【南海トラフ地震】愛媛で津波死者は最大8000人余の想定…県内で進む対策から「津波避難」を考える
愛媛でも南海トラフ地震に向けて備えを進める動きが出ています。こちらは県が出している津波の想定です。最大は伊方町の21m、次いで愛南町の16.7mなど南予で非常に高い予想されているだけでなく、瀬戸内海側の中予や東予でも高い津波が襲ってきます。
県内で想定される死者数は最大で1万6032人。このうち8000人あまりが津波で亡くなる想定です。命を守るために。愛媛で進む津波対策から避難の在り方を考えます。
今月1日。宇和高校三瓶分校で行われた、最後の卒業式。感謝と涙に包まれながら105年の歴史に幕を下ろしました。学び舎を巣立つ、14人の卒業生。命を守るために地域に残したものがあります。
オリジナルの防災マップです。三瓶分校の3人の生徒が地元の防災士らと協力して制作しました。
三瓶分校 宮弓優斗さん:
「地域の皆様方に三瓶分校を支えられてきましたので、ちょっとでも恩返し」
防災マップには、町内一の観光施設、潮彩館から津波の避難に適した場所まで5つのルートを記入。
初めて三瓶を訪れた人にもわかりやすい工夫や、スマートフォン用のQRコードを掲載するなどの工夫がされています。
宮弓さん:
「一本道で見晴らし自体はいいのでそのまま歩けばいいので感覚的には楽かと」
三瓶分校 井伊健太さん:
「右折左折を少なくしようと」
Q.そういうこだわりがある?
「そうです。なるべく(曲がる) 回数を減らして」
避難経路をシンプルにしたほか、建物の倒壊リスクに備え、道幅の広い道を選んで目印となる場所の写真も掲載しています。
宮弓さん:
「ここが第一ルートと第二ルートの分かれ目になります(こっちに行くと)国造神社」
海の駅から一番近い避難場所ですが、階段が急なため別のルートも提案しています。
このマップ作りの背景には…。
西予市防災士連絡協議会 濱田賢二会長:
「昨年の8月8日に南海トラフ地震臨時情報巨大地震注意が出た」
初めて発表された、南海トラフ地震臨時情報がありました。三瓶町では、臨時情報の発表中、恒例の人気イベントを開催。県内外から多くの人が訪れる中、西予市のハザードマップを大きく掲示し、もし地震が起こった時に逃げる場所を案内していましたが…
濱田会長:
「県外から来たお客さんが『ここで地震が起こって津波があったらどこに逃げるんですか?』(と言っていた)行政が作った防災マップというのは地域の人が年に1回か2回の避難訓練で行ってるので、ああ、あそこか!とわかるが、県外から来た人が行政が作った避難場所の地図では非常に分かりにくいという声があった」
そこで、もともと防災マップづくりを検討していた三瓶分校の生徒と地域の人が協力して、防災マップの掲示が実現したのです。
三瓶分校 竹内健人さん:
「一人でも多くの命が『この地図を見たから助かった』みたいなことがあったらほんとに作って良かったと思うし、こんなルートがあるんだと見てくれればもしものときに役立つかなと」
宮弓さん:
「僕たちが作った努力の結晶が貼られるということで、それで地域の人々がいざというときに救われたらいいなと思う」
宇和島市の嵐地区です。
防災行政無線:
「ただいまから嵐地区の夜間地震・津波避難訓練の訓練放送を行います」
この日、夜間の津波に備え、地域のおよそ30人が高台に避難する訓練が行われていました。照明を頼りに進みますが…
訓練参加者:
「これはえらいで…」
「ゆっくりで結構ですよ」
「ここで休まないかん」
「この階段はきついかもしれんなお年寄りは」
急峻な階段を登っての避難。高齢者などにとっては大きな課題です。
八幡浜市 宇都宮久昭総務課長:
「津波避難の原則は徒歩避難ですが、要支援者や一部の高齢者は車での避難が必要であると考えています」
八幡浜市では、これまで一般的ではなかった「車を使った避難」の検討に取り掛かっています。
八幡浜市 危機管理・原子力対策室 山本基之室長:
「市街地から身近な愛宕山に緊急避難場所を整備するとともに、そこにアクセスする避難路の拡幅整備などが必要であるものと考えています」
愛媛大学や東京大学との共同研究を重ねた、壮大な計画です。
八幡浜市都市デザイン室 高橋芳明室長:
「こちらが八幡浜市の港ここが市役所です。津波の被害を受けるのがこのエリアが想定されています。駅のあたりまで津波の被害を受けます。ここの避難場所としてここにある愛宕山という山を切り開こうと」
県の被害想定では、八幡浜港に最大9mの津波が押し寄せ中心部のほとんどが浸水するとされています。
「ここにある赤い津波避難ビルまた裏山にある一時避難場所、ここに徒歩で逃げてもらう。ただしこういった赤いところがちょっと遠くて逃げきれないだろうというのが避難困難区域と想定している。ここの方は全員車で逃げてもらうという想定でシミュレーションを行っている」
住民アンケートでは、市内7割の高齢者がいる家庭などで、車での避難を考えているということがわかりました。
そこで市はあくまで徒歩避難が原則としたうえで、避難困難区域の全世帯と、浸水エリアのうち高齢者のいる世帯の7割、合わせて1231世帯が車での避難を選べるよう整備を始めたのです。
10年をかけて愛宕山を通る3つのルートの道路幅を拡張するほか、普段は公園などの広場として、被災後には仮設住宅の建設用地として使用できる広大なスペースをさらに10年をかけて作ろうとしています。
車での津波避難について、避難行動や災害情報を研究する東京大学の関谷直也教授は。
東京大学大学院 関谷直也教授:
「(東日本大震災で)我々が調べた限りでは全部の自治体で渋滞が発生しているわけでもなく、(国交省の調査で)東日本大震災の沿岸部大体約推定60万人、浸水域にいたとされているが半数の住民は車で避難をしています。つまり約30万人近くは車で避難をして助かっているわけですから、車で避難をしなければ、むしろ亡くなった命の方が多い」
関谷教授は交通量や道路、人口など地域の実情にもよりますが、車での避難も選択肢のひとつだと言います。
しかし、先月開かれた住民説明会では。
住民の質問:
「八幡浜はどこも山は急傾斜崩壊危険地区で、実際地震があったら土砂崩れ、中心部には古い建物、木造の建物が道路を塞いで通れない可能性がある」
住民:
「要支援者の対応としては車で避難できるという形になるのでいいと思います。令和26年までの事業になっているのでそれまでに地震が起こらない津波が起こらないといいですけど早い対応をやってほしい」
いつ起こるかわからない巨大地震に向けた不安は残ります。
高橋室長:
「(八幡浜市中心部には)狭くて密集した木造住宅がというのがたくさんある。ここまでの間に渋滞してしまうとここへの避難がそもそもできないんじゃないかということで、ここの拡幅が今後の課題」
ほかにも、車で逃げる人と、そうでない人への周知をどのように図るかなど、山積する課題に、どんなことを検討すべきなのでしょうか?
関谷教授:
「シミュレーションはできるんだったら必ずやった方がいいと思います。そのときに最も重要なのは、一番負荷がかかっている状態。例えば夏の海水浴とか祭のとき、それが一番多分負荷かかってる状態なんで、そのときに避難できるかどうかってのがまず最大の負荷量です」
ほかにも、通勤時間など普段の1日の交通量が最も多い時間帯も検討した上で、車での避難が可能か考える必要があるとしています。
さらに…
関谷教授:
「私、東日本の沿岸部で結構聞くのは、1回避難をした人たちが本当は良くないんですけれども、家族の様子を見るために戻って、車で反対方向に行こうとした。つまり車とすれ違うわけですから、細い道で互い合いになって詰まってしまった」
関谷教授は・車が避難するスペースをかなり広めにとる。・三叉路などの交差点は渋滞が発生しやすいので避難経路の交差点をできるだけ解消しておくなど「車社会を前提にした避難・移動できるまちの設計」が必要だと話します。
関谷教授:
「津波避難っていうのはケースバイケースだと思います。それぞれの人にとって自分の命が助かるベストな選択は何なのか、この地域はどういう避難をすればいいのかってことをぜひ考えていっていただきたい」
様々な議論や課題がある中、一歩を踏み出した八幡浜市。
八幡浜市 山本室長:
「これをあとにあとにずらしていくと、それだけあとにあとに事業の完了が遅れていく。でも30年以内にはことし80%で発生しますよと確率が上がってきた南海トラフ地震。それに備えるにはいち早く動く必要がある。これを進めていくうえで改善すべきことは改善する。それでまたその計画を練り直すというのがずっと繰り返しになるのかなと思います」