選んだリアル・選ばないリアル「選択的夫婦別姓」札幌の夫婦の「考え」から見るニッポンのいま
衆議院選挙でも争点となる「選択的夫婦別姓」。
旧姓のままで結婚したいと事実婚を選んだカップルが札幌市にいます。
日本の法律では認められていない中、制度の導入を求める2人の思いとはー
(佐藤万奈さん)「お酒とってくれる?ありがとう」
(西清孝さん)「このくらいにしておく?」
(佐藤万奈さん)「そんなんでいいよ」
キッチンに立って一緒に料理をする2人。
札幌市の佐藤万奈さんと西清孝さんです。
職場の同僚だった2人は2019年に結婚。
佐藤さんは夫の求めもあって名字を「西」に変えました。
しかしー
(佐藤万奈さん)「“佐藤”ってありふれた名字だから、すごい思い入れがあってすごく気に入っているっていうわけではないけど、“西万奈”だとそれは彼の名字であって、私の名字ではないなって。改姓することに違和感を感じて」
「西万奈」として結婚生活を始めた佐藤さん。
職場だった病院では旧姓使用が認められず、息苦しさを感じたといいます。
(佐藤万奈さん)「そのときの直属の上司が、私が旧姓で働きたいって気持ちが分からなかったみたいで「きみはもう西だろ」「どうして旧姓にこだわる」って言われて」
上司に訴えても認めらず、名札やカルテの名前を「西」に変えられた佐藤さん。
自分らしさを失うことへの恐怖や喪失感から体調を崩し「適応障害」と診断されました。
(佐藤万奈さん)「本当に“佐藤”が無くなっていくと思って、これがアイデンティティーの喪失ってことなんだ。きょうはこれが気付いたら“西”になっているみたいな感じで」
(西清孝さん)「数か月ぐらい経ったあとに、妻の方から「あのときの名前変えてくれないって言われたことを恨んでいるよ」と言われて。そこでやっと初めて、恨まれるようなことをしてしまったんだと」
結婚からわずか9か月。
2人が出した答えは、いわゆる事実婚になる“ペーパー離婚”つまり、夫婦別姓という道を選択したのです。
そもそも、日本の法律では夫婦は同じ姓を名乗る必要があり、別姓は認められていません。
2人は2024年3月、夫婦別姓が認められないのは「婚姻の自由」を定めた憲法に違反するとして、国を相手に提訴しました。
(佐藤万奈さん)「選択的夫婦別姓があれば、結婚をもっと嬉しいと思えたと思う」
(西清孝さん)「迅速に選択的夫婦別姓が実現してほしい」
この制度をめぐっては「家族の絆が弱まる」「子どもの名字はどうするのか」と、世論も賛否が割れているのが現状です。
(“賛成”の20代)「(名字が変わって)結婚した感じがするって人もいれば、自分の名字がいいという人もいると思うので」
(“賛成”の20代)「個人の自由というか」
(“反対”の70代)「高齢の男性は特に保守的で、子どもが生まれたり孫が生まれたりしたときに(名字が)ぐちゃぐちゃになる」
一方、海外の人からはこんな意見もー
(台湾出身の30代)「(台湾は)普通に夫婦別姓はOKです。(日本は)強く反対する人はまだ大勢いるなと不思議に思います」
法務省などによりますと、結婚で姓を統一するよう法律で定めているのは世界でも日本のみ。
国際的に遅れをとっているのです。
2024年9月、NNNと読売新聞が実施した世論調査ではー
「いまの制度を維持」が20%。
「選択的夫婦別姓の導入」が28%。
最も多かった回答が「通称として結婚前の名字を使える機会の拡大」でした。
(百瀬記者)「STVの百瀬です」
(北海道医療大学 薬学部 藤﨑博子助教)「藤﨑と申します」
(百瀬記者)「この“藤﨑”という名字は、旧姓を使われているのですか」
(北海道医療大学 薬学部 藤﨑博子助教)「そうです。すべて旧姓を使っています」
北海道医療大学の教員・藤﨑博子さんです。
大学では20年前に結婚してから旧姓使用が認められていました。
(北海道医療大学 薬学部 藤﨑博子助教)「下の名前と名字の組み合わせを考えて両親がつけてくれたと思うと、旧姓も大事にしたいなと思いました」
旧姓と戸籍上の姓を使い分けてきましたが、不便さは感じていないといいます。
(北海道医療大学 経営企画部 宮川雄一人事課長)「職員名簿やメールアドレス、人事発令、給与賞与等の支払明細書は、職員の希望に応じて旧姓であれば旧姓で処理をしています」
旧姓使用を認めている企業は年々増加しています。
2010年におよそ50%だった旧姓使用は、2年前には80%を超えました。
進む「旧姓使用」と進まない「選択的夫婦別姓」。
専門家は、旧姓使用が拡大しても夫婦別姓の問題解決にはつながらないと指摘します。
(早稲田大学 法学学術院 棚村政行名誉教授)「人間らしく、自分らしく生きるという権利と関わっているので、戸籍上は名前を変えさせておいて事実上は(旧姓を)名乗ることは非常に便宜的なもので、本質的な問題解決を提供しているわけではない」
札幌市の佐藤万奈さんと西清孝さんです。
政府に対し、もっと議論を進めてほしいと訴えます。
(西清孝さん)「旧姓使用したい人というのは、夫婦同姓がいい人なんですよね。(私たちは)夫婦同姓のおかげで夫婦の絆が壊れかけたケースではあると思うんです。戸籍上の名前で人と人とのつながりが薄まるということはないと思います」
(佐藤万奈さん)「もちろん速やかに法改正してもらいたいんですけど、選択的夫婦別姓を改正して、旧姓使用ももちろんもっと拡充していったらいいと思うので、人権を尊重した政策を国は目指してやってもらえたらいいかなと思います」
一度は結婚するも旧姓を使うために離婚を選んだ2人。
佐藤さんにはもう一度やり直したいことがあります。
(佐藤万奈さん)「まずは婚姻届を楽しい気分で。私は悲しい気持ちで出したので、やり直したいです」
誰もが愛する人と自由に選択できる社会にー
2人はその日が来ると願って訴え続けます。