【愛媛FC】「ホーム最終戦 寂しさとプロの矜持と」J3第37節ウォーミングアップコラム
明治安田生命J3リーグは第37節を迎え、すでにJ3優勝とJ2復帰を決めている愛媛FCは、9位ヴァンラーレ八戸とのホーム最終戦を迎える。
「実際で言うと、めちゃめちゃ不安定ですよね」
報道関係者に公開された22日のトレーニングの後、指揮を執る石丸清隆監督は言葉を選びながら切り出した。八戸戦に向け、チームの状態を問われた時のことだ。
「今週からクラブとの面談が始まっているからですね。ゲームに向かうというよりも、自分たちの中でやっている感じだと思うんですよ、今」
今季のJ3も残り2試合。すでに各クラブが来季のチーム編成に着手している。来季J2で戦うことが決まっている愛媛FCでもそれは同じだ。選手やスタッフとの面談、つまり契約条件を煮詰める作業が今週から始まっている。
現状のチームは、選手たちの意識がそこに向いている「不安定」な状態だと、石丸の目には映っている。
契約を更新して、来季も同じユニフォームを着る者もいれば、評価や条件が折り合わぬ者、他のチームからオファーのある者。そして心ならずもチームを去っていく者…
個々人がチームとそれぞれ違う契約や境遇のなか、チームとして残り2試合を戦う。それがこの時期であり、とりもなおさず、プロスポーツ選手の常である。
石丸が続ける。
「やっぱり、優勝しましょうというところで一枚岩になっているところから、次はどこに向けて何をするかというのが見つかっていないという」
「現場としてはかなり厳しい状況ですよ」
来季の自分の契約はどうなるのか、果たして評価されているのか。
「優勝」という、全員の目線を一つにしていた目標を達成したいま、「その先」に目を向け、チームではなく自分のことに気持ちの矢印が向いてしまうのは致し方ないことかもしれない。
「それでも見にきてくれる人のためにやるのがプロ」と言われれば確かにその通りだが、生活がかかっているからこそナイーブになってしまう選手の心情もまた当然であり、理解されるべきものだろう。
「前節、福島戦は(優勝で)完全に気持ちが抜けている状態。そのマネジメントは僕の責任だった」
前節(36節)福島戦は1−4の完敗。それを振り返って石丸はそう話した。
実際に、福島戦の直前練習で石丸はチーム全体の「緩み」を感じ、それを全員に指摘している。
「どんな状況でも自分を高めるために練習して、何かを得て帰る。それはエンブレムをつけて戦う、プロとしての責任じゃないのか」と。
それは優勝という結果に対して起きた「ピッチ上での事象」に対するマネジメントであり、その事象が福島戦の結果に繋がったと考えるからこそ、石丸は自身のマネジメントに非があったと考えている。
しかし今回の場合は、あくまでピッチ外の話であり、監督のマネジメント領域を超えている。
そして石丸をはじめとしたコーチングスタッフとて、クラブと契約する個人事業主であり、選手と立場は同じなのだ。
「そこは、監督のマネジメントを超えている部分。僕がいくら『頑張れ』と言っても難しいところ」
「僕自身はやっぱり最後までサポーターに対して、しっかりプロとしての振る舞いを見せなきゃいけないと思うし、やはり優勝したというプライドもあるので、最後のホームゲームで自分たちがやってきたことを祝いたいというか。自分たちを否定する必要はないと思うので」
「しっかり最後までファイティングポーズを取れる選手を出さないと。それを整理できている選手でないと難しいなというふうに思っています」
練習からしっかりと戦える選手、そしてピッチ内外でいい影響を与えられる選手を試合に送り込む。監督として、この1年間貫いてきたことだ。
選手が抱える、この時期ゆえの不安や揺らぎもわかっているからこそ、石丸も監督として、最後までプロの仕事をすることに徹する。
「ホーム最終戦は1年の集大成。優勝チームにふさわしいプレーを示さなければいけないし、それが来季にもつながるので」
今季ここまで33試合に出場している曽根田穣が、言葉に力を込める。
「僕ができないことを他の選手に補ってもらって、他の選手ができないことを自分が補うみたいな。そういう一体感みたいなものを1年間持ってやれたチーム」
「大きな目標を達成した仲間なんだから、そのチームに終わりが近づいているっていうのは正直寂しいし、最後みんなで笑って終わるために必ず勝たないといけないし、それでみんな報われると思います」
曽根田の言葉は、選手全員が持っているプロとしての矜持なのだろう。
11月24日、そして25日。大城蛍に始まり、矢田旭と忽那喬司の契約満了がそれぞれ発表された。プロスポーツにおいて、翌年も全く同じメンバーで戦うということはあり得ない。
それでも、試合はやってくる。
今年のチームで戦えるのは、あと2試合。J3を制した「2023年の愛媛FC」は、ホーム最終戦でどんな90分間を見せてくれるのだろうか。
歓喜の後に訪れた寂しさも含めて、すべてを見届けてくれるサポーターの前で。