【鉄道考】誰がどのように道筋を…JR北海道赤字路線の“その先” ヒントはJR西日本芸備線?
これから誰がどのように維持していくのか、その議論に大きな進展はみられません。
JR北海道が2016年に発表した、単独では維持困難な線区。
赤字が続く鉄路と私たちはどう向き合っていくのかー
この問題は全国各地が頭を悩ませています。
国鉄カラーがよみがえった「キハ40」が走る富良野市。
81歳の元国鉄職員・近田靖久さんは、このマチで変わりゆく鉄路を見守ってきました。
(元国鉄職員 近田靖久さん)「どのマチもそうだけど、駅を中心にマチができていた。国道の近くに駅があって。利便性はたくさんあった」
富良野のマチづくりの歩み。
その中心には常に鉄道がありました。
しかし2024年3月、根室線の富良野・新得間は117年の歴史に幕を下ろしました。
さらにJR北海道は、根室線の残る区間の富良野・滝川間など利用者が極めて少ない8線区を、通称・黄線区として色を付け、単独では維持困難としています。
ただ、その先行きに見通しは立っていません。
すべて赤字路線で、今後も黒字に転換することは難しいとされています。
(元国鉄職員 近田靖久さん)「寂しさはありますよね。自分の乗っていた、生活の糧にしていた職業がなくなるんだもん。列車の本数を切っていくし残念で悔しい」
赤字の鉄路。
この問題を抱えているのは北海道だけではありません。
(宮崎記者)「岡山にあるJR備中神代駅に来ています。ここから先、広島まで芸備線の列車が走っているんですが、その存続が危ぶまれています」
中国地方の山あいを走るJR芸備線。
岡山県と広島県を結ぶ68.5キロの鉄路は、1キロあたりの1日の平均利用者はわずか48人。
走るほどに損をする赤字路線で、まさに廃止の危機に直面しています。
議論に進展があったのは2024年3月。
沿線自治体との協議が難航するJR側が頼った先は「国」。
全国で初めて国が仲介して、JR・自治体そして国が参加する協議が始まりました。
原則3年以内に今後の方針が決まります。
(岡山県 県民生活交通課 吉原憲一郎さん)「JRと自治体の議論だけだと、どうしても議論が平行線になってしまう可能性が高い。そういった中で国が中立・公正な立場で関与してもらうというのは非常に重要なこと」
JR芸備線・広島県の「備後落合駅」。
山陽と山陰を結ぶ接続駅ですが、いまや訪れるのは地元の人ではなく、鉄道ファンが中心。
かつて要所だったころの面影が残る秘境駅だからです。
(山梨からの乗客)「景色がすごくいいので、楽しめる路線だと思います」
(広島からの乗客)「電車がすごく好きなのでずっと残ってほしいと思います」
(広島からの乗客)「芸備線があってうれしい」
7年前からボランティアでガイドを務める81歳の永橋則夫さんです。
この駅のすぐ近くでSLの汽笛をきいて生まれ育ち、国鉄に就職後は機関士として活躍。
備後落合駅に対する思いは並々ならぬものがあります。
(備後落合駅主 永橋則夫さん)「私は鉄道愛があるから。ここを守るというね、愛があるから。何でもね、愛がなかったら駄目よ、何をさせても人でも」
かつては100人以上の職員が働いていたというこの駅も、過疎化や道路の発達で利用者は激減。
いま、この駅にいるのはボランティアの永橋さんのみ。
芸備線の行く末とともに、北海道の鉄路のこれからも、他人事とは思えないといいます。
(備後落合駅主 永橋則夫さん)「願うところは残したい、残していきたい。これが田舎の原風景であり、実際の生活において、私も数年経てば免許証を放さなければいけなくなる、そうしたときにはどうするか。なんにしても国が責任持たないと。民営化してバンザイ、よかったなじゃないですよ」
(記者)「根室線の廃止はどう見ていた?」
(備後落合駅主 永橋則夫さん)「もう私はとうとう来るべき時が来たなと。しかし、こんないいところをどうして廃止にするのかという。やっぱりレールを外してはだめだ。私はいつも北海道のことを思いますよ」
「地域交通を守りたい自治体」と「赤字を免れられない鉄道事業者」の関係は、全国で浮き彫りになっている課題です。
JR北海道に対しては、国が2024年3月、3度目となる監督命令を出し、3年間で1000億円余りにのぼる財政支援の継続を発表。
コロナ禍で進められなかった8つの「黄線区」の抜本的な対策について、2026年度末までに取りまとめるよう指示しました。
黄線区の維持に向け必要なのは、利用促進の取り組みです。
札幌と富良野を夏限定で往復する特急・フラノラベンダーエクスプレス。
道やJR北海道は2024年、すでに廃止した車内販売を復活。
北海道ゆかりの菓子や酒などをPRする作戦です。
(新潟からの観光客)「見たことがない商品がいっぱいあるから楽しいです」
(新潟からの観光客)「景色を見ながら選べて買えるので楽しい」
沿線の自治体は、まずは「道」が主体的に線区毎の役割を明確にすべきと力説します。
(富良野市 北猛俊市長)「自治体だけで協議を進めるというのは、関係する沿線自治体がいくつかあるといっても限界がある。鉄路というのはつながってこそのネットワークですから、北海道の中でどういうふうにつなげるかが大事になってくる」
一方で専門家は、利用促進や経費削減だけでは根本的な解決にはならないと喝破します。
(北海道大学大学院工学研究院 岸邦宏教授)「分割民営化して30年以上経って、当時こうやって維持していこう、特に北海道・四国・九州の三島会社はこうやって維持していきましょうと決めたものが、すでにいまの時代にそぐわなくなっている。既存の枠組みで制度とか財源で黄線区をどう維持するかというのは限界があって、抜本的に新しい制度をつくらないといけないというところが、国が積極的に検討していかなければいけない。」
「ただそのときに、地元が何も努力しないでただ残してくれという形で国の予算を使って残してくださいということになると本末転倒になるので、沿線自治体の住民の皆さんが自分たちの公共交通だという形でどれだけ使えるか、そして外の地域から来る観光客をどうやって鉄路を使って呼び込むか、その部分の利用促進はやはり形として示していかなければならない」
利用者の低迷で岐路に立たたされる鉄路。
鉄道網の維持に向けて光明を見出すことはできるのか、議論の時間はそう長くは残されていません。