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「最期まで自宅で」叶えたい…“血液がん”の終末医療 在宅輸血がつなぐ家族の時間

2024年8月23日 18:00
「最期まで自宅で」叶えたい…“血液がん”の終末医療 在宅輸血がつなぐ家族の時間

日本人の死亡原因の第一位を占める「がん」。その中でも、「血液のがん」と診断された患者の終末医療に取り組む医師がいます。家に帰りたい、という患者の希望をかなえようと奮闘する医師の姿を追いました。

地域のかかりつけ医は「血液のスペシャリスト」

お盆の最終日、今月16日。愛媛県松山市西部・別府町にある森クリニックです。

森正和医師(45)。去年10月に妻の実家であるこの内科と胃腸科の医院を引き継ぎました。

森さん:
「ちょっと胸の音聞いときますね」

午前中は、外来に…

「今から発熱外来で。ちょっと患者さんを診ます」

新型コロナの検査に…と、お盆も地域のかかりつけ医として内科診療にあたります。

こちらの病院のもうひとつの顔が…

森さん:
「やっぱちょっと、貧血が進んできてるんですね。ちょっとね、輸血をね多分入れた方が良さそうな状況になってきてるので」

「血液内科」です。

貧血から、白血病や悪性リンパ腫といった”血液のがん”まで、血液に関する病気の検査や診断、治療を行います。

実は森医師、去年まで県立中央病院の血液内科で部長を務めていた、血液のスペシャリスト。そんな森医師ならではの特別な診療があります。

森さん:
「ここが訪問診療の部屋。あっちですけど、輸血用の冷蔵庫になっている」
「血液型が書いていて、いつ作られたかとかが載っている」

輸血が必要な患者にも在宅医療を

在宅で療養を続ける患者の元に出向き、赤血球や血小板を輸血する訪問診療です。

森さん:
「血液のご病気の方は基本的には最後の終末期と呼ばれる状態になってくると、数日おきに輸血を要するような状態になってくることが多い」

県内で、ほぼここしか行っていないという訪問診療での輸血療法。

はじめたきっかけは5年前。終末期の白血病患者が自宅に帰ることを望みながら、輸血治療のため、その希望を叶えることができなかったという森医師の経験からでした。

森さん:
「ホスピスに行く転院の日は、自宅の前を介護タクシーで通って、そのままホスピスに行かれた。やっぱりちょっと何とかして、最後の残された貴重な時間を少しでもお家で過ごせるようにということもあって。それで訪問診療をするのであれば、輸血で貢献できるんじゃないかと考えて」

ハードル高く実施している病院が少ない在宅輸血

午後、訪問診療に出発です。まず向かうのは市内北部の北条地区。

看護師:
「失礼します」
森さん:
「こんにちは。ちょっと楽になりました?」
女性患者:
「さあ、ちょっとはな」

2日前に転倒し、右腕が腫れてしまった女性。骨髄が正常な血液を作れなくなる「骨髄異形成症候群」にかかっていて、炎症を抑えるために血小板を輸血します。

土手百合子さん(90):
「この器量の良いの(私)がカメラに入るてな」

森さん:
「A形プラスですね。じゃあお願いします」
看護師:
「20535…」

輸血のパックが間違っていないかを確認し、点滴のチューブに接続。

森さん:
「じゃあ輸血始めていきますよ」

訪問診療での輸血が普及していないのにはいくつかの要因があります。

そのひとつが輸血にかかる時間。通常の訪問診療は15分ほどで終わりますが、輸血に要する時間はおよそ1時間。単純に4倍の時間がかかってしまうのです。

森医師、アレルギー反応が出ないか15分ほど見守ると、同行の看護師1人に後を託し、およそ15キロ離れた次の患者の元へ。治療と移動にかかる時間で一日に訪問できる患者の数が限られるのも、ハードルのひとつです。

患者・家族にとって精神的にも大きな助けに

森さん:
「アレルギーの予防のお薬入れます。ちょっと眠くなりますよ」

それでも長年、血液の病気治療に携わってきた森医師の診察と、自分の家で受けられる輸血は、患者と家族にとって肉体的にも精神的にも大きな助けになるといいます。

夫を介護 高橋恵子さん(77):
「どうしても気が滅入りそうになるが、先生が明るいからだし、看護師さんもおしゃべりをよくしてくれるので、すごく気分的に助かっている」

骨髄異形成症候群 高橋潤一郎さん(75):
「赤い血を入れるとき、入れた後は気分的にちょっと元気になる。今はどこにも行けないが、自宅でこうして生活できるのは本当にありがたい」

この日、最後に訪問したのは松前町の有光幸知さん宅。

骨髄異形成症候群の有光さんは、今年5月、体が思うように動かなくなり、松山市内の総合病院に入院。しかし、1か月足らずで自宅に戻る決断をしました。

妻 町江さん(86):
「(余命は)1週間か10日くらいじゃなかろうかと聞いた。でも本人はやっぱり家に帰りたいと言うし、それ(輸血)が家でできるんだったら家の方が…できたら家で看てあげたい、家におらせてあげたい」

退院後、自宅で輸血ができる森医師のクリニックを紹介され、今は週に一度、細胞がエネルギーを作るために必要な酸素を運ぶ赤血球の輸血を受けています。

有光さん。入院前と比べ、ずいぶん状態が安定してきました。

記者:
「うな重食べてるんですね?」
町江さん:
「これは息子からの差し入れ。好き。うな重だとか、それからみゅんへんの唐揚げだとか。今は、(病院から)帰ったときよりずっと、食べるものも食べだしたし、テレビ観て今だったら高校野球観たり、楽しんでいる」

好きなものを食べ、長年連れ添った妻・町江さんと子どもや孫、ひ孫たちと過ごす。

息子の妻:
「こないだ、ただいまって帰ってきたときに静かやったけん、外出かと思ってのぞいたら、お義父さんとお義母さんがこのベッドで一緒に寝よった」

有光さんの病状がいつ再び悪化するかは分かりません。しかし、森医師による自宅での輸血で有光さんは今、家族とかけがえのない時間を過ごしています。

森さん:
「来週伺いますね。はい、失礼します」

「お家帰りたいけど帰れなかったという方を何人も見てきたので、そういう方が一人でも減ればいいと思う。患者さん、それからご家族が満足できるような環境を作ることをお手伝いできたら」