「命がけで歩く」雪国の視覚障害者の心の叫び…盲導犬ヨウちゃんも苦手な冬道の恐怖ー

雪で消えた頼りの点字ブロック。
凍ったツルツル路面にデコボコ道。
視覚障害者にとって雪道を歩くのは“命がけ”です。
不安を抱えながら冬の生活を送る視覚障害者を取材しました。
(杉本梢さん)「うわー、またここから雪か。どっちだろう、こっちかな」
札幌市に住む杉本梢さん39歳。
視覚に障害があり、はっきりとものを見ることができません。
普段から1人で出かけるという杉本さんにマチを歩いてもらいました。
(杉本梢さん)「ああちょっと段差になってる。点字ブロックない…こっちであってるかな?」
道しるべの点字ブロックは、途中から雪に覆われていました。
(杉本梢さん)「ん?あってるかな?うわ」
段差の多い雪道。
中にはこんな危険な場所も…
(杉本梢さん)「あ、なんだろう?」
マンホールでできた大きな穴。
そして、水たまりもー
(杉本梢さん)「怖いですね。なければいいのにと思います」
(記者)「過去に落ちたことは?」
(杉本梢さん)「あります。捻挫して、治るのにずいぶんかかったっていう出来事がありました」
視覚障害者にとって、雪道はまさに危険な道です。
生まれつき視力が弱い、弱視の杉本さん。
(杉本梢さん)「この画面、ここまで近づけないと見ることは難しいです。常にピンボケ状態プラス滲んでいるような感じ」
今は障害者への理解を広げようと講演活動を続けています。
視覚障害者にとって雪道は苦難の連続です。
(杉本梢さん)「頼りになるのは雪壁。雪壁が途切れてしまっているところが多いので」
雪の壁を目印に歩きますが、車道に出てしまったこともあるといいます。
(杉本梢さん)「知らない間にまっすぐ歩いていたつもりでも道路に出てしまっていて、近くで工事をしていた工事現場の人が発見して声をかけて歩道まで移動させてくれた。やっぱり命がけで冬道を歩いているなって実感しますね」
降り積もる雪、繰り返される除雪。
雪道は毎日路面が変わる“迷路”のようなものです。
杉本さんのように困っている視覚障害者を見かけたらどうすればよいのでしょうか。
視覚障害福祉協会の小宮さんにそのポイントを聞きました。
(視覚障害生活訓練専門職員 小宮康生さん)「困ってそうだなっていう時は、まず声をかけてみて、断られることもあるかもなという気持ちで少し軽く声かけてみるのがいいのかなと」
記者が体験させてもらうとー
(記者)「お困りですか?」
後ろからではなく相手の耳に届くように声をかけます。
目的地まで誘導する場合はひじをつかんでもらい、少し前を歩いて誘導します。
(視覚障害生活訓練専門職員 小宮康生さん)「悪いのはとにかく引っ張っていくことが一番よくないので、まずはどうしますかって聞いてみるのがいいと思います」
雪道に不安を抱いているのは、盲導犬を連れた視覚障害者も同じです。
(澤田和美さん)「ヨウちゃんきょうホーマック行くからね、お願いしますよ」
江別市の澤田和美さんは、仕事中の事故や病気の影響で、ほとんどものを見ることができません。
そんな澤田さんを支えているのが、盲導犬の「ヨウ」です。
この日は一緒に買い物に出かけました。
(澤田和美さん)「ヨウちゃん右寄って。ヨウちゃんちょっと左に寄ってないかい?大丈夫?」
歩道は人ひとり通るのがやっとの狭さ。
(澤田和美さん)「通れる?来た?誰かいた?」
前から来る人にヨウが気づいて立ち止まりました。
さらにー
(澤田和美さん)「お?大丈夫かな?危ない危ない、ヨウちゃんゆっくり行って」
歩道が雪で埋もれてしまい、車道を歩くしかありません。
(澤田和美さん)「ボタンはどこ?あれ、遠いね。いける?大変だ」
信号の押しボタンも雪にはばまれ、やっとの思いで目的地に到着です。
(澤田和美さん)「盲導犬も歩道と車道の判断がつきにくくて歩きにくいのと、この子は濡れたところを嫌うので、ああいうザクザクしたところや水たまりは苦手なので、歩きが鈍くなる」
雪道は盲導犬のヨウにとって苦手なものばかり。
悪戦苦闘しながら、ようやく帰宅です。
(澤田和美さん)「ヨウちゃんお疲れさん。言葉だけじゃだめですか?」
家に帰ってきたヨウもお疲れの様子です。
(澤田和美さん)「全然(除雪)されていないところも結構あるので、夏と比べてやっぱり冬道は恐怖がある」
『杉本こずえのラジオde心のバリアフリー』
生まれつき視覚に障害がある杉本さんは、ラジオ番組に出演しています。
(杉本梢さん)「障害のことって人に話すのは勇気が必要だったり、なかなかためらってしまうが、あ、障害のことって人に話してもいいんだなって思えた経験をした」
ラジオや自身のSNSで冬の普段の生活を明るく発信しています。
(杉本梢さん)「冬が来るのが毎回憂うつで、歩く直前まですごく憂うつだな、でも頑張らなきゃなって思うことが私の当たり前ではあるけど、通りすがりの人が少しちらっと大丈夫かなってくらいで確認してもらえると、そういう人の見守りによるサポートにすごく助けられているなと思っています」
雪道とたたかう視覚障害者。
見えない危険をなくす一歩はまず知ること、そして声をかける勇気から始まります。