>
「お神輿、火伏のお祭りの絵を描いたらと提案してくださった」
<名振地区で暮らす永沼秀和さん>
「あたかも震災前にやってた神輿が運行されてるような絵がみえれば、だいぶ心は明るくなるんじゃないですかね」
名振地区で毎年1月24日に行う200年以上にわたって受け継がれてきた火伏の祭り。1年の無病息災や大漁を願い、集落を山車が練り歩いた。その時々の社会問題などを面白おかしく“おもいつき”で演じる即興劇「おめつき」は、毎年多くの人が見物に訪れ、県の無形民俗文化財にも指定されている。
■完成した壁画を前に…「懐かしい風景が蘇った」
約3週間をかけて壁画が完成。10月下旬、名振地区に暮らす住民が、完成した壁画の前に集まった。新たに防潮堤に描かれたのは住民みんなで何日もかけて手作りしていた山車や、全身を使って山車を担ぐ男たちの姿。それは、ずっと昔から受け継がれてきた浜の景色である。絵を見ると、自然と思い出話に花が咲く。
<名振地区の住民>
「獅子頭が年とったなと思って。獅子のけつもってるのだれ?」
「うちの息子だと思ってね」
そして、急遽登場したのは祭りで使われていた太鼓。また一つ、懐かしい風景が浜に戻った瞬間だ。
海と町を隔てた巨大な防潮堤は、「海岸線の美術館」プロジェクトを通して、人と人とをつなぐ場所にもなった。
<名振地区で暮らす大和久男さん>
「防潮堤を作って、悪く言う人もいる。でもこういう風にして、結び付けてくれたのかなって思ってありがたいですよ。防潮堤があって、鷹之介くんがきて、それで完成する。どっちもなければだめなことで。」
住民の思いとともに、新しい景色をつくっていく。壁画制作2年目を経て、安井さんはこれからも壁画を描き続けていくという。
<芸術家・安井鷹之介さん>
「住民発信のアイデアで今回描かせてもらったってことを経験して来年から選択肢も増えますし、 より住んでる人との距離の近い壁画を書いていけたらいいのではないかと」