【池上彰さん解説】世界の核兵器はその後・・・ G7サミットで首脳と対面した被爆者の思いは
G7広島サミットでは、各国の首脳らが平和公園の慰霊碑に献花し、犠牲者を追悼する姿が世界に伝えられました。
一方、世界では争いが続き、核兵器が使われる危険性が高まっているようにみえます。ヒロシマからのメッセージは世界に届いているのでしょうか。
■岸田首相
「核戦争に勝者はなく、核戦争は決して戦ってはならないことを確認しました」
サミット最終日。
核兵器のない世界を究極の目標とする共同文書、「広島ビジョン」が発表されました。
しかし、核兵器を持つことで戦争を防ぐ「核抑止」の考え方を肯定した内容に、被爆者からは落胆と反発の声が上がりました。
■県被団協・箕牧智之理事長
「我々被爆者の願いは核兵器の廃絶。その願いがむなしく消えていくような気がした」
■被爆者・サーロー節子さん
「広島まで来て、これだけしか書けないのかと思うと、胸が潰れるような思いがしました」
サミットの後も世界では争いが続いています。
ロシアによるウクライナ侵攻は2年以上が経った今も収束の兆しが見えません。
サミットの5か月後、パレスチナ自治区で始まった戦闘。
これまでの死者は3万5000人を超えました。
ことし3月には、アメリカの議員がガザ地区を「長崎と広島のようにすべき」と発言。
「イスラエル軍が迅速に勝利すべきとする比喩だった」と釈明し、波紋を広げました。
核の脅威が高まる中、岸田総理は広島テレビのインタビューに対し、日本の役割が重要だと強調しました。
■岸田首相
「戦後ずっと続いてきた核兵器の数を減らすという機運、取り組み、これが今反転しそうな逆転しそうなこんな厳しい状況にあります。日本は唯一の戦争被爆国として、しっかりリードしていかなければならない」
今月9日、ロシアの戦勝記念日。パレードには核兵器を扱う部隊などが参加しました。
■ロシア プーチン大統領
「ロシアを脅かすことは誰にも許さない。ロシアの戦略軍は常に戦闘態勢にある」
さらに、プーチン大統領は同盟国・ベラルーシが戦術核の演習に部分参加すると明かしました。
核なき世界の実現が、かすんでいます。
一方、サミットでは各国の首脳と被爆者の面会も実現しました。
その被爆者は今、何を思うのか、話を聞きました。
小倉桂子さん・86歳。
サミットでG7の首脳と接した唯一の被爆者です。
■小倉桂子さん
「核兵器というのは何が怖いってその威力も瞬時にしてたくさんの人が亡くなる、それもあるけど、たとえ生き延びても、逃れる道がないという、そのへんのことを伝えたい」
8歳の時、爆心地から2・4キロの自宅近くで被爆。
独学で英語を学び、世界中の人たちに自らの体験を伝えてきました。
被爆者を代表して務めた大役…。
特に印象的だったのが、ウクライナのゼレンスキー大統領との対面でした。
■小倉桂子さん
「(資料館の)パノラマの前でここが私の家っていって時系列で全部話した。ピカッと光って、その前こうだって。ほかの方は質問とかもされたりしたんですよ。ゼレンスキーさんは質問なし。歯を食いしばってね、泣くのをこらえるのが精いっぱい」
サミットで、世界から注目を浴びた小倉さん。
見せてくれたのは…。
■小倉桂子さん
「1889年からだからものすごく由緒ある大学なんです。こんな感じの」
アメリカのアイダホ大学から授与された人文学の「名誉博士号」です。
小倉さんは2年前に大学に招かれ学生に被爆体験を証言。
サミットでの功績などもふまえた「世界平和への貢献」が選考の理由です。
今月、現地で博士号を受け取りました。
■小倉桂子さん
「あなたは被爆者という肩書だけじゃなくて、あなたは世界に、特にうちの学生たちを教育する教育者っていう、そういうことなんだよと(大学の教授が)おっしゃった。きょうこの日のためにわたしはG7でお話しさせていただいたんだなと。1年経って結果が出たんですよまさしく」
サミットの後、アメリカのバイデン大統領から届いた手帳には、小倉さんの証言を聞いた人たちに書いてもらったメッセージ。
その数は、増え続けています。
■小倉桂子さん
「ウクライナの戦争みたいに一生懸命考えたりみんな後押ししても、戦火は広がるというより犠牲者は増えているし、長引いているしというなんとも言えないジレンマとかいろいろあるし、もっと何を伝えたらいいかというのに責任を感じるんですよね」
(2024年5月19日放送)