【独自解説】“地震大国”ニッポン その時、国はどう動く?いま問われる日本の危機管理 陣頭指揮をとる首相が公邸に“住みたがらない”意外な理由と、「第二の首都」にすべき災害に強い“3つの候補地”
2025年1月17日、阪神・淡路大震災から30年という節目を迎えました。日本は地震災害が一番多く、その度にトップ(内閣総理大臣)を含めた日本政府の危機管理対応が議論になります。阪神・淡路大震災以降、変わっていく制度の現状とは?『読売テレビ』高岡達之特別解説委員の解説です。
■地震大国ニッポン…その時、国はどう動く?「室」か「本部」かで異なる“重み”
地震などの災害が起きたときにテレビをつけると、アナウンサーが「政府は“○○”を設置しました」と原稿を読んでいますが、注意して聞いてほしいのが、“○○”が“室”なのか“本部”なのかです。それによって、重みが違ってきます。
最初に設置されるのが、官邸の『情報連絡室』です。これは、2025年1月13日に起きた日向灘(宮崎県)の地震でもできましたし、常にすぐ作られることになっています。危機管理担当の職員が24時間365日常駐しているので、最初はここに気象庁や都道府県から報告が入ります。
そして、「関係する官僚も集まってください」ということになると、『官邸対策室』に変わります。名前が変わっても“室”の段階では情報収集態勢で、「政府として緊急の対応をしなければいけない」というところまではいっていません。
ただ、この時点で首相にも連絡は行っています。そして、「政府として政治家が入って決めなければいけない」ということになると、ここで“室”が“本部”に変わります。
なぜ内閣総理大臣にすぐに連絡が入るかというと、日本では大臣同士が平等・並列だからです。例えば、防衛省が動かなければいけないとき、防衛省から財務省に「お金を出してください」という命令は、大臣同士ではできません。全省庁に指示できるのは首相だけなので、陣頭指揮をとります。
■官邸から走って30秒の首相公邸 “住みたがらない”首相がいるワケとは?
首相官邸(役所)の地下に、危機管理センターがあります。写真がありますが、国家機密に類しますから、あくまで“イメージ”です。
首相官邸の隣には、文化財でもあり首相が住むことになっている首相公邸があって、官邸までは歩いてすぐです。試してみた記者によると、全速力で走って30秒だそうです。
危機管理センターには、大量の『モニター画面』と『電話』が置かれています。防衛省などもヘリを飛ばしますが、マスコミのヘリの映像が先に入ることもありますから、モニター画面ではテレビ局の報道も全て見えるようになっているそうです。
「今の時代に電話?」と思われるかもしれませんが、例えば自衛隊を動かすことなどは盗聴されてはいけませんので、盗聴防止装置がついたような電話で、直に責任者の肉声で指示をすることが条件になっています。これは日本だけではなく、世界的にも同じです。
日向灘の地震のときは、石破首相は首相公邸にいらっしゃいました。ただ、首相はどこに住むべきか―このことは大体、災害があったとき問題になります。
直近の首相を何人か例に挙げます。安倍元首相は、第1次では公邸を使っていましたが、第2次では渋谷の自宅に住んでいました。官邸までは、警察の先導がついて車で15分です。
菅元首相は、赤坂の議員宿舎です。官邸までは約400m、車で5分ぐらいの所です。朝の散歩がてら、そこから来ていました。
岸田前首相も赤坂の議員宿舎でしたが、途中から公邸に住むようになりました。公邸は、つい先日まで岸田前首相のときからの改装工事をやっていたと、政府が発表しています。
石破首相は赤坂の議員宿舎に住んでいて、「近々公邸に行きます」と言いながら、なかなか行きません。周辺の説明によると、「これから2拠点生活をするが、どちらかというと赤坂(議員宿舎)にいたい。でも、有事のときは公邸に行きます」ということのようです。
首相経験者に伺いましたが、公邸はくつろげないそうです。思ったよりも狭く、窓という窓にセンサーがついていて、知らずに開けると『ビーッ』と警報が鳴ったりします。首相といえども、くつろげる場所でないと、いろんな決断ができません。
■世界最大の核兵器保有国・アメリカは、その時どう動く?最後は“空”へ「全世界の米軍の司令部と繋がり、核戦争を指揮できる」
アメリカの場合は、ホワイトハウスがあります。2025年1月20日に大統領に就任するトランプ氏は、ホワイトハウスがあまり好きではないそうです。ただ、「絶対に行ってください」と言われるのは、設備が整っているからです。
ホワイトハウスで有名な『シチュエーションルーム』、日本語に無理やり翻訳すると『緊急事態対応の部屋』ですが、これはいくつかあるそうです。日本と同じように、モニター画面にいろんな司令官や世界の状況が映し出されて、大統領を筆頭に閣僚がずらっと並んでいます。
さらに最悪の事態、例えば2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件では、東棟の地下にある危機管理センターが使用されました。
日本もそうですが、こういった“指示を出す部屋”には、もう一つ大きな特徴があります。絶対に、窓がないです。大使館でも軍の司令部でも、指示をする所には窓がありません。どんなに小声で話していても、窓ガラスが微妙に振動して、盗聴されるからです。
そして、アメリカの場合、大統領は最後まで生き残らなければいけません。日本と違って、世界最大の核兵器保有国だからです。核兵器の使用は大統領が決断しなければいけません。
最後の最後は、空に逃げます。有事の場合、普段は国防長官が乗るジャンボジェット機に大統領が乗ることがあるのは、「全世界の米軍の司令部と繋がり、核戦争を指揮できる飛行機だ」といわれているからです。大統領が外国に行くときは、セットで来ます。
■「霞が関がダメージを受けたら…」首都直下地震の被害想定で指摘される“第二の首都”の場所 候補にすべき“3つの場所”
日本に話を戻します。日本の有事は、災害が中心です。実は、「3~4kmのエリア内にある霞が関・永田町が地震でダメージを受けたら、どうするんだ」と、阪神・淡路大震災が起きる少し前に考えていました。阪神・淡路大震災の直前に工事を始めて、実は、霞が関・永田町は30km西に“第二の拠点”を持っています。
それが、東京・立川市です。30kmは、関西なら大阪駅から神戸ぐらい、関東なら東京駅から横浜ぐらいの距離です。本当に霞ヶ関がそのまま来られるように、ある建物は『○○省・別館』となっていますし、警視庁の場合は『多摩庁舎』と書いてありますが、警視庁もそのまま来られるように整備されています。
とはいえ、「近過ぎるのでは」と心配の声があがっています。最近の研究で、首都直下地震の被害想定が確かなものになってきました。立川市は『震度6弱想定内』に入っていますから、「ここに政府が来るのは、どうなんだ」という声もあります。
そうなると、やはり東京に代わる『第二の首都』を作っておかなければいけないのではないのかといわれていて、いくつかの街が名乗りを挙げています。大阪・札幌・仙台・名古屋・福岡なども、候補地に挙がっています。
条件は、大体どの都市も「東京に匹敵するぐらいの大都市です。急に来られてもホテルもあるし、東京との交通も便利です」と言ってきました。ただ、今は2025年です。最近の傾向は変わってきました。
2024年も年始に能登半島地震があったりと、近年、災害が非常に多いです。そうなると、「首都周辺よりも、もっと安定したところに置いておきたい」と、企業のほうが敏感になります。
その条件は、まず『晴天率が高い』こと。例外もありますが、一年を通じて天気が良いということは、台風や大雨の災害が少ないです。
そして、『電気』です。大きなコンピューターを動かしたり、携帯電話も使えなければいけませんので、今は何にでも電気が必要です。
最後に、仮設の建物がすぐに建てられる『土地』です。大都市は余っている土地があまりありません。企業の財産危機管理はデータなので、企業は今、そういう所にデータセンターを誘致しています。
では、どこが今、災害に強くてオススメでしょうか―それはズバリ、岡山・岐阜・千葉です。
(「かんさい情報ネットten.」2025年1月14日放送)