×

【独自解説】2040年には高齢者の3人に1人が認知症?軽度認知障害なら健常な状態に戻る可能性も!期待の「ガンマ波サウンド」とは?原因と最新予防を“認知症研究の世界的権威”が徹底解説

2024年7月31日 17:00
【独自解説】2040年には高齢者の3人に1人が認知症?軽度認知障害なら健常な状態に戻る可能性も!期待の「ガンマ波サウンド」とは?原因と最新予防を“認知症研究の世界的権威”が徹底解説
認知症の原因と最新予防を徹底解説

 2040年には、高齢者の3人に1人が認知症もしくはその予備軍になると言われています。認知症の進行を抑えるためにはどうしたらいいのか?さらに、認知症改善効果が期待されるという「ガンマ波サウンド」とは?認知症研究の世界的権威、アルツクリニック東京の新井平伊医師が解説します。

高齢者の3人に1人が認知症に!軽度認知障害の段階での発見が大事

 新井平伊医師は1999年、日本で初めての「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設し、2019年からアルツクリニック東京院長を務めています。主な著書に「脳寿命を延ばす認知症にならない18の方法」・「アルツハイマー病のことがわかる本」「認知症と共に輝く日々をめざして」などがあり、「アルツハイマー病研究者の世界トップ100」の38位に選出されています。これは日本人のなかでは1位となります。

 厚労省が出した推計では、2022年は認知症の高齢者が約443万人、MCIという軽度認知障害(認知症予備軍)が559万人で合わせて1002万人ですが、年々徐々に増加していき、2040年には合わせて計1197万人で、65歳以上の約3人に1人が認知症、もしくはその予備軍になると予想されています。

Q.長寿社会になったので高齢者の3人に1人が認知症やその予備軍になるというのは避けられないのでしょうか?
(アルツクリニック東京院長・新井平伊医師)
「老化現象に伴って認知症やその予備軍は増えていると思います」

Q. MCI・軽度認知障害というのは具体的にどんな症状なんでしょうか?
(新井医師)
「認知症の前の段階をいかに見つけるか、予防をどうするかということで、このMCIが重要になってきます。その症状を具体的に言うと、物忘れは若干ある。周りの人からも少し物忘れがあるかなと思われるぐらいなのですが、生活自体は自立していて、仕事もできる状態です」

Q.このMCIの治療が重要になってくるわけですか?
(新井医師)
「その通りです」

 認知症の種類ですが、よく耳にするアルツハイマー病が一番多く67.6%となっています。それ以外にも血管性認知症などがあります。アルツハイマー病は、脳内にたんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」がたまり、脳の神経を壊し認知機能に支障が出る病気です。

Q. 「アミロイドβ」は老化によってたまるのですか?
(新井医師)
「もともと正常にある神経細胞の膜のたんぱく質で普通は代謝されて血液中に流れ出すのですが、アルツハイマー病の場合なぜかわからないのですが、アミロイドβが溶け出さないで固まって神経細胞に害を与えるのが特徴です。もともとあるのですが、神経毒として作用するのが不思議なところです」

Q.アミロイドβを血液中に流す治療法ができたらアルツハイマー病は改善する可能性があるのでしょうか?
(新井医師)
「2023年に日本で承認された新治療薬ができています」

 アルツハイマー病治療薬として「レカネマブ」という薬が2023年12月から販売されています。対象は早期の症状や18歳~65歳の若年性認知症で、症状を治すのではなく進行を遅らせるものです。症状悪化を27%抑制し、平均約3年進行を遅らせるといいます。点滴での投与を2週間に1度・原則1年半の間行います。副作用として脳の部分的なむくみと小さな出血が現れることがあるそうです。投与開始後は2か月に1度程度MRI 検査をする必要があります。価格は年間約298万円と高価ですが、高額医療制度対象の場合、年間14万4000円・月額1万2000円の負担で済みます。

Q.治すのではなく進行を遅らせる薬ですか?
(新井医師)
「この、アミロイドβを減らすというのは、例えて言うと、火事の時に火元を火が広がらないうちに消すということです。広がってしまっては火元を消しても追いつかないわけです。なので症状が軽いうち、特に前段階のときにアミロイドβを減らすことにより進行を遅らせることが期待されています」

 7月4日、警察庁が発表したものによると、警察庁に届け出があった認知症の行方不明者が、2023年は1万9039人と過去最多となりました。

Q.夕方になると徘徊する 人は、生まれ育った実家に帰ろうとしていると聞いたことがあるのですが?
(新井医師)
「広くいうと『夕暮れ症候群』といいますが、我々でも暗くなると何となく憂鬱になるし、もの寂しくなりますよね。高齢者もそうです。記憶というのは昔の、生まれた家の記憶や小さい頃の思い出が一番ありありと残っているので『おうちに帰りたい』というのはよくあるんです」

もの忘れと違い「生活に支障がある」と認知症?

「認知症」とは、様々な脳の病気により認知機能(記憶・判断力)などが低下して社会生活に支障をきたす状態です。家族や周りが気付けるサインとしては、・もの忘れが増えてきた・趣味に興味なし・外出しない・お金を数えられない・賞味期限を過ぎる・同じものを買う などが挙げられます。

 加齢によるものとの違いです。「何を食べたか忘れる」のは加齢によるものですが、「食べたこと自体を忘れる」のは認知症です。「もの忘れの自覚がある」のは大丈夫ですが「もの忘れの自覚がない」のは認知症です。また、「ヒントを与えられると思い出せる」のは加齢によるもの忘れですが、「ヒントを与えられても思い出せない」のは認知症です。「日常生活に支障がない」のは問題ありませんが「日常生活に支障がある」と認知症です。新井医師によると、「頻度・程度・範囲の見極めが重要」で「65歳未満で発症する『若年性認知症』もあり、誰でもなる可能性がある。早期発見が重要」だということです。

Q.「最近物忘れがひどいな」と自覚があるうちは認知症は大丈夫なんですね?
(新井医師)
「誰でも、もの忘れはあります。忙しい人や寝不足の人でも絶対ありますので、もの忘れだけで認知症だと思う必要は全くありません。ただ、頻度・程度・範囲と書きましたが、私も人の名前を覚えるのが苦手なんです。その苦手なものがあるのはそれ自体で認知症ではないのですが、その頻度が増えてくる。大事な約束を忘れるなど程度が重くなる。物忘れ以外に言葉や計算、歩き方など他の要素が加わった場合、変化が今までと違うことが大事です」

認知症の進行を抑えるのは生活習慣の改善 前段階のうちなら健常に戻ることも

 新井医師は、「認知症を完全に治す薬はない。しかし、最新の研究から進行を抑えることは可能になった」といいます。

 認知症の適切な予防は、まずは生活習慣病を予防することです。45~64歳の中年期に、肥満・高血圧・脂質異常症・糖尿病などになると、認知症の危険が高まります。また、食事を楽しめるように「変化」をつけることが大事だといいます。旬の食材を使って・彩り・温かいもの冷たいもの・和洋中など変化に富む食事を楽しむことが認知症予防として有効だとのことです。運動も、定期的に体を動かすことが大事で、運動習慣のない人は、ある人に比べて認知症になるリスクが1.82倍高くなるといいます。理想は、1時間以上の運動を週3回以上ですが、散歩程度でも認知症になるリスクが減らせるということです。さらに、速めのウォーキングやサイクリング、ダンスといった中強度以上の運動(息が少し弾むが話はできる程度)で、認知機能の改善が期待できます。

 また、軽度~中等度の認知障害の人を対象にした研究では、「麻雀」を週2回、1日1時間、約3か月間行うことで、認知機能や短期記憶の維持に効果が見られたとの報告もあります。しかし、長期的な効果は不明となっています。そして、仕事を辞める年齢が1歳高くなるごとに認知症のリスクが3%低下するといいます。たとえ仕事を辞めたとしても、楽器や読書、登山など、楽しめる活動・生きがいに取り組むことが認知症の予防になります。

Q.頭を使って考えるということが大事なのでしょうか?
(新井医師)
「考えることは素晴らしいです。麻雀の例もありましたが、麻雀は自分だけでするものではなく、相手の手を読んで、今までの経験を全部思い出して、前頭葉の推理や判断、決断の領域をフルに使うので予防につながります」

Q.高齢になって恋をするというのは予防になりますか?
(新井医師)
「それが良いストレスになるように働けば、脳の活性化になりますので、いい刺激になって、生きていく上で楽しみができるのはとても脳に素晴らしいことだと思います。それが恋愛だろうと趣味だろうと“やりがい”というのはいいことです」

Q.ずっとしゃべるのはどうなんでしょう?
(新井医師)
「しゃべるのは素晴らしいことです。しゃべるのは自分のなかで過去の経験を思い出して、判断して、決断することを瞬時に行います。会話というのは人類にとって他の動物と違って一番発達した脳の機能ですからそれをフルに使うのはいいことです。日常生活の中で会話が弾むというのは認知症の予防につながると思います」

 国の研究機関が発表している「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」によると、認知症の前段階である「MCI=軽度認知障害」は、何もしないと「認知症」に進む人が1年で5~15%いましたが、一方で、いろいろ予防に取り組むと「MCI」から「健常な状態」に戻った人が約16~41%いたというデータがあります。

Q.「MCI=軽度認知障害」の場合は健常な状態に戻れるのですか?
(新井医師)
「昔は早期発見で、認知症を早く見つけようということでしたが、今は早期予見でMCIのところで認知症になりやすい人を見つけようということです」

 認知症を予防する適正な睡眠時間の目安ですが、成人は6時間以上を推奨しており、睡眠時間が短いと認知症などのリスクが高くなると言います。一方、高齢者は、寝室にいる時間が8時間以上にならないようにとされています。長時間の睡眠でアルツハイマー病の発症リスクが高くなるといいます。

Q.高齢者が寝室に長くいるのは良くないということですか?
(新井医師)
「高齢者に限らず中年期でも同じなんですが、昼と夜のリズム、覚醒と睡眠のリズムを作るのが大事で、どうしても寝室で長く過ごすと昼の時間が短くなったり無為に過ごしてしまうということになります」

原因物質「アミロイドβ」を低減させると期待「ガンマ波サウンド」

 いま、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」を低減させると期待されているのが、「ガンマ波サウンド」です。『ガンマ波』とは、集中したりものを考えたりするときに発生する脳波の一種で、認知症のように認知機能が低下した人の場合は、ガンマ波が少ないとされています。しかし、『ガンマ波サウンド』を流し、脳にガンマ波を発生させることでアルツハイマー病の原因物質の減少、認知機能障害の改善などが期待できるとされています。

Q.「この『ガンマ波サウンド』というのは期待されているのですか?
(新井医師)
「アメリカ・マサチューセッツ工科大の世紀の大発見です。外から音の刺激を与えると神経細胞が反応して活動するというのを発見したんです。追試はまだ十分されていないのですが非常に期待されています。動物実験で『アミロイドβ』が減っているというデータも出ています。マサチューセッツ工科大ではヒトでも海馬の萎縮が少し遅れるというようなデータも出しています」

 新井医師は、「認知症の介護は突然やってくる。介護者によっては急激な生活の変化、金銭的・時間的な負担が原因で“介護疲れ”を感じることも珍しくない。最悪の場合“介護うつ”を発症して共倒れとなる可能性も…」と指摘しています。介護疲れを感じたら、まずは、地域包括支援センターに相談、そして認知症疾患医療センターに相談しましょう。また、介護施設への入居を検討して介護サービス等の利用もして抱え込まないでください。


(「情報ライブミヤネ屋」2024年7月25日放送)

    読売テレビのニュース