【特集】台風19号災害から5年① 左官職人が奮闘 土壁修復を学ぶ(2)
お屋敷保存会の発足から3年、今年ついに、主屋の壁を修復するワークショップが実現。しかも、日本トップレベルの技術を誇る左官職人が指導するという贅沢な内容で、参加者の大半が県外から集まるという予想外の反響でした。
薪製造販売業
「古民家に興味があって自分でもちょっとやりたいなと」
左官見習い
「なかなかこういう現場に行くっていうこともないのでまだ見習いなんで。だからすごいすべて楽しみに来ました。」
画家
「フレスコ画で壁に絵を描いたりしてそんなことから壁に関心を持ちまして」
左官の世界でレジェンドとも評される小沼充さん。大津磨きと呼ばれる鏡のような光沢を出す技法の第一人者で、文化財の修復も手掛ける人物です。今回、後輩の職人とともに長沼にやってきました。講座は月に2日から3日、4か月かけて完成させる計画です。
6月には土を塗るための土台作り、7月は、そこに粘土とワラを混ぜた荒壁土を塗る作業です。ワラを入れるのは、ひび割れを減らして強度を上げるため。
「最初に塗った時に裏にどれぐらい出てんだろうってのを見たほうがいい。出すぎてても良くないので。抜けすぎるようであればワラ入れたいすね長いワラを」
基本的に何度か塗り重ねて作る土壁。
一番初めに塗りつける荒壁の作業は、かつて、それぞれの家が自分たちでやっていたといいます。
「自分でメンテナンスできれば最高ですもんね。要はきれいかきれいじゃないかの差だけで」
3回目の講座は、前回塗った荒壁の上に、少し細かい土とワラをつけて平らにしていく、中塗りの作業。
この日は地震の被害を受けた能登からの参加者も加わりました。
「石川県の七尾市から来ました。地震でまだまだ大変な時期続いてるかと思うんですけど。茅葺の屋根のおうちなので土壁とかを修繕を少しでも自分でやれたらいいなって思ったりもするんですけどこういう古民家をやってる方と繋がれることもいいなと思いました」
被災者のつながりもできた「左官塾」。そもそも開催にこぎつけた背景には、地元「お屋敷保存会」の熱意に加え東京の美術家、木村さんの存在が欠かせませんでした。
「被災をしました。古い建物が傷ついてます。でもなんかこう残したいっていう気持ちの人がいてそしてそれはなんで残したいのかとかそういう気持ちをいろいろ話を聞いてみると我々の気持ちと同じだなっていう。物があってそういう残したいっていう心を持った人がいれば我々も何か一緒にできるな」
長年 左官の文化を研究し、土を使った作品や左官で仕上げる建物も数多くデザインしてきました。知り合いからお屋敷保存会を紹介された木村さんが、その活動に共感。仕事仲間だったレジェンド職人の小沼さんにワークショップを持ちかけたのです
9月、最後の講座は仕上げの作業です。この日は参加者の作業と同時にプロの職人たちが、とっておきの技を披露しました。
昔は高級な蔵の扉に施すことが多かったという、黒漆喰の磨き。
柔らかく上品な印象の水ごねという仕上げ。
小沼さんが得意とする大津磨き。落ち着いた赤と、その上に透明感のある白をまだらに乗せた桜色。土壁とは思えない滑らかさです。
さらに、漆喰に絵を描く=フレスコ画家による、長沼の秋景色。美術家 木村さんも、千曲川の水面を鏝で描き、水害で被害を受けた土壁は、さながら左官の資料館のように生まれ変わりました。
「あの大津磨きを見れたのがほんと最高でした。僕もかえってちょっとやりたいな。」「地震で落ちた土壁とかを水でもどして穴を塞いだりとかそういうので自分ちも自分でできるようにしたいなと」
お屋敷保存会 天利一歩会長
「なかなか数年間修復する作業ができなかった。ほんとに自分にできるのかと言われてるような気がして。たしかにおれはまだ何もやってないぞっていう何かやらなきゃなという思いはいたんですけど。まだまだ全然直ってないですけどすごく建物が喜んでくれ…建物がお施主さんみたいな。」
お屋敷保存会理事 太田秋夫さん
「地域の人たちにとっても米澤邸が一つの地域の財産にもなってるんだっていうことを理解してもらえるような方向にこれから行く。そして復興の一つのシンボルにもなっていくであろうというふうに思います」
将来的には、伝統建築や防災、長沼の歴史が学べる場になることを目指しています。
水害から5年、地域の歴史的な建物はまだ、修復の途中です。