震災の記録後世へ 「デジタルアーカイブ」 資料や写真、映像が集約
「北國新聞論説委員の野口強さんとお伝えします。よろしくお願いします。きょうはどんな話題でしょうか。」
北國新聞論説委員・野口強さん:
「能登半島地震から5カ月が過ぎましたが、きのう朝方の震度5強の揺れで、まだまだ油断できない状況が続いていることを実感します。傷ついた建物が残る中、余震が起きれば、二次被害が広がりかねませんから、復旧活動に一段とエンジンを掛けたいところです。」
「それと合わせて、この未曽有の災害の記憶が薄れないうちに、しっかり記録し、経験を今後に生かす取り組みにも本腰を入れる時期に来ています。石川県では今年度中にも、被災状況や復旧に関する資料を保存する「デジタルアーカイブ」を整備し、資料を公開する方針です。」
「きょうのテーマは、こちら。「震災記録を後世にアーカイブ公開へ」」
市川:
「アーカイブというのは、情報やデータを整理して保存することを指しますよね。」
野口さん:
「石川県では、県のほか、市や町を通じて地震発生当時からのさまざまな資料や写真、映像などを集めて公開する。被災地は、インフラ復旧や生活再建の途上ですが、アーカイブを整えることは、今後の災害対策につながる貴重な資料としての価値が高く、できるだけ早く公開したいですね。」
「こうしたデジタルアーカイブは、熊本地震でも公開されていて、熊本城や、街並みが復旧していく様子や、震災対応に当たった知事はじめ市長や町長の生々しい証言などが掲載されているんですね。」
市川:
「能登半島地震の特徴として、さまざまな災害が複合的に起きたことが挙げられますよね。」
野口さん:
「半島の先端という地理的な特殊性もあって、津波や大規模火災、土砂崩れ、液状化、海岸の隆起、数少ない幹線道路の寸断による集落の孤立など、大地震で想定しうる災害が一度に襲ってきた。しかも屋外での避難が困難な冬場だった。」
市川:
「こうした状況への対応は、どの地震でも、未経験だったことが多かったですよね。」
野口さん:
「震災対応について、成功した点や問題点も交えて、詳しく記録し情報公開することは、多様なケースを想定した防災の観点から欠かせない。今後の復旧活動も加えて、公開の質と量をバージョンアップをしていくことが重要ですね。」
「1つ目の、目からウロコです。「貴重な”震災遺構”教育の場で活用を」」
「こうしたデジタルアーカイブのような情報発信と合わせて、実際に被害に遭った建物や、隆起した海岸など、地震の被害の甚大さを示す遺物を「震災遺構」として保存することも重要です。震災の悲惨さを伝えるものとしては、東日本大震災で、大津波に耐えた岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」が有名です。」
市川:
「東京オリンピックでは、被災者が聖火を持って、この前を走りましたよね。」
野口さん:
「また宮城県南三陸町で43人が津波で亡くなった防災庁舎、賛否両論あったんですが、町が震災遺構として末永く管理することが、この春決まった。」
市川:
「東日本大震災では、津波を受けた学校の校舎などを伝承施設として残しているところがたくさんあります。」
野口さん:
「能登の市や町でも、震災を伝承する施設を、大掛かりでなくとも検討する価値はあると思います。被害の大きさ・悲惨さを感じ取ってもらう防災教育の場や観光資源としても生かそうということで、県の創造的復興のプロジェクトの中にも盛り込まれました。」
「2つ目の、目からウロコです。「地震の教訓伝える記憶の”見える化”」」
「政府は、災害の教訓を伝える施設や、優れた地域活動を「NIPPОN防災資産」として認定する制度を作ることになりました。避難などにつながる教訓、被災の事実を正しく伝える語り部や、遺構を巡るツアーなどを対象に、認定された取り組みを国土交通省のHPなどで紹介する。」
市川:
「特に震災遺構の場合、「見るのがつらい」「犠牲者に対して不謹慎だ」という声もありますよね。」
野口さん:
「いずれもごもっともだと思いますし、最終的には地元の判断にゆだねられるべきですが、尊い犠牲を未来に生かすうえでも、震災の記憶を「見える化」することは重要です。」
「自然災害が頻発する中で、ハード面の整備と合わせて、一人一人が過去の災害から教訓を学び、行動に生かすことが求められています。防災意識を高める意味でも、震災情報に接する場があることに大きな意義があります。」
市川:
「ありがとうございました。野口さんの目からウロコでした。」