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【前編】「五輪は頭にない」白井健三の思い

2021年6月2日 19:13
【前編】「五輪は頭にない」白井健三の思い

体操の2016年リオ五輪団体金メダルメンバー、白井健三選手(24)が日本テレビのインタビューに応じました。これまで数々の実績を残し、現在は日本体育大学の助教を務める白井選手。東京五輪代表最終選考会の全日本種目別選手権(5日~6日・高崎アリーナ)を前に、五輪への思いや、これまでの体操人生を振り返り、競技との向き合い方など、心境の変化とともに現在の胸の内を明かしました。

◆「五輪」への葛藤

――リオ五輪から5年、東京五輪最終選考会に臨む上でコンディションや気持ちに変化は

白井「変わったことしかないというか、今の状況で五輪という位置づけもだが、リオの時は自分の演技をすれば五輪にいけると思って演技をしてたが、今は『五輪』という文字は自分の頭の中にほとんどなくて。とにかく自分の演技がしたい。自分の演技をお客さんに見せることができる舞台があることが、とてもうれしくて。とにかく今は自分の演技でお客さんの心を動かしたいという気持ちが強い」

――去年3月のインタビューでは『五輪を目指したい』と言っていたが、今の五輪への気持ちは

白井「なくなりました逆に。五輪を目指したいという気持ちはなくなって。そこも昔の自分に戻せば(五輪へ)いけるかもしれないという気持ちがあったので、今の自分を理解せずに、どんどん空回りしていた自分がいた。なので『五輪には今はいける力は自分はない』と完全に割り切って。ただ、五輪を目指すことが競技者として全て正解ではないと思うし、目指せない立場の人にも練習の中でのやりがいや達成感や充実感というのは、絶対あると思う。五輪というゴールを設定しなかった時に、どういう練習になるのかなと自分を試しだしてから、かなり気が楽になって、自分の中でも自分を理解できるようになった。今は五輪を目指したいと思ってもないですし、目指すことが逆にマイナスになる。自分は今できる自分のレベルで演技するだけ」

――その思いを断ち切る上で葛藤は

白井「ありましたね。昔の自分はすごく邪魔でしたね。昔の自分ができていた技や、こなしていた構成というのを、戻すだけで世界が見えるという一見低いハードルに見えることが、すごく高いハードルで。人との対比ではなく自分との対比をしていることがすごくつらかった。『五輪は無理だ』と自分の中で…『無理だ』という言い方はあまりよくないが、『五輪を目指す立場にいなくても自分はいいのではないか今のレベルだったら』と思った瞬間からすごく楽になりました。」

――その気持ちになったきっかけは

白井「あまりない。ただ自分の中で『五輪を目指さないといけない』と勝手に思っていた自分がいて、そこにしか体操をやってる意味や練習のやりがいを見いだせない自分がいたので、それはちょっとムチャだなと思って。今の体や気持ちに合った目標を設定しないと、このまま終わっていくなと思ったんですよね、選手として。なので、明日から目指せるやりがいは何かなと、ふと学生と話した時とかに思って。学生から『そんな無理しないでいいんじゃないですか』と声かけてもらったのは大きかった」

◆体操選手『白井健三』として“あるべき姿”

――これまでの10年を振り返って

白井「びっくりですよね。五輪に出られる選手だとも思っていなかったし、世界選手権もそうですけど。あとは小さい頃は人に興味がなくて、とにかく自分が楽しくやれればいいと思っていた。年を重ねていく上で、自分の感覚を人に伝える魅力を覚え始めた。人と話すことが好きになった。特に大学に入ってからは人間的にこの10年間はかなり変化があった」

――体操が楽しかったがゆえに苦しかったことは

白井「特に去年なんかは、昔の自分と比べてしまうことも多くて、なかなか結果でやりがいを判断してしまう時期も多かった。結果を残している時は楽しい、残していない時は楽しくないと思っていた時もあったが、今は結果を残すことが自分の体操人生としてのやりがいではないなと思っていて。五輪選手という肩書を持っている以上は、練習の姿だったり発する言葉で示していかなければいけないところもある。そういう所にやりがいを今覚えている。体操選手としての結果を、第一にするのではなく、体操選手としての試合までの過程や、あるべき姿はなんだろうと考えながら練習することによって充実感を得ている。自分の思い通りにいく世界はすごく狭い世界で、時に我慢して時にみんなと笑い合ってという、その何か魅力というのを、まだ24歳ですけど、年を重ねていくごとにすごく感じることができて、人との交流というのがすごく好きになった10年間だったと思います」

――「難しい技」をやってこそ白井健三。そこへの思いは

白井「自分もありました、去年までは。去年までそうじゃなきゃいけないと思って、自分をぐちゃぐちゃにしてしまっていた所があって。今の最善の選択は、今の自分を受け入れることだと思うので。そういった意見も理解しつつ、自分が思うことをやりたいなと思う」

<後編へ続く>