亡き指導者にささぐ日本一とさらなる成長 「褒めてもらえるかな」体操クラブに今も息づく情熱 山梨
甲府市にある体操クラブ「山梨ジュニアアカデミー」。今年度は全日本大会の優勝者を輩出しました。亡き指導者の情熱を受け継ぎ、スタッフや選手が一体となって高みを目指す姿を取材しました。
■トップレベルの現役選手が後輩を育成
「体操を始めます」
「お願いします!」
体操競技専門体育館に元気よく響き渡る、子供たちの声。
創立から45年の歴史を誇る山梨ジュニアアカデミーには、幼児から大学生まで約380人が在籍します。
日本代表として活躍した梶田凪さんをはじめ、多くの有力選手を輩出。
2024年、平均台で日本一に輝いた竹澤薫子選手(20)や、ジュニア時代にナショナル強化選手に選ばれた時田瑛帆選手(20)など、国内トップレベルの現役選手がジュニアの指導を直接行っています。
伊東佐紀マネジャー
「すごく選手目線で教えてくれる。自分が選手としてやっていることを伝えようというのが伝わる。楽しそうにやってくれているので助かっている」
そんな山梨ジュニアアカデミーを語る上で、欠かせない人物がいます。
伊東マネジャーの夫であり、2022年に47歳で亡くなった、先代の代表・安崇さんです。
2019年の番組取材時には「細かな、小さな『できた』がたくさん集まっているのが体操。体操に興味を持ってもらえたら」と競技の魅力を語っていました。
伊東マネージャー
「ザ・体操人。体操大好き。体操愛にあふれた人。『一番になりたい』『日本一になりたい』『世界で通用する選手を育てたい』という思いが強い指導者だった」
梶田さんら有力選手を幼少期から指導し、数々のトロフィーを獲得。東京五輪に向けたジュニア選手の強化委員としても活躍するなど、選手の育成に情熱の全てを燃やしました。
伊東佐紀マネージャー
「ちょっとずつ入院していた。入院するたびに『俺は早く治して退院するんだ』と。面会すると第一声は『選手はどう』と」
■亡き恩師への思いを力に変えて
竹澤選手と時田選手も安崇さんの指導を受け、日本トップレベルの実力を養ってきました。
竹澤選手
「安崇先生が亡くなったと聞いた瞬間に涙が出てきて…やばい。思い出したらだめだ…」
竹澤選手は声を詰まらせながらも、当時の気持ちを振り返ります。
竹澤選手
「大学に行かずに安崇先生のもとで体操をやろうと決めてすぐだったので『どうしよう、これから先、私一人じゃ無理だ』と思ってひたすら泣いていた」
恩師との、突然すぎる別れ。
大きなショックを受けた2人でしたが、立ち直れたのもまた、恩師への強い思いでした。
時田選手
「『きょう頑張れたでしょ』と写真(遺影)に向かって言ったり、竹澤選手と『今褒めてもらえるかな』と言ったり、そういうふうに気持ちを切り替えられるようになった。(生前)褒めてもらえることが少なかったから、今はいっぱい褒めてもらおうと練習している」
特に竹澤選手は2024年、好成績を残し、ワールドカップでは種目別平均台で準優勝。
さらに全日本種目別選手権の平均台では、自身初の日本一に。金色のメダルを恩師に捧げました。
竹澤選手
「どちらの大会も私の中では佐紀先生の隣に安崇先生が立っているイメージ。一緒に会場にいて、表彰台に上るときも下で写真を撮ってくれていたような感覚。たぶんニヤニヤしていた。『まあまあです』『計画通り』と言っていて…(笑)」
■指導者の情熱はクラブに今も息づく
教え子の心の中に、しっかりと生き続ける安崇さん。
だからこそ、クラブの指導の中には今も安崇さんの思いが息づいています。
時田選手
「自分よりも選手のことを考える。選手がうまくなること、選手が楽しむことを考えている人だったから、自分も安崇先生の思いは教えているときにも持っておきたい。そうしたら安崇先生も喜ぶと思う」
伊東佐紀マネジャー
「(竹澤)薫子選手が日本一になったのも安崇先生が近くにいたからだと思う。これからも(先輩に)続く選手が出せるようなクラブに育ってほしい」
安崇さんの教え子である竹澤選手と時田選手は、4月に控える全日本体操個人総合選手権で成績を残し、ユニバーシアード日本代表に入れるように練習に励んでいます。2人はもちろん、2人に続くジュニア選手の活躍に期待が膨らみます。
(「YBSスポーツ&ニュース 山梨スピリッツ」2025年1月19日放送)