【独自解説】「フジの対応は本当に女性を守るためだったのか」記者が現場で感じた疑問 “後悔”吐露する幹部も…10時間超“やり直し”会見のウラ側と再建に向けた最大の焦点
2025年1月27日に行われた、フジテレビの“やり直し”会見。10時間半という異例の長さの中、錯綜する現場で取材に挑んだ記者が抱いた『疑問』とは?再建に向けた『最大の焦点』とは?読売テレビ・上野巧郎記者の解説です。
■意見表明や会社への提案多く…同じ記者として感じた疑問「何のための会見なんだろう」
まず、「非常に長かった」というのが、一出席者としての感想です。“やり直し”会見には、191媒体・437人が参加しました。質問は一人2問に制限される形で進んでいきましたが、自分の意見や会社への提案などに時間を割く記者が多く、「何のための会見なんだろう」「私たち取材している側が気になることを聞ける場なのに、なぜ自分の意見を表明されているんだろう」と感じ、同じ記者として疑問を感じるやりとりは少なくなかったです。
10時間超の会見は、誰もが予想できなかった展開だとは思います。ただ、フジテレビ側は最初から「全ての質問をお受けします」というスタンスで始まりましたし、実際に全ての人が質問を終えるまで順番に当てていくというスタイルは、正に最初に掲げたものをやり切ったのかなという思いもあります。しかし、出てきた内容に関しては、疑問が残るところもありました。
■「本当に女性を守るために行われていたのか?」港浩一氏の説明に残った疑問
まず、“初動対応”について、フジテレビ・港浩一氏(2025年1月27日付で代表取締役社長を辞任)は、「彼女の心身の状態を最優先に、少人数で支えていく」と話しました。ここに関しては事案の繊細な部分もあるので、一定の理解はできますが、それでも『コンプライアンス推進室』とは連携していなかったところに疑問を抱きました。
また、フジ社員の関与については「A氏は関与していない」と明言しましたが、それはあくまで「トラブルのあった特定日のみ」ということです。女性への聞き取りは実施されていなかったという点にも、疑問が残りました。
さらに、今回問題とされているような“接待”を伴う会食については、「タレントとの会食などに女性アナウンサーの参加はあるが、接待要因として考えたことはない」と話しました。ただ、会見を経て一番疑問が残ったのは、フジテレビの対応が「本当に女性を守るために行われていたのか」というところです。
■「言い訳のように感じた」会見の中で何度も出た“刺激”の意味
港氏からは、「女性の心身の状態を最優先にし、なるべく少人数で寄り添っていこうとした」という発言があり、それには納得がいきました。ただ、「番組をやめるという刺激がどういう影響を与えるのか、判断が難しいタイミングがあった」など、“刺激”というワードが会見の中で何度も出てきました。
“刺激”とは何かについて、私が質問する場面がありましたので、ご覧いただければと思います。
(上野記者/“やり直し”会見で)
「“刺激”というのは具体的に、どういう刺激を考慮されたんでしょうか?女性に『自分が原因で番組を終わらせてしまう』と思わせるという刺激ですか?」
(フジテレビ・港浩一氏/“やり直し”会見で)
「そうですね、(女性に)思わせるということです」
(上野記者/“やり直し”会見で)
「女性から番組に対しての申し出があったんでしょうか?」
(港氏/“やり直し”会見で)
「具体的に、中居氏の番組に関してのコメントは聞いていません」
このように、“刺激”については「自分が原因で番組が終わってしまうのではないかということを考慮した」という港氏の回答だったのですが、そもそも女性から申し出があったかについて「聞いていない」というところが、私は言い訳のように感じました。
■「あの時の教訓を生かしきれなかった」幹部は後悔も…中居氏のトラブル巡る経緯
会見では、「中居正広氏の出演番組を打ち切りにするタイミングは何度もあったのではないか」という指摘も出ました。
中居さんと女性が食事会でトラブルに発展したとされているのが、2023年6月です。その翌年の2024年2月には、ダウンタウン・松本人志氏の女性トラブルによる活動休止を受け、『まつもtoなかい』が『だれかtoなかい』という番組名に変更されましたが、中居氏の出演は継続されました。
その後も複数回にわたって、オリンピック関連番組や中居氏を司会に起用したフジテレビの特番が放送されています。そして2024年12月、一部の週刊誌で女性トラブル報道があり、2025年になって番組終了が発表されました。
一方、食事会でトラブルになる3か月ほど前の2023年3月には、英・BBCが旧ジャニーズ事務所の性加害問題を報道。その後は皆さんご承知のような経緯で、同年9月に旧ジャニーズ事務所の会見がありました。そのことを振り返り、フジテレビ・遠藤龍之介副会長(2025年3月末メドに辞任の意向)は、「今回の事案が類似だとすれば、あの時の教訓を生かしきれなかった」と後悔を口にしました。
そして、「2024年1月、松本人志氏の活動休止時が番組を終わらせるタイミングだったのではないか?」という質問に対し、港氏は「松本氏の件が起きたときは終了できたかもしれないが、当時の女性のコンディションが良くない状況だった。番組終了がどんな刺激になるのか、測りかねる状況だった」と説明しました。
■スポンサー問題のカギを握る株主『ダルトン・インベストメンツ』 フジ再建への最大の焦点とは―
民間放送業者にとって、スポンサーの存在は大きいものです。関西の大手企業関係者に取材したところ、「あの会見だけでは、どの企業もCM出稿再開にならないのでは」と話していました。そして、フジ系列局員によると、「3月以降のCM出稿取りやめが、すでに起きている。また、一部の業界では、メーカーから地元販売店へCM見合わせの指示が来ていると聞いている」ということです。
(読売テレビ・高岡達之特別解説委員)
「今後のことについて話します。一つは、今回の事態を動かす大きな力になったという、フジテレビの株を保有する外資系投資会社『ダルトン・インベストメンツ』の“納得”です」
(高岡特別解説委員)
「ダルトンは、スポンサーとなる企業の株も多数保有しているので、スポンサーの前にダルトンが納得していないと、株主総会シーズンに『おたくの会社はこれでいいのか?』と問われる可能性があります」
(高岡特別解説委員)
「その次に、最終的には視聴者がフジテレビの再生を認めるかどうかになります。そのためには、遠藤副会長は『検証番組も考えている』と言っていますが、『フジテレビは良い番組を作るよね』『落ち込んだ心を前向きにしてくれるよね』という新たな取り組みをしなければいけません」
(高岡特別解説委員)
「ただ問題は、CMが戻らなければ、番組をやるための体力がどこまで続くかということです。『給料を払う分の蓄えはある』というような回答をした役員もいるそうですが、出演者に対しても報酬を払わなければいけません」
(高岡特別解説委員)
「人気タレントであればあるほど報酬が高くなるのは当たり前で、そちらに向ける体力も、これから要求されてきます。大変ツラい話ですが、視聴者を楽しませる出演者に出続けてもらおうと思ったら、お金が必要です。お金がいるんだったら、スポンサーに早く戻ってもらわなければいけません。このあたりが、これからの最大の課題でしょうか」
最後に、フジテレビ再建に向けて重要なのは、『女性の納得』に尽きると思います。起きてしまったことは取り返しのつかないことかもしれませんが、被害に遭われた女性から納得を得られるのか。そして、そうした結論がフジテレビとして導き出せるのかどうかが、最大の焦点だと思います。(読売テレビ・上野巧郎記者)
(『かんさい情報ネットten.』2025年1月28日放送)