「家計の味方」に一体何が!? ”豚肉ショック”を追跡 豚文化の北海道に大きな影響… 専門家「次はあの肉まで高騰」
豚丼に焼き鳥、そしてすき焼きもー
北海道の食文化を支えてきた豚肉が、価格高騰の波に揺れています。
頭を抱える道内各地の飲食店の現状と「家計の味方」豚肉のこの先について迫ります。
鉄のマチ・室蘭市で「焼き鳥」といえば…
串にささっているのは豚肉です。
昭和初期、軍人がはく靴を作るために推奨された養豚。
その名残で生まれた、豚肉を使う「室蘭焼き鳥」の文化。
「日本三大焼き鳥」とも言われ、室蘭っ子の誇りです。
しかしいま、焼き鳥のマチが揺れています。
(室蘭市民)「仕方がないと思いますよ。応援します。室蘭の歴史そのものだから」
(室蘭市民)「(値段が)上がってもしょうがないんじゃないかな」
(室蘭市民)「昔から製鉄のマチで仕事終わったら焼き鳥食べるのが趣味だから、多少上がっても食べるよ」
(吉田屋 吉田静枝さん)「これも1頭分…これで5キロ。100グラム20円上がっていますね。ことし中には(店での価格も)上げようと思っています」
地元に愛され80年。
老舗の3代目は、豚肉の価格高騰=「豚肉ショック」に頭を抱えながらも、「室蘭人」の意地もちらり。
(吉田屋 吉田静枝さん)「物価が上がりすぎて商売がやりにくくなりましたね。すべてが上がっているんですけど、やっぱり肉は上がっている。どんどん上がっている。焼き鳥は室蘭の文化になっている。だからそれを絶やさないように、室蘭のマチのためにやっていければ」
豚串が市民に活力をもたらしてきた「やきとりのマチ」室蘭。
「豚肉ショック」の影響は広がる一方です。
(小舟 佐藤修司さん)「最低賃金も上がった。人件費も含めて1本10円くらい上げないと間に合わないのではないか。本当は8月1日からと思ったが全然間に合わなくて…」
少人数で切り盛りする個人経営のこの店でも、簡単に価格を変更できない苦しい事情を打ち明けます。
(小舟 佐藤修司さん)「メニュー表の作成が間に合わないのと、レジも端末に打ち込んでやっていて打ち換えなきゃいけないので早急にはできない。8月いっぱいでも無理かな」
夏の楽しみ・屋外での焼肉。
ここにも「豚肉ショック」の影響がじわり。
(参加者)「(豚肉は)高くなったかなという感じ」
(参加者)「賞味期限が近くなって安くなっているのは、その日に使うのであればバーベキューのときは安売りしている肉で」
「開墾の初めは豚とひとつ鍋」。
十勝・帯広の豚丼は、文化庁の「100年フード」に認定されるなど、北海道の「豚文化」を代表するソウルフードです。
ご馳走の王様「すき焼き」にも、道外の人が驚く文化がー
(豚肉派)「豚の方がなじみがありますね」
(豚肉派)「豚です。肉じゃがも」
(牛肉派)「関西出身なので豚肉がすき焼きってええって驚いちゃった」
(牛肉派)「うちも実家は豚なんです。だから小っちゃいころは豚を食べていたんですけど」
(サンビーム食品 神田勝則代表取締役)「意外じゃないですよ。ここ20年くらいですよ。うちのお客さんでも牛肉を食べるように。焼肉屋さんには行っても普段使いでは牛肉はなかなか食べない。イベントでもない限りはね。豚肉の方がまだまだテーブルミートなんだろうなと思います」
食肉に詳しい帯広畜産大学の島田教授はー
(帯広畜産大学 島田謙一郎教授)「豚肉の方が身近で手ごろなリーズナブルな価格だったので、生活の中で主たる食べ物みたいな形になったのかなと」
そんな北海道の豚文化を揺るがすような「豚肉ショック」。
国産の豚肉価格は、特に2023年から2024年にかけて高騰。
外国産も2024年6月の価格は、2023年と比べておよそ15%も値上がりしています。
年間3万5000頭の豚を道内各地に出荷している、十勝の中札内村の養豚場を訪ねると、価格高騰のワケが見えてきました。
(十勝野ポーク 渡邉広大代表)「一番高騰している原材料はエサだと思う。主に南米北米のトウモロコシ。円安の影響で高騰していることもあるし、年によっては不作でトウモロコシがとれなくて高騰。前年の猛暑によって豚の繁殖成績が下がっているというのが一番の原因」
暑さは豚にとって大敵。
この養豚場でも猛暑をうけ、豚の体に水滴をまとわせ熱を下げる「ドロップクーリング」という設備を初めて導入。
当然設置費用がかかりました。
エサの高騰と猛暑。
2つの「想定以上」が食卓に及ぼす影響は留まるところを知りません。
精肉の格安販売がうりのスーパーですが、買い物客は渋い顔です。
(買い物客)「高いなと思います。ファミリーパックで買うようにしている。ちょっと安いから」
(買い物客)「子どもはやっぱり食べるので、毎日食べられるくらいの金額設定にしてほしい」
(子ども)「お菓子より肉ー!!」
(カウボーイ北野店 稲田恒夫店長)「値段が下がるとは見通せないのが現状。小分けして安くするものもあれば、1キロ単位で手間をかけずに少しでも安く提供するなど、いろんな方法で少しでもお客さんに喜んでもらうことを考えて販売している」
畜産市場に詳しい専門家は、今後を見通したこんな指摘も。
(広島大学大学院 長命洋佑准教授)「牛肉が高くなったので、牛肉を食べていた人が食べられなくなって豚肉に流れてきた。その豚肉も高くなってきたので、今度はおそらく鶏肉に流れていくと思うが、そうすると数年後には鶏肉が高騰する状態になると思う」
その指摘を裏付けるように、札幌市内のスーパーではこんな動きも…
(カウボーイ北野店 稲田恒夫店長)「おすすめなのがブラジル産の鶏もも肉の解凍。これは100グラムあたり55円。国産の胸肉は生肉タイプで100グラム59円」
(買い物客)「食べ盛りの男の子と7歳の女の子がいるので、食費節約は家計の至上命題。山のように鶏肉を買っているが、こうやって少しでも豚肉の代わりになれば」
「家計の味方」というだけではなく「北海道の食文化」を支え続けてきた豚肉。
簡単に替えはききませんが、背に腹は代えられない切実な事情もあるといえそうです。