【特集】全国にファンを持つ長岡の名物 “松田ペットの看板” 500枚すべて手書きでわずかな違いも その魅力とは《新潟》
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新潟で“見かけたことがある”という人も多いのではないでしょうか?
画像は、新潟県長岡市のペットショップの“看板”です。全国にファンを持ち、いまや長岡の一つの名物ともなっています。たかが看板、されど看板。人々はこの看板を見て何を感じるのか、その魅力を探りました。
魅力はその表情にあるのか。
〈ファン〉
「明らかに異様な表情をしているというのが、引きつけられるところなのかなって」
あるいは、その物語にあるのか。
〈ファン〉
「街をアートに染めている、しかも40年かけて。それは誰かが真似しようと思っても絶対にできないことだと思う」
はたまた、その歴史にあるのか。
〈制作者:青柳謹一さん〉
「伝統芸じゃないけれども、その雰囲気を受け継ぐべきだと思っています」
2人の男たちが生み出した広告看板。しかしそれが、多くの人を魅了することになりました。
人間のような表情の犬……「松田ペット」の看板
東京出身で、10年ほど前に長岡市へ移住してきた新稲ずなさん(ペンネーム)。友人とのドライブ中に、日常の風景の見え方が変わりました。
〈新稲ずなさん〉
「東京から来た友だちが『さっきこの看板見たけど、手描きなの?さっき見た(別の)看板とちょっと違ったよね』と言われて。そこで初めて気がついたんですね、私も手描きであることに」
「そこから本当に手描きなのか確認するように探し始めたのが出会い。気になったきっかけです」
その看板というのが……。
〈新稲ずなさん〉
「ビーグル、チワワ、ヨークシャーテリアの3匹が人間のような表情でこちらに訴えかけてくる『松田ペット』の看板です」
約500枚の看板はすべて手描き!
長岡市のあちこちで、この看板を見かけます。社名と電話番号、緑・赤・青の背景に3匹の犬というシンプルなデザイン。
ペットショップの看板ですが、新稲さんはただの広告ではない魅力を秘めているといると話します。
〈新稲ずなさん〉
「ここは何か違和感に気づきますか?」
何かが違うかというと、ここの看板……。
〈記者〉
「真ん中が……」
〈新稲ずなさん〉
「そうなんです。真ん中がヨークシャーテリアのちょっとレアなパターンです。普通は赤のチワワが真ん中、ほとんどがそのパターン。特に意図して書いたわけではなく、なんとなくこうなってしまったということだそうです」
単体で見たときに生じた違和感。そしてその理由を考えれば考えるほど、看板の虜になったといいます。
〈新稲ずなさん〉
「チワワがセンターから落ちている。“アイドルチック”な考え方で、センター落ちしているということで、もしかしたらこの先チワワセンターじゃない時代がくるのかと思ったり」
長岡市を中心に500枚あるという看板はすべて手描き!だからこそ1枚として同じものがなく、わずかな違いを楽しめる「作品」になっているというのです。
看板の制作者は92歳
看板を掲げる店を訪ねました。
〈松田ペット 松田保夫社長〉
「私が創業者です。28歳のときに始めたんですよ」
松田保夫社長。80歳となった今も現役で、店に立ち続けます。1972年創業、ペットグッズの販売やトリミングも行っています。店内に飾られている看板は……
〈松田ペット 松田保夫社長〉
「これが一番古い金魚の時代。お父さんの給料が2万円のときに200円の金魚が売れていたんですよ。それで金魚の絵を描いた」
時代の流行に合わせて描く対象を変えてきた看板は、まさに店の歴史。
平成2年の2代目には、すでにビーグルとヨークシャーテリアが。4代目は現在とほぼ同じ構図になっています。
いまの看板は8代目。定着してからおよそ20年が経つといいます。
〈記者〉
「これは社長が書いたんですか?」
〈松田ペット 松田保夫社長〉
「ノーノーノーノー。これは近藤忠男といって、92歳の人が描いていた」
後を継いだ83歳の“絵描き”
近藤忠男さん、92歳。40年以上松田ペットの看板を描き続けてきましたが、自身の体調などを考慮して去年に引退しました。その後を継いだのが……。
青柳謹一さん、83歳です。
〈青柳謹一さん〉
「私は別に看板職人でもなければプロでもありません。絵を描くのがとにかく好きなもんで」
青柳さんは松田社長の古くからの友人で、会社員の傍ら趣味でロゴやキャラクターの公募で賞を獲得してきました。
この日は制作現場が特別に公開され、ファンが訪れました。
〈青柳謹一さん〉
「油絵を描くような感覚でやっております。明るい色から暗い色を描いたほうがいいですね、いま明るい色を塗っています」
「動物の目より人間の目をしていますよね。あり得ない表情をしているんですよ、はっきり言って。それが異様におもしろいんです」
〈ファン(大学生)〉
「『人間は顔の中で一番最初に目を見ちゃうんだよ』っていう説明を先生からされることが多くて。こんな少ない線でこのヤバイ目を描けるのはなかなかないと思います」
〈ファン〉
「『画竜点睛』って四字熟語にあるように、『目力』とか『目』を重点的に描く人が多いので。そういう意味では自然と見ちゃうのかな」
広告としてのインパクト十分なこの看板。商売をするうえで、松田社長が戦略的にこのデザインにしたのでしょうか。
〈松田ペット 松田保夫社長〉
「近藤さんに写真を見せて『描いてくれ』と言ったらこれを描いてきた。私は心得がないが、近藤さんが描いたのだから『じゃあこれをやる』ということで、あんまり深い意味はありません」
ファンからすると、この欲のなさも魅力だということです。
“松田ペットの看板”は世界へ
いまでは全国的にも有名になった松田ペットの看板ですが、そのきっかけをつくったのが新稲ずなさんでした。
〈新稲ずなさん〉
「長岡にこんなにおもしろい看板があるよ、そしてすごく枚数があるんだよと解説する本を簡単につくってみたところすごく反響がありまして。一瞬で売り切れてしまって」
学生時代から同人誌を作るのが好きだった新稲さん。松田ペットの看板のフォトブックを作ってイベントで販売したところ、関係者の目に留まり、カプセルトイを開発することに。これがきっかけの一つとなって、松田ペットの看板は全国的な知名度を得るようになりました。
〈新稲ずなさん〉
「成田空港のガチャガチャコーナーとかで外国人の方が回しているの見たりして。これは世界展開いけると思ったりしました」
外国人にも魅力が伝わると手応えをつかんだ新稲さん。いま、こんな野望を抱いています。
〈新稲ずなさん〉
「これってすごく貴重な現代アートだと私は思っているので。ゆくゆくはニューヨークの『近代美術館』に置いてほしいなという野望を持って広めています」
「松田ペットの看板は『越後のアンディウォーホル』だと私は言っているので、みなさんにも誇りをもって広めていただければと思います」
たかが看板、されど看板。
命を吹き込まれたような魅力あるその表情……見る人にとって忘れられない物語となっています。