【解説】あらためて専門家に聞く…南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」の意味(静岡)
8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は運用開始以来初めて南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を発表しました。今回の地震と発表された情報の意味をあらためて専門家に聞きました。
今回、気象庁は、なぜ「南海トラフ臨時情報」を発表したのでしょうか?地震のメカニズムに詳しい常葉大学・阿部郁男教授に解説してもらいました。
(常葉大学 社会環境学部 阿部 郁男 教授)
「想定されている南海トラフ巨大地震は逆断層地震、私たちが住んでいる陸の下にはフィリピン海プレートというのがこのような形で下の方に潜り込んできます、この潜り込みによって陸のプレートが引っ張られて引っ張られてずっと歪みが溜まっているんですけどもその歪みが限界に達するとそれが陸のプレートに跳ね上がる、これが逆断層地震になります今回の宮崎沖の地震も逆断層地震、それが想定されている震源域の中で発生したことでこれはひょっとしたらこの後に巨大な地震につながっていくかもしれないので皆さんに地震に対する注意を呼びかけようと臨時情報 巨大地震注意が発表された」
阿部教授は、今回地震が起きた日向灘では、過去も周期的にマグニチュード7クラスの地震が起きていると指摘します。
(常葉大学 社会環境学部 阿部 郁男 教授)
「ではその地震が想定されているような南海トラフの巨大な地震につながったかとかというと、必ずしもそうではない。ところが一方、東日本大震災の2日前にやっぱり宮城県沖で地震が起きて、それが東日本大震災の巨大な地震の引き金になったという考えもある。巨大な地震に結び付く可能性がひょっとしたら通常よりは少しあるかも知れないということで、可能性が高まったという表現になっている」
「巨大地震注意」という気象庁の情報に対して私たちはどう対処すればいいのでしょうか?
(常葉大学 社会環境学部 阿部 郁男 教授)
「今回の地震がその後の巨大地震に繋がるか繋がらないかは、今の段階で判断したり予知したりは難しいですので、地震がいつ起きても大丈夫なように、常日頃している家具の固定や耐震対策、備蓄など日頃の備えを確認していただいて、もし足りないところがあったら、足りないところを準備するということが今必要なこと」
防災対策とあわせ、今後、気象庁から出される情報に注意が必要です。
(スタジオ解説)
(伊藤 薫平 キャスター)
ここからは、静岡大学防災総合センターの岩田孝仁特任教授に伺います。まず、実際に南海トラフ巨大地震が起きた場合、どのような被害が想定されているのでしょうか。県が想定する最大被害のケースですけれども、マグニチュード9.0で最大震度は7。そして死者は最大で10万5000人が想定されています。津波の到達時間ですが、5分以内に高さは、下田市31メートル、御前崎市は19メートル、岩田さん、これは大変な被害となりそうですね。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
数字だけ見ていただくともちろん大きいのですけれど、イメージしていただきたいのは、静岡県全域が、震度6強とか震度7に見舞われているということですね。それと静岡以外の例えば東海地域、場合によっては関西から四国まで大きな被害に見舞われる、要するに広域激甚災害なんですね。それと、津波も駿河湾を中心に数分で第一波が到達しているということと、中山間地域で非常にたくさんの土砂災害が発生している。本当に非常に激甚な災害が県内全域を襲うということで、ある意味、他からの救援が滞るといいうことも基本的に考えていただきたいです。
(伊藤 薫平 キャスター)
静岡県は孤立する可能性があるわけなんですが、今回は、南海トラフ地震の臨時情報・巨大地震注意というのが初めて発表されましたが、全体図を見ながら、発表された流れを説明していただけますか。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
先ほども解説がありましたけれども、8日に、宮崎県の沖合で、マグニチュード7.1の地震がありました。これはフィリピン海プレート全体のプレート境界に位置しているのかどうかということが議論になったんですね。いろいろ精査していくと、プレート境界の一部が破壊している。それが逆に言うと全域を引きずって破壊する可能性があるというので、今回巨大地震注意という形で臨時情報が出されました。
(伊藤 薫平 キャスター)
ここからは、文言を見ていきますが、マグニチュードによって変わってくるということですね。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
さらに大きな、例えばマグニチュード7クラスではなくて8クラスの、例えば断層が100キロメートルに及ぶような大きな地震の場合には、マグニチュード8クラスになります。そうすると、ある意味、フィリピン海プレート境界の全体のなかの半分くらいを破壊するんですね。そうしたクラスになると、残り半分が引きずられて破壊する可能性がありますから、その場合には巨大地震警戒という形で、さらに警戒を強める情報が出されます。
(伊藤 薫平 キャスター)
一方で、専門家の人たちが、調査を終えたという文言もあります。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
いずれにも該当しなかった場合には、これで調査を終了しますけれど、それで何もなかったというわけではなくて、本来の南海トラフ巨大地震の発生確率に戻ったということですね。
(伊藤 薫平 キャスター)
そして次です。皆さん心配になっていることがあると思いますが、気象庁は、発生の確率は「相対的に高まっている」と話しますが、実際はどれくらい高まっていると言えそうでしょうか。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
普段は、南海トラフ巨大地震の発生確率は、30年以内に70~80パーセントなのですが、それが、今回、7日以内に連動する可能性が数百回に1回程度。これ、実は難しいんです。どうイメージするかというと、普段に比べると、数倍確率が高まっている、リスクが高まっているという風に理解してください。
(伊藤 薫平 キャスター)
そういう意味で意識を高める必要があるんだと思いますが、地震への備えの再確認ということでみていきます。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
普段の対策をもう一度きちんと再確認をしていただいて、例えば家具の固定だとか、非常持ち出し品、こういったものがもし足りないとか、していないとかいうのであれば、きちんとチェックしていただいてしっかりやる、それから避難場所や避難経路をもう一度確認していただくとか、家族の安否の確認手段などももう一度再確認しておいていただきたい。特に例えば、非常持ち出し品だとか備蓄などもいろいろされていると思うのですが、例えば乳幼児がいる人、おむつだとか液体ミルクだとか、きちんと必要な分だけ備えておくとか、高齢者がいらっしゃると、高齢者用の非常食をきちんと備えておくとか、自分たちの家族の構成に合わせた準備を、この機会にもう一度きちんとチェックしていただければと思います。
(伊藤 薫平 キャスター)
ご家族で…といいますと、今のお盆の時期ですけれども、帰省中にしてほしいこととは。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
帰省したり、旅行に出たりしますが、その先のハザードマップをぜひ確認していただきたい。普段行っていない場所だとか行き慣れていない場所でどんな災害リスクがあるのか、安全な場所があるかどうかも確認してください。それと、帰省先で高齢の両親がいて、普段あまり対策していない場合がありますよね、そうした場合には、ぜひ一緒になって例えば家具の固定だとか、非常持ち出し品、備蓄の確認をしてぜひ準備を一緒にしてあげてほしいと思います。
(伊藤 薫平 キャスター)
そして最後ですが、巨大地震注意、これは1週間でこの呼びかけは終わるということになっているのですが、1週間以降の考え方は。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
1週間が過ぎて完全に安全になっているわけではないんです。制度上1週間で情報を解除しますけれど、通常の生活に戻りながらも、これまでやった対策を継続してもらいたいんです。それと、ハザードマップを確認して旅行に行くなどというのは生活の習慣にしていただければと思います。
(伊藤 薫平 キャスター)
津川アンカー、いかがですか。
(津川 祥吾アンカー)
岩田さん、もう一度確認なんですが、この1週間は、普段より一段高いレベルで注意、ということなのかなと思うのですが、これはこの間に今回の宮崎のような地震が無かったり、あるいは特別なデータの変化が無ければということで、何かあればまた状況は変わるということですね。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
何もなければ1週間でこの情報は終了しますけれども、もし途中で同じような地震がもう一回起きると、再評価します、その時点でもう一度、再スタートするという風に考えています。
(政治ジャーナリスト・元日本テレビ官邸キャップ 青山 和弘さん)
素人っぽい質問で失礼かもしれませんが、この南海トラフ地震が富士山の火山活動と連動する可能性というのはあるのでしょうか。
(静岡大学防災総合センター 岩田 孝仁 特任教授)
地下のマグマを、例えば刺激する地震が起きた場合、そうするとマグマの活動が活発になって噴火するという可能性は、決して否定できないんです。1707年の宝永の地震の時には49日後に実は富士山が大噴火をしているんです。ただ、安政の地震の時には特に富士山は活動していない、いろいろケースがあるという風に考えてください。
(伊藤 薫平 キャスター)
ここまで岩田さんにお話を伺いました。ありがとうございました。