北京五輪スノーボード代表の戸塚優斗“こだわりの特注ボード”で世界の頂点へ
そんな戸塚選手が一躍注目を浴びたのは高校1年の時。ワールドカップ初出場で初優勝し、鮮烈な世界デビューを果たしました。2018年の平昌五輪代表にも選ばれ、16歳で挑んだ初五輪。しかし、戸塚選手は、ハーフパイプのふちに体を打ち付け転倒し、担架で搬送。初の五輪は11位に終わりました。“五輪”という舞台で平常心を保てなかったと振り返ります。
「滑り出してから覚えていなくて、制御が利かなくなっちゃったというのがあったんですよね。あとから自分のケガした映像を見ると、なんとなくは(恐怖心が)出てくるんです。空中で考えていたこととか。あの技も五輪のほんの少し前にやり始めた技だったので、一か八かっていう感じの技だった」
平昌五輪から4年。戸塚選手は大きな進化を遂げていました。「最近はあの(平昌五輪での)技をベースにほかの技を入れていくっていう感じになってきたので、成長はしたと思います」。去年3月、世界選手権で初優勝。さらに昨シーズンは一度も負けることなく、世界の主要大会4戦全勝でシーズンMVPを獲得しました。北京五輪の金メダル最有力候補とも言われる戸塚選手ですが、さらなる大技に挑戦していました。
それは、縦に3回転、横に4回転する最高難度の大技、「トリプルコーク1440」です。
「どの技よりも結構恐怖はあります。イメージはできているんですけど、それに体がついてくるかこないかっていう感じ。それ(トリプルコーク1440)を打たないと勝てないし、今後もレベルが上がっていくので気は抜けない。常に新しいもの、新しい技を、という感じですね」と語りました。
この大技を公式戦で初めて成功させたのは、ソチ五輪、平昌五輪銀メダリストの平野歩夢選手。そんな平野選手について、戸塚選手は「スノーボードを本業でやっていて、スケートボードでも(夏季の)東京五輪に出るのは本当にすごいと思います。あまり雪に触れていなかったと思うんですけど、本当に休んでいたのかなっていう滑りをしているんですよね。本当に尊敬できる人だし、そのぶん勝ちたいという気持ちもあるので、ライバルといったらあれですけど勝ちたい人ですね」と話します。
“平野選手に勝ちたい“という戸塚選手にはスノーボード以外にも才能があります。趣味のバイクには、自分でテープを貼りつけてアレンジしたり、自分のボードには、絵の具で“落書き”しているといいます。さらに、北京五輪に向け、特注のボードを作成。戸塚選手が描いたイラストをモチーフにした、「オオカミと山」が描かれたボードです。「自分の描いた絵が載っているというのは本当に支えというか、テンションが上がります。(表彰台に)飾れたら最高ですね」と笑顔を見せました。
そして、このボードにはさらなる秘密が。スノーボードにはコア材があり、その上下に補強材としてカーボンを入れて性能を出しています。戸塚選手のボードは、このカーボンが特殊だといいます。ボードを作っている担当者に話を聞くと、「戸塚選手の使うモデルは強度とか反発を出さなきゃいけないというところで、硬めのカーボンを多めに使っています。(硬いと)一般の方だと踏み込めない。戸塚選手は踏み込む力が強いので、踏み込むときに反発が感じられるように、彼の力にあった板になっています」と説明。
足腰の強い戸塚選手に合わせた硬いカーボンを入れることで、ジャンプの際の反発が増し、より高く飛べるといいます。そして形にもこだわっているという戸塚選手のボード。ボード先端の“ノーズ”と下部の“テール”といわれる部分は、通常丸みをおびていますが、戸塚選手のボードは少し角張ったデザインになっています。この角があることで、足元の力がより伝わりやすく、さらに高く飛びやすくなる構造になっているということです。
技を進化させ、強度と反発力をアップさせた特注ボードで挑む北京五輪。戸塚選手は「前より自信もすごくあるし、自分がいまできる技のベストを尽くして臨んで金メダルを取りたい」と金メダル獲得への意欲を見せました。