【特集】約1万7000人に1人が発症するとされる、目の小児がん『網膜芽細胞腫』で視力を失った4歳の娘に“彩り”を― 「やりたい夢は叶えられる」“光”を探して困難を乗り越えていく、母の思いと家族の絆に密着
幼くして病気で視力を失った我が子のために、絵を描き続ける女性がいます。母・絢子さんが娘たちに伝えるのは、「見えなくてもやりたいことは何でもできる」「夢は叶えられる」ということ。家族と共に苦労を乗り越える絢子さんの新たな挑戦とは…。“光”を探して前に進む家族に密着しました。
※年齢は放送当時のものです。
■母の教えで何事にもチャレンジ。目はまったく見えなくても、好奇心旺盛な元気で明るい佳純ちゃん(4)。
(小原佳純ちゃん)
「おはようございます!」
大きな声で周りの人を元気にさせる挨拶。4歳の小原佳純ちゃんは、好奇心旺盛で活発な女の子です。
ですが、目が全く見えません―。
お母さん・お父さん・お姉ちゃんとの4人暮らし。体を動かすことが大好きで、何事にもチャレンジするのは母・絢子さんの教えです。
この日、佳純ちゃんはお母さんに教えてもらいながら、『缶ぽっくり』に挑戦していました。
(佳純ちゃんの母・絢子さん)
「歩いてみ?紐引っ張らな歩かれへん」
(佳純ちゃん)
「下は?」
自分が缶の上に乗ったことで、缶の下がどうなっているのか不安になっているのでしょうか。
(絢子さん)
「触ってみ?土やから」
(佳純ちゃん)
「うん」
缶の下を手で確認し安心したのか、しっかり紐を持って歩き始めました。
(絢子さん)
「OK?上手上手」
■「目が透き通っているように見えた」 約1万7000人に1人が発症する目の小児がん『網膜芽細胞腫』
母・絢子さんが異変に気付いたのは、佳純ちゃんが1歳4か月のときでした。
(絢子さん)
「おむつを夕日が若干当たるぐらいのところで変えていたら、目が透き通っているように見えたんです、最初。見ていたら充血しているし、白く見えるし、血走っていて、なんか嫌な予感がしたので、すぐ病院行ってくるといって、地元の眼科に行ったら『悪性腫瘍です』と言われて…」
診断は、『網膜芽細胞腫』。約1万7000人に1人が発症するとされる、目の小児がんです。中でも佳純ちゃんの場合、両目にがんができる稀なケースでした。
(絢子さん)
「まさかって感じでびっくりしてすごく泣いて、眼科の看護師さんに背中をさすってもらった覚えがあります」
約3年間にわたる闘病生活の末、佳純ちゃんの両目を摘出する決断をしました。
■自分の支えになった「絵」を、今度は娘にも― 障害があっても色んな事にチャレンジする大切さを伝え続ける、母の想い
我が子が視力を失い、将来への不安と戦う中で、絢子さんを支えたものがあります。
幼いころから好きだった、絵を描くことです。
(絢子さん)
「すごくショックで夜も寝られなくなって、その中で絵を描いたりして、自分と向き合って描くことで、病気もだんだんと受け入れられるようになった」
『娘はきっと大丈夫』―。小さな病室で、願いを込めて、眠れない夜も佳純ちゃんの隣で描き続けました。
(絢子さん)
「色鮮やかな感じの、希望にあふれた絵を書いていました。『絶対よくなる』って自分に言い聞かせるじゃないですけど…」
しかし、佳純ちゃんにはもう、自分の絵を見てもらうことはできません。
そこで作ったのが『触れる絵』です。美しい色合いはそのままに、粘土で立体感をつけました。
立体部分の輪郭をなぞりながら形を確かめていく佳純ちゃん。
(佳純ちゃん)
「これは?イルカ!」
(絢子さん)
「そう、よくわかったね」
(佳純ちゃん)
「これは?」
(絢子さん)
「これは地球」
手をくねくね動かし、イルカの泳ぎ方まで想像して表現します。
(佳純ちゃん)
「(イルカ)こんな感じかな」
(絢子さん)
「どうやって泳ぐのかな?」
(佳純ちゃん)
「こうして泳ぐんやで」
絢子さんは、娘には障害に負けず、色んな事にチャレンジする大切さをいつも伝えているといいます。
(絢子さん)
「佳純ちゃん、いろんな人に『かわいそう』って言われることあるかもしれないけど、そんなの関係なく、幸せになったらいいと思うよ」
(佳純ちゃん)
「誰がかわいそうなん?」
(絢子さん)
「『お目目見えなくてかわいそう』って言われることもあると思う。でもそういう時は、『私は見えなくても関係なく何でもできます』って言ってさ、『元気いっぱいです』って幸せになったらいいと思う」
佳純ちゃんの夢はイルカと泳ぐことです。2024年には、水泳を習い始めました。
(佳純ちゃん)
「楽しい!イルカさんと泳ぎたい!」
■病気の佳純ちゃんを支えるだけでなく、もう一つ大事なことは…闘病生活で気づいた母・絢子さんの新たな挑戦―
長い闘病生活を乗り越えた家族ですが、絢子さんも、あることに挑戦しようとしていました。
それは絵本作りです。
(絢子さん)
「ほぼ実話に基づいていて、小児がんの子どもが主人公ではなく、預けられて寂しい思いをしていたきょうだいを主人公に描いています」
きょうだいのケアも忘れてほしくないという思いから描いているのだといいます。
佳純ちゃんの1つ上の姉、蒼生ちゃん。子どもが入院すると、親も一緒に『付き添い入院』をするため、残されたきょうだいは、寂しい思いをすることも少なくありません。佳純ちゃんが入院している間、蒼生ちゃんはおじいちゃんとおばあちゃんの家に預けられていました。
(絢子さんが書いた絵本より抜粋)
―「なんでお母さんもお父さんもいないの お父さんとお母さんと妹に会いたいよ」
その日の夜 お姉ちゃんはえんえん泣きました―
この日、遊んでいたブランコから勢いよく飛び降りた蒼生ちゃん。これには絢子さんも思わず声を上げます。
(絢子さん)
「あかんって言ったでしょ!あかんって言ったやん。なんでやるの?危ないからだめ」
注意されて思わずお母さんに抱きつく蒼生ちゃん。甘えたい盛りにも関わらず、我慢してきました―。
(佳純ちゃん)
「お姉ちゃん、大丈夫?お姉ちゃん、どこなん?」
心配して手探りで姉を探す佳純ちゃん。そんな妹の手を、何も言わずそっと握る蒼生ちゃん―。それぞれつらい経験を乗り越えて、かけがえのない存在になりました。
お母さんが描いた絵本には、娘2人への思いが綴られています。
(絢子さんが書いた絵本より抜粋)
―お母さんは お姉ちゃんを抱きしめました
「お姉ちゃん 本当にありがとう 2人はお母さんの宝物だよ 2人とも本当に大好きだよ」―
■「自分の背中を娘に見てほしい」絵本と小児がんを知ってもらうため、活動を続ける絢子さんが、いま伝えたいこと
絵本と小児がんについて知ってもらうため、絢子さんは様々な場で発信しています。この日はラジオに出演していました。
(絢子さん)
「娘も、自分のなりたいこと、やりたい夢っていうのを、簡単にかなえられるんやでっていうのを私は自分の背中を娘に見てほしいなって。だから活動していこうかなと思っています」
はじめは絶望の淵にいた絢子さん。視力を失っても、変わらず明るい佳純ちゃんに背中を押されてきました。
(絢子さん)
「病気じゃないお子さんでも、子どものことで悩んでいる方っていると思うんですけど、けがをしたらどうしようとか、危なっかしいなとか、どんな病気になるか、わからないとかあると思うんですけど、どういう結果になっても、そのことを受け入れて認めてあげるっていう覚悟が、親には必要なのかなと思っています」
■娘たちがやりたいこと、なりたいもの、全部かなえられる夢のために― 家族で描く未来
病気の子どもの夢をかなえる団体のサポートを受け、佳純ちゃんの念願であるイルカと泳ぐ日がやってきました。
(佳純ちゃん)
「さっきさ、(イルカが)佳純ちゃんの足に口つけとった」
(スタッフ)
「チュッてしてきた?」
いよいよ佳純ちゃんの泳ぐ番です。
(蒼生ちゃん)
「頑張って佳純ちゃん。できると思ったら大丈夫だから」
まずはスタッフと一緒にイルカの背ビレにつかまり、ゆっくり泳いでいきます。
(スタッフ)
「ここ(背ビレ)をぎゅっと持っといてね」
スタッフがそっと手を離し、いつの間にか一人でイルカにつかまり泳ぐ佳純ちゃん。
(スタッフ)
「今1人で泳いでたね!」
(佳純ちゃん)
「うん」
その後、蒼生ちゃんも一緒にイルカと泳ぐことに。とても楽しそうな2人の娘を見つめ、絢子さんも思わず笑顔に―。
(蒼生ちゃん)
「佳純ちゃん!楽しい!」
(佳純ちゃん)
「ありがとう!」
娘たちがやりたいこと、なりたいもの―。全部かなえられる夢いっぱいのこれからのために、家族みんなで明るい未来を描いていきます。
(「かんさん情報ネットten.」2024年7月30日放送)