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【独自解説】命令ナシで人を動かす⁉ノーベル賞受賞の“現代の魔法”『ナッジ理論』 言うことを聞かない夫、買い過ぎちゃう私、片付けない子ども…ダメな自分・家族を変えられるマル秘テクを第一人者が紹介!

2025年1月26日 12:00
【独自解説】命令ナシで人を動かす⁉ノーベル賞受賞の“現代の魔法”『ナッジ理論』 言うことを聞かない夫、買い過ぎちゃう私、片付けない子ども…ダメな自分・家族を変えられるマル秘テクを第一人者が紹介!
『ナッジ』を活用して理想の自分に!

 つい行動したくなるように仕組みや環境を整え、人間の心理に訴えかける『ナッジ』。自宅で実践できる効果絶大のアイデアナッジ、そして自分や家族を動かすマル秘ナッジとは?今回は、“ナッジ研究”の第一人者・竹林正樹博士完全監修で、目から鱗のなるほどナッジを大特集!日常生活にあふれるナッジに、あなたはお気付きだろうか―。

■ノーベル経済学賞を受賞した凄い理論『ナッジ研究』の第一人者が徹底解説

 ナッジ(NUDGE)とは、「軽くつつく」「そっと後押し」という意味です。2008年、アメリカの経済学者リチャード・セイラー教授らが「人を動かす方法」を提唱。セイラー教授は2017年、ノーベル経済学賞を受賞しています。

 今回、この「わかっているが行動できない人を望ましい行動に促す手法」をやさしく解説するのは、ナッジ研究の第一人者である『青森大学』客員教授・竹林正樹博士です。

 竹林博士は『ナッジ理論』のスペシャリストで、主な研究テーマは、行動経済学(ナッジ)を用いて「わかっていても健康行動できない人」を動かすこと。環境省や経産省などの省庁や自治体・企業に、『ナッジ理論』に基づき助言しています。

Q.『ナッジ』は心理学のように思えるのですが、経済学なのですか?
(『青森大学』客員教授・竹林正樹博士)
「経済学とは、どうすると人の満足度が高まるのか、幸せにしていくのかを追求する学問です。昔は、『お金を持っているほど幸せ』と簡単に計算できていましたが、今はいろんな解釈・尺度が開発され、お金以外にも幸せの要素が明らかになり、心理学的要素が重視されるようになってきました。私もここ20年ぐらいはお金を使わずに、どうすると満足する行動ができるのかという、満足度の研究をしています」

■トイレ、スーパー、飲食店…あなたも見たことがあるはず!日常生活に潜む『ナッジ』のカラクリ

 実は、『ナッジ』は身近にあります。東京・八王子市では、前年度大腸がん検診を受診した人に“検査キット”を自動送付していましたが、実際の受診者は7割程度でした。これを何とかしようと、2016年に2種類の「はがきの文言」で受診率を比較実験しました。

 まず、検査キットを送付した人のうち未受診の人をA・Bの2つのグループに分けます。

 Aグループには、「今年度、大腸がん検診を受診された方には、来年度、『大腸がん検査キット』をご自宅へお送りします」と『得』をアピール。

 Bグループには、「今年度、大腸がん検診を受診されないと、来年度、ご自宅へ『大腸がん検査キット』をお送りすることができません」と『損』をアピールしました。

 どちらも言っていることは同じですが、受診率はAが22.7%・Bが29.9%と、「送れません」としたほうが高かったということです。これは、“損失を回避したい”という思いが働いたとみられ、2018年度『ベストナッジ賞』を受賞しました。

 八王子市・成人健診課の田島宏昭課長は、「今でもB案を使用している。他にも理論を活用できるものがあれば、取り入れるようにしている」と話しています。

Q.損をする気持ちになると、人間は動くということですか?
(竹林博士)
「例えば、省エネもそうです。『100円得します』と言ってもなかなか始めませんが、『あなたの財布から100円なくなっていきます』と言われると、急にグサッと刺さります。ノーベル賞の受賞理論でも、100円を手にする喜びよりも100円を失うほうが、2.5倍ぐらい強いインパクトがあるということです」

 このように、私たちも知らず知らずのうちに、『ナッジ』で行動を起こしていることがあります。例えばトイレにある「キレイに使用いただき、ありがとうございます」といった貼り紙や、男子トイレの便器の“的”も『ナッジ』です。

(竹林博士)
「『キレイに使用してください』と書いてあっても、なかなかキレイに使いません。しかし的があると、我々には『射撃欲求』があるので、狙いたくなります。逆に言うと、それ以外は狙いたくない。我々の本能が、的を狙ったら外したくないのです」

Q.「一歩前へ」みたいな貼り紙もありますが、それよりも「キレイに使用いただきありがとうございます」のほうが効くんですか?
(竹林博士)
「人にもよりますが、『前に一歩出てください』も明確な指示で良いんですけど、それでも一歩出ない人には『キレイに使用いただきありがとうございます』と言うと、『みんながキレイに使っているんだから、自分一人が汚して、その“美しいリレー”を途切れさせたくない』という心理が働きます」

 スーパーマーケットなどでも、『ナッジ』が活用されています。例えば、レジの待ち列の足元にある、「ここでお待ちください」と書かれた足跡がプリントされたシールです。

(竹林博士)
「コロナ禍で『間隔を2m空けてください』ということで、アナウンスしたり、警備員を配置したり、いろいろ試してみました。その結果、黙っていても足を置きたくなるこの足跡シールが、最もシンプルに効果がありました」

 そして、高級店にも『ナッジ』が。例えば、飲食店のメニューに「松・3000円、竹・1700円、梅・1200円」とあると、多くの人が真ん中の1700円を選ぶといいます。

(竹林博士)
「1700円と1200円だけなら1200円を選ぶ人が多いんですが、3000円が出てきた途端に皆さん、なぜだか1700円を選びます。『極端性回避』という心理です」

■“いたたまれないゾウ”で倹約?第一人者の家庭は『ナッジ』でHappy!自宅で簡単にできるライフハック

 竹林博士は、自宅で『ナッジ』を使っているといいます。まず、キレイに靴が並んだ玄関には、床にテープで枠が作ってあります。

(竹林博士)
「疲れて帰ってきた時、つい靴を乱雑に置きたくなりますが、マスを作ると、それを跨いで置くことがしづらくなるので、知らず知らずのうちに靴を並べたくなります。お客様も、『靴を揃えてね』と言わなくても、黙っていても、そこに置きたくなります」

 そして玄関には、何本かの消毒液と「お好みの消毒液をお使いください」という貼り紙も。これは、消毒は『前提』で、選ばせて『行動』させるというナッジです。

Q.「やりなさい」ではなく、「こちらが選んでいる」というのが大切なんですね?
(竹林博士)
「私は小心者なので、お客様に『消毒してください』の一言が言えないんです。でも、「どれが良いですか?」だったら言えます。結果として、ほとんどのお客様が消毒してくれます」

 そして、洗面所の照明のスイッチには、ゾウの絵(博士のオリジナル)のシールが貼ってあります。ONにしたら、そのゾウが割れる仕組みです。

Q.これは、どういう『ナッジ』ですか?
(竹林博士)
「人間は安定状態を好みますので、オフにしていると落ち着き、オンにすると落ち着かないから、すぐオフにしたくなります。そうでもしないと、ひげを整えた後、小さな用事でその場を立ち去る時に、私がスイッチを消すのを忘れてしまうんです。でも、このシールが貼ってあると、ゾウが途切れているのがいたたまれなくて、消します」

 さらに、家族とのコミュニケーションを増やすための『ナッジ』も。冷蔵庫に「スマホをひっくり返して入れてね。あしたのデザートは?①メロン②スイカ」という貼り紙があり、下に袋が2つ掛けてあります。こうしてスマホで投票することで、食卓での会話が復活するということです。

(竹林博士)
「家族で食事する時、スマホがあると気になってしょうがないです。だから、食卓に行く前にスマホを手放したいんですけど、携帯電話を携帯しないのは何だか落ち着かないので、冷蔵庫の前で手放せるような仕掛けがあります。どちらかに入れないと、明日メロンにもスイカにもありつけません。また、スマホが光ろうが、ひっくり返して入れているので気にならないし、人気投票をすることで、明日のデザートを考えなくても済むという、みんなにとってありがたいシステムです」

■買い過ぎちゃう私、言うことを聞かない夫、片付けない子ども…家族の悩みを『ナッジ』で解決

 “特売”“限定”が大好きで、つい買い過ぎてしまう…それ、『ナッジ』で何とかできます。竹林博士は、「空腹時は行かないと決める」「買い物前に軽食」「予算を事前に決める」ことを推奨しています。

Q.空腹だと、つい買いたくなるんですか?
(竹林博士)
「古代から、我々はおなかが空いていると、いろんなものを集めたくなります。これは現代人にも当てはまるという、いろんな研究があります。また、『今が空腹だから、食べる時も空腹だろう』と勝手な予測を立ててしまい、つい買いたくなります」

 『ナッジ』は自分だけでなく、他人にも使えます。竹林博士によると、何度言っても言うことを聞かない夫に健康診断に行ってほしい時は、ちょっと高めのレストランのランチに誘い、健康診断を受けている友人に「健診は大切だよ」と話してもらうと良いということです。

Q.第三者に言ってもらうと良いんですか?
(竹林博士)
「そうですね。健康診断に行かない人は、そんなに大した理由はなく、『今まで行ってないから、これからも行かなくていい』という『現状維持を選ぶ心理』が働いています。その心理は、夜になると強くなります。健診の話は、夜の晩酌の時にすることが多いですが、ランチタイムのほうがずっと良いです」

Q.ランチタイムのほうが良い理由は?
(竹林博士)
「いつもと同じ人から、いつもと同じ場所で、いつもと同じ話を疲れている時にされると、『もう良いから』と反応してしまいます。でも、ちょっと高めのオシャレなレストランに行くと、おめかしします。おめかしすると、公式見解を言いたくなるんです。逆に言うと、よれよれの服を着ていると、回答もゆるゆるになります。だから、『現状維持を選ぶ心理』を引っこ抜いて、非日常の場所で、家族ではなく、既に健診に行っている人から言ってもらう。例えば、我が家も父がなかなか健診に行こうとしなかった時、医学部志望の孫から言ってもらったら、孫の前で『自分の体は自分が一番よく知っている』とポンコツなことを言いたくなかったのか、素直に受け入れるようになりました」

 次に、家事・介護を全くしない夫を動かす方法です。変に家事をされても妻のストレスになることもあるため、「調べもの得意よね」「お願いしていい?」などとおだてながら、介護の手続きなどを任せると良いということです。

(竹林博士)
「0から1は難しいですが、1から2は物凄くやりやすいので、まずは1の状態、例えばゴミを出すとか、やりやすい家事をしてもらうのが良いと思います」

Q.夫婦でナッジ理論の達人になったら、「今使ったでしょ」「あなたも使ったでしょ」となりませんか?
(竹林博士)
「我が家は妻が医者をしていて、妻もナッジの知識を持っているので、お互いに『良いナッジだなぁ』と(笑)例えば、『30秒、手を洗いなさい』と言われると腹も立ちますけど、『手を洗う間は歌を歌う』みたいに書いてあると、『あ、歌を歌えば良いんだなぁ』とか思いながら」

 そして、片付けできない子どもに対しては、「『散らかしOK』と『絶対きれい』のエリアを分ける」「掃除させるのは狭い範囲だけ」にすると良いということです。

Q.散らかしOKの場所を作っておくんですか?
(竹林博士)
「そうです、自分を甘やかします。私もすごく掃除が苦手ですが、家はゴミ屋敷になっていません。というのも、散らかしOKのエリアを作って、片付けるのが面倒くさいものは、どんどんそこに入れ込むからです。例えば、机の上と引き出し1段目は散らかしNGにして、面倒くさい書類は全部、2段目以降に入れておきます。我々が掃除をしないのは、『一回掃除したら、ずっとやり続けなければならない』と臆してしまうからなので、引き出し2段目だけを片付けるというふうにします」

Q.子どもがずっとスマホを見ていて寝ない時に、やめさせる方法はありますか?
(竹林博士)
「これに関しては、私も一時スマホに依存していたので、よくわかります。私は、“3つのこと”をやっています。1つ目は、画面を白黒に設定することです。画面を白黒にすると、スマホがとても事務的に感じ、用事が終わったら手放したくなります。実は、スマホが魅力的というよりも、画面が煌びやかなので、我々の本能が興奮しているのかもしれないんです」

Q.2つ目は何ですか?
(竹林博士)
「スマホがやめられなくなる時間は、大体21時以降だと決まっています。夜になって疲れるほど『現状維持を選ぶ心理』が強くなり、始めるのは簡単ですが、やめられなくなります。でも、スマホのためにも一日1回は電源をオフにしたほうが良いので、『21時になったら切る』というようにします。切っても、オンにすることがあるかもしれません。私も3日に1回ぐらいはオンにしますが、3日に2日はオフにしてる。これだけで十分な成功です」

Q.3つ目は何ですか?
(竹林博士)
「大体、スマホは寝室で触りますので、寝室の壁に『それ、今、必要?』と手書きで書いて、貼っています。今そんなに必要ではないと、自分に問いただすのが大切です」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年12月13日放送)

最終更新日:2025年1月26日 12:00
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