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記録的な大雨で亡くなった新庄署の2人の警察官 当時何が… ライフジャケット着用大雨時の規定はなし

2024年8月8日 18:09
記録的な大雨で亡くなった新庄署の2人の警察官 当時何が… ライフジャケット着用大雨時の規定はなし

緊急報告・豪雨被害の現場から。最終回は、今回の記録的な大雨により、2人の警察官が亡くなった事故に焦点を当てます。当時2人に何が起こっていたのか、丹野貴雄記者の報告です。

7月25日夜、新庄市の住民が撮影した映像です。大雨特別警報が出されていたこの豪雨のさなか、悲劇は起きました。

空撮実況「パトカーが完全に裏返っています」
鈴木邦夫県警本部長「痛恨の極みです。全力を挙げて捜索活動をしているところです」

新庄市本合海で救助要請への対応に向かったパトカーが増水した川に飲み込まれ、2人の警察官が行方不明になりました。懸命な捜索活動もむなしくー

記者リポート「午後3時すぎです。安否の分からない方でしょうか。ビニールシートに覆われ運ばれていきます」

死亡が確認されたのは新庄警察署真室川駐在所に勤務する当時巡査長の玉谷凌太さん(26)。そして新庄警察署交通課で当時巡査部長の佐藤颯哉さん(29)。
警察などへの取材で25日から翌日(26日)にかけての2人の動きが少しずつ明らかになってきました。
25日午後1時、大雨への対応に備え県警察は災害本部を設置。県内ほぼすべての警察署に災害警備連絡室が設置されました。新庄警察署ではほぼ全署態勢の約70人で災害対応にあたりました。
真室川駐在所勤務の玉谷さんも応援として新庄警察署管内の災害対応を担当することになりました。
午後8時ごろ、玉谷さんと佐藤さんの2人は大蔵村を中心に被害状況を確認するため、新庄警察署をパトカーで出発し、パトロールにあたりました。午後11時23分、新庄市本合海の新田川に架かる福田山橋付近にいた市内の43歳の男性から「車が流された」と救助を求める110番通報が入ります。この救助要請に対応するため2人は現場に向かいます。当時、2人はライフジャケットは所持していませんでした。午後11時43分、現場に到着した玉谷さんの携帯電話から110番通報が入ります。

玉谷さん「パトカーごと流されている」

濁流の音にかき消され45秒の通話時間のうちで通信指令室が確認できたのはこの一言だけだったといいます。
玉谷さんの110番通報からおよそ20分後の翌26日午前0時4分。ライフジャケットを持たずに急行した2人に届けるため、およそ10着のジャケットを持って、1人の警察官が車で新庄署を出発。午前0時12分、今度は佐藤さんから110番通報が入ります。

佐藤さん「パトカーから出たが流されている」

通話時間は46秒、この通話を最後に2人とは音信不通となりました。佐藤さんからの110番通報の1分後、ライフジャケットを届けようと出発した警察官から「土砂崩れの影響で現場に到着できない」と連絡が入ります。
流された2人とは合流することができませんでした。
その後、午前0時33分。土砂崩れ現場を迂回して現場に駆け付けた消防の救急隊は、救助要請をした男性のもとに到着。男性を無事救助しました。
午前2時15分、そばの車の上で救助を待っていたほかの男性も救助されました。
そして、午前5時35分と39分にもそれぞれ男性1人が救助されました。救助された4人は全員無事でした。

記者リポート「新庄市本合海です。警察車両が逆さまになっています。その横では懸命な捜索活動が行われている」

警察や消防の捜索により、玉谷さんは26日午後、福田山橋から下流に400メートルほど流された場所で発見。佐藤さんは行方不明となってから3日後の28日午前、福田山橋から1.7キロ下流で発見。2人はいずれも死亡が確認され、死因は溺死でした。

記者リポート「警察官2人が流された道路です。現在も全面通行止めとなっています。道路の奥の方、谷になっている部分。田んぼの中にまだ車が残されています」

現場付近の住民は想定外の増水だったと振り返ります。

住民「雷が鳴って雨が降っていた。 そろそろ冠水するだろうなって話してたら、朝起きたらアウトだった」
住民「現場は大蔵村の幹線道路。今まで新田川の 堤防が作られてからこんなことはなかった」
住民「警察官2人が亡くなった。氾濫は想定外だったから、どうしようもできなかった。気の毒でならない」「かわいそう、20代で」

県警では通常、各市町村で作成しているハザードマップなどをもとに管内の危険箇所を把握するよう警察官に指導しているとしています。
一方、新庄市によりますと、今回2人が死亡した新田川周辺の浸水危険度などは「調査中」だったため、市のハザードマップには記載できていなかったということです。
こうした中、2人が所持していなかったライフジャケットについて、県警察では1389人の警察官に対しほぼ半数の678着の配備にとどまっていたことが明らかになりました。

鈴木邦夫県警本部長「県内でライフジャケットの配備数は678着。今ご指摘のあったライフジャケットの整備については重要な問題だと思っている。今後、補正予算等で予算要求をすることも検討する」

加賀正和県議「警察官の命を守らなければ。自分たちの命を守って、県民の命を守るのが大事なこと。装備ないのに行ってこいと言われても。そんなことのないような状況をぜひ県の財政とも話をしてこの機に対応してほしい」

山形県警の安全管理の規定では、ライフジャケットの着用は津波警報や大津波警報の発表時に現場に向かう警察官が着用することとなっていて、河川の氾濫や増水のケースは想定されていませんでした。
県警は今回の事故を受け、安全管理の規定についても再検討する方針です。

松村祥史国家公安委員長「今回の事案発生に至る経緯について、今後山形県警察において確認を行うと承知している。その結果を踏まえ、安全に万全を期するよう、今後警察を指導していく」

2人の警察官が死亡するという事態を受け、県警察の当時の安全管理について問う声が国からも挙がっています。
今回のような悲劇が2度と起こらないようにするためにも、県警察には当時の対応の検証に真剣に取り組み、命を守る安全対策に迅速に取り組んでいくことが求められます。

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