【記者解説】ポイントは?水俣病熊本訴訟あす判決 9月の大阪地裁は全員を水俣病と認める
水俣病は1956年に公式に確認され、今年68年を迎えます。水俣病をめぐっては、不知火海沿岸を中心に被害を訴える人が相次ぎ、2009年、国が「すべての被害者を救済する最終解決策」とする水俣病特別措置法が成立しました。
しかし特措法の救済策に申請した6万5000人のうち約9600人が、居住地域などによる線引きで「対象外」とされました。救済されなかった人たちが各地で裁判を起こしています。
あわせて1600人あまりに上る原告の中で、熊本第2次訴訟で争っているのは1400人。このうち144人が22日、熊本地裁で判決を受けます。原告団長の男性を取材しました。
【VTR】
水俣市の丘の上から不知火海を見つめる男性。
■森正直さん
「ここにやっぱりチッソの排水が 流れ込んだのかなっていう、それで被害者が出たのかなと思いますね」
ノーモア・ミナマタ第2次熊本訴訟の原告団長を務める森正直さん(73)です。チッソの工場排水に含まれるメチル水銀が魚介類に蓄積し、それを食べた人たちが発症した水俣病。熊本訴訟の原告の先頭に立つ森さんは、足のしびれやこむら返りなどの症状を抱えています。この日、ノーモア・ミナマタ第1次訴訟で原告団長を務めた大石利生さんのお墓を訪れました。
2011年3月、原告に対し原因企業のチッソが一時金を、国と熊本県が療養手当を支給する和解成立を勝ち取った大石さん。
■熊本訴訟 森正直原告団長
「大石さんの遺志を継いで頑張ってきて、やっと3月22日の判決日を迎えますというのを報告して、3月22日は一緒に判決を聞きましょうという話をさせてもらいました」
今度こそ、すべての被害者の救済を終わらせるために。
長引く裁判の中で、去年9月、大阪地裁が画期的な判決を出しました。これまで特措法で切り捨てられてきた居住地域や出生年の線引きを大幅に緩和して、原告128人全員を水俣病と認め、国と熊本県、チッソに賠償を命じたのです。
■熊本訴訟 森正直原告団長(去年9月・大阪地裁判決後の会見)
「全員が水俣病だという判決を聞いた時、10年間頑張ってきて報われたなと思った。この判決は熊本の判決にも弾みのつく判決だと思う」
この流れをつなげてほしい。裁判を起こして11年、熊本第2次訴訟で最初の144人が22日、判決を迎えます。
【スタジオ解説】
(緒方大樹記者)
熊本地裁で訴えを起こしているのは、民間の医師から水俣病と診断されながら国の補償を受けていない1400人です。原告は1人あたり450万円の賠償を求めています。このうち22日に判決を受けるのは、早く提訴した144人です。
(畑中キャスター)
判決のポイントは?
(緒方記者)
原告が水俣病かどうか判断する上で、「居住地域の線引き」をどう捉えるかが争点の一つです。地図の赤い部分が国の特措法で定めた救済の対象地域です。隣り合う黄色い部分に住んでいた人は対象外とされました。同じ自治体に住んでいても、対象か否か明暗が分かれたんです。
(畑中キャスター)
これでは、特措法の本来の目的だった最終解決は難しいですね。
(緒方記者)
今回の裁判で、原告側は水俣湾だけでなく不知火海沿岸の地域に暮らしていた人も水俣病を発症するに足るメチル水銀を摂取したと主張しています。
(畑中キャスター)
海に線引きはなく、水銀が蓄積された魚介類が対象地域を超えて食べられた可能性があるということですね。
(緒方記者)
これに対し被告側は、水俣湾以外の不知火海周辺で獲れた魚介類を食べても、水俣病になるだけのメチル水銀は摂取されないと反論しています。
こうした中で画期的な判決を出したのが、関西に移り住んだ人たちの訴えを認めた去年9月の大阪地裁です。大阪地裁は、「対象地域外でも不知火海で獲れた魚介類を継続的に多食したと認められる場合には、水俣病になりうるメチル水銀を摂取したと推認するのが合理的」として、原告全員を水俣病と認める判決を言い渡しました。
(畑中キャスター)
特措法の前提を踏み越えた判断でした。この判決に続いてほしいと原告側の期待も高まっていますね。
(緒方記者)
22日に判決を受ける144人の平均年齢は76歳で、このうち14人が提訴後に亡くなっています。熊本地裁が原告の訴えにどう答えるのか注目されます。