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「集落の孤立」は他人事ではない…孤立に備えて私たちができること 能登半島地震で見えた教訓

2024年3月5日 18:30
「集落の孤立」は他人事ではない…孤立に備えて私たちができること 能登半島地震で見えた教訓
愛媛最西端の佐田岬半島

能登半島地震の発生から2か月。この地震では、半島での集落の孤立が問題となりました。同じく半島に位置する愛媛の伊方町。南海トラフ巨大地震で想定されている、孤立への備えを取材しました。

愛媛最西端の町。佐田岬半島に位置する伊方町です。

伊方町総務課 林善法 課長補佐:
「主要となるメロディラインがピンクの表示に。旧瀬戸町、三崎町に行くほど主要道から遠いといいますか、メインの道路に行くまでが遠くなっており、集落が点在している」

山を縫うようにして設置された道路を通らなければ、集落にたどり着けない独特の地形です。

林さん:
「結構険しい道もありますし、正直わたしも一個人として感じるところだが集落に行くまでの道がかなり地盤が緩いところもあるのかなと感じている」

「孤立ゼロ」というのはあり得ない…県が南海トラフ地震の被害想定見直しへ

ハザードマップにも、土砂災害の警戒区域を表す黄色いエリアが至る所に…

「ほとんどの地区の海岸沿いは土砂災害警戒区域に該当する。担当者として個人的な意見になるが孤立ゼロというのはあり得ない話かなと」

県の想定によると、南海トラフ巨大地震が発生した際、県内で孤立する集落は西予市で101、宇和島市で31、松山市でも4と最大268に上るとされています。

しかし、アクセス道路が少ないにも関わらず、伊方町での孤立は発生しないことになっていました。

県は来年度の当初予算案に地震被害想定の調査費を盛り込み、南海トラフ地震の被害想定を見直すことにしています。

白石アナ:
「こちらの集落にも土砂災害に注意という看板があります。この集落の広い範囲、そしてこの集落に通じる道も土砂災害警戒区域に指定されているのがわかります」

住民:
「町道になるんやけど、この上からずっと三崎から来れる道がある。あっちはめちゃくちゃ山道。これはいい道」
Q.車1台分ですけどこれがいい道?
「これが昔からの一番いい道」

しかしこの道も、以前通れなくなったことが。

住民:
「一回その向こうの明神の方で土砂崩れして1人亡くなった。もうだいぶ前だけど」

住民:
「ここに家があったこの川の向こうに」
Q.あそこ今空地になっているところ?
「わたしも80歳になったがちょっとの土砂はあってもこんなに家がつぶれるようなのは初めてだった」

これまで土砂が崩れやすかった場所は 地震の際さらに大きく崩れる可能性も

この地区では26年前に台風による大雨で土石流が発生。7棟の建物が全壊し70代の女性が死亡、1人が重傷を負う被害がありました。

当時の映像を見ると、土砂が道路を塞いでいるのがわかります。

愛媛大学 森伸一郎特定教授:
「普段から豪雨によって土砂災害が起こりやすいというところが地震でも土砂災害が起きている。通常の大雨でこれまであそこ崩れやすかったなというところが、地震の時にはもっと規模が大きくなって崩れるという理解をしてもらえれば」

これまで伊方町で孤立集落「ゼロ」の想定とされたワケ

インフラのメンテナンスや防災工学が専門の森特定教授。

これまでの孤立の想定については…

森さん:
「震度6強以上のメッシュで土砂災害危険箇所があるところ、 これが2つ重なっていると(孤立)。震度5や6弱は考えられていないわけです。5強 6弱から土砂災害って起きるんです」

このような想定が生まれた背景には、13年前の災害が影響していると言います。

森さん:
「平成23年に起きた東北地方太平洋沖地震で想定外のことが起きた。翌年には想定外を出さないということで、今まで起きたこともないような理屈上除外できないものは全部いれようという考え方です」

森特定教授によると、想定外の地震を考えた結果、県内の被害は甚大となりほとんどの集落が孤立することに。

それでは、どこが優先順位が高いかわからないため条件を絞り込んで算出しなおし、現実的ではない想定になったというのです。

災害時に「自分たちで復旧作業ができるよう」住民間で進む備え

リゾート地区防災会長 福岡十四男さん:
「私もちょっと森林ボランティアもやっててチェーンソーは扱い慣れているので、これがあった方が便利」

再び伊方町。孤立に対して独自に対策を進めている福岡さんです。

福岡さん:
「木が倒れて塞いでいるようなときはこのチェーンソーを使って撤去するとか、バールとかがあるんで石ころが道路の上にあったら撤去する。よっぽどの大木でなければ問題なく切れます」

チェーンソーをはじめとした様々な機材。有事に自分たちで復旧作業を行うため、町に要望して設置を進めてきたといいます。

福岡さん:
「(自分たちで)やらざるを得ない。あてにしていて、早く救援にかけつけてくれたらむしろラッキーと思った方がいいのかな」

この地区では住民を対象にしたチェーンソーの訓練を行い、操作できる人手を増やすなどの取り組みをしてきました。

続いて福岡さんが案内してくれたのは。

福岡さん:
「こちらが大和ハウスさんの一時避難場所、あそこの緊急避難場所で夜もずっと過ごすわけにもいかないので、とりあえず屋根つきで寝泊まりができるところということで」

普段はこの地区を管理する住宅メーカーの事務所や住民の交流スポットとして利用されている建物。

「アグリトピアとの間に、土砂災害警戒区域に指定されている部分があって夜はそういった所にいったら通行中に崩れてきたら危険なので、いったんここで休んでもらって安全確認をしたうえで移動する」

避難所に行けないことも想定し、住宅メーカーと協力して地区に定住している住民が2日間程度過ごせる食料や医薬品なども備蓄しているといいます。

「孤立するかもしれない」という考えのもと、自分たちが暮らす場所の特徴を知り、対策を進めている福岡さん。

「過大な準備は現実的に無理なので、現実に沿った内容でこの地区の長所を生かして、そういう知識なり技術として蓄えてそれをうまく活用して延命措置をとるというか生き延びていくということをやっていきたい」

最も大事なのはまず知ること、知らせること

「孤立」に備え、私たちができること。

森さん:
「孤立する可能性の高い集落に住んでいる人は、食料や飲料を備蓄しておくということ。普通で1週間というなら、孤立するところはさらにプラス1週間これぐらいは考えておかなければならない」

その上で…

「いくら地震被害想定してもその結果がひとつひとつの集落に知らされているわけではない。最も大事なのはまず知ることですし、知らせることですし、それもわかりやすい情報を出す。これに尽きると思います。わかりにくいから備蓄の推進につながらない」

今後30年以内に70%から80%の確率で発生すると言われている南海トラフ巨大地震。

能登半島での出来事は、未来の愛媛で起こることなのかも知れません。