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【特集】高級魚のノドグロ 新ブランド“美宝”を追う親子漁師に密着! 漁師が料理人につなぐ「宝のバトン」食卓に届くまで《新潟》

2024年9月7日 20:02
【特集】高級魚のノドグロ 新ブランド“美宝”を追う親子漁師に密着! 漁師が料理人につなぐ「宝のバトン」食卓に届くまで《新潟》

新潟が全国に誇る高級魚「ノドグロ」。
県は厳しい基準をクリアしたノドグロだけに「美宝」の称号を与え、ブランド化していくことを発表しました。

新潟県のノドグロの新ブランド「美宝」

「美宝」はどのように誕生するのか?
その美しい宝を日々追い求める漁師の親子に密着しました。

ノドグロ漁師の1日は「夜」から

ふたりの1日は「夜」から始まります。
村上市にある岩船港……。

小田政一さん、81歳。そして、その息子の博幸さん、49歳です。

〈小田博幸さん〉
「お盆過ぎてから今日初めてなので、どうなるか分からない」
「その日の潮の流れとかで、取れた場所でも全然(潮が)流れなければ取れなかったりもするし」

親子で漁業を営んでいるふたり。
日々、追い求めているのが……

美宝をとれるのは「選ばれた漁師」のみ

県が新しくブランド化していくことを発表した高級魚の「ノドグロ」です。

〈花角 英世 新潟県知事〉
「高規格ノドグロ、その名は『美宝』です」


見た目も味も新潟が誇る美しい宝だという思いが込められた「美宝」。

1尾が400グラム以上、指定の漁法・漁船で漁獲されたものなど、厳しい基準をクリアしたノドグロだけにその称号が与えられています。

ブランド発表から3か月……その認知度は徐々に高まってきているといいます。

〈美宝の仲買人〉
「普段買わない方が魚買ったりしているので、それなりに宣伝効果あって買っている人もいるから、影響はあるのかな」

実は、美宝をとることができるのは県内7つの漁船に乗っているベテラン漁師のみ……だからこそ希少性が高く、そのブランド力を守れるのです。

選ばれた漁師……それが小田政一さん、博幸さん親子なのです。

美宝の基準のひとつ「はえ縄漁」

時刻は午前0時過ぎ……。
水温や最近とれた場所、そして長年の「漁師の勘」でポイントを定めます。

ふたりが行っているのは「はえ縄漁」と呼ばれる漁法。
針にエサをひとつずつ付けて海に垂らし、食いついた魚を釣り上げます。

〈息子・小田博幸さん〉
「やっぱり傷もつかないし。網だとすれたりとかがあるけど、釣りは1本1本釣りあげていくから」

エサのマイワシを次々と針に付けていく父、政一さん。

〈父・小田政一さん〉
「これ1個1000m、針100本。今日は6個だから、6000mで針600本」

1回の漁で使うエサの数はおよそ600個。
政一さんは1時間ほどでこの作業を終わらせました。

午前4時30分 水揚げ開始

時刻は午前4時30分すぎ……美しい朝焼けを背にいよいよ水揚げの開始です。

しかし、博幸さんにはひとつ心配なことが……。

〈博幸さん〉
「サバ、付いてなかったらいいんだけど」
「ノドグロは底の方にいるから。サバは中間にいるから、落ちる時にサバが食うとそこから落ちていかない」

ノドグロは水深およそ100mから200mほどの場所に生息する深海魚。

エサがその生息域に達するまでにサバなどの他の魚に食べられてしまうと、ノドグロを釣り上げることができないのです。

博幸さんには心配事が……

いよいよ水揚げがスタート。

最初の針についていたもの、それは……

〈博幸さん〉
「サバだった」

活きのいいサバ!
博幸さんの不安は的中してしまいました。

その後も釣り上げられるのはサバ、サバ、サバ……

雲行きが怪しくなっていく中、その時がやってきます。

〈漁に同行した記者〉
「お!」

暗い海から見えるのは赤い光……ノドグロが姿を現しました。

〈博幸さん〉
「0.8くらいあるかな。1kgはないかな」

基準である400gを優に超える大きさ……美宝です!

その後も……

〈博幸さん〉
「ちょっと大きいんじゃない、さっきより。1kgはあると思う」
「(何Kg?)1.2くらい」

続々と釣り上がる美宝!
開始からおよそ1時間で10匹もの美宝が水揚げされました。

釣れるとすぐに美宝を袋にいれる博幸さん。
ウロコを1枚も剝がさないため、独自に行っている工夫です。

美宝はその後も順調にとれ続け……政一さんも笑顔に!

〈政一さん〉
「ゼロ(匹)のこともあったよ。ゼロで船休んだこともあった」

自然が相手の漁……思い通りに行かないことも珍しくありません。

ベテラン漁師の父・元会社員の息子

16歳から漁師になり、その道65年になる政一さん。
ノドグロ漁を始めてからは30年にもなる大ベテランです。

息子の博幸さんはもともとは会社員。
10年ほど前に、政一さんの跡を継ごうと漁師に……

その背中を追ううちにこの仕事の厳しさと楽しさを知りました。

その中で始まった、ノドグロのブランド化!

〈博幸さん〉
「やっぱり、高級魚をとるという魅力。ノドグロがブランドになって、県外からもいろんな人が食べに来て新潟に足運んでもらえれば」

〈政一さん〉
「(ノドグロ漁はやはり大変?)大変だよ。なんでも大変なんだ」

81歳という年齢ながらも、政一さんはできるだけ長く漁師を続けたいと話します。

22匹のノドグロが水揚げ!

午前10時……およそ5時間続いた水揚げが終わりました。

この日、600ほど仕掛けたエサに食いついたノドグロは全部で22匹!
釣り上げた美宝はその日のうちに競りにかけられます。

この日とれた一番大きいものはおよそ1.3kg。
そのお値段は……1万円超え!

とれた22匹のうち20匹が基準をクリアし、「美宝」として認められました。

〈競りの担当者〉
「きょうは大きさもいいのがそろっていたので、いい値段で良かったと思う」

親子として、パートナーとして

親子として……そして、大切なパートナーとして。
お互いの存在について聞きました。

〈政一さん〉
「後継者。俺の後継者」
「本当のまだ漁師じゃないから、これからだ。まだまだ何年かかるか分からない、一丁前になるには。俺が丈夫な間、行って教える」

〈博幸さん〉
「ベテランなので、いろいろ教わることもいっぱいあるので。いろいろ教えてもらって、これから自分のものにしていきたい」
「高級魚なんだけどいろんな人に食べてもらって、美味しいって言ってもらいたい」

県が誇るノドグロの新ブランド「美宝」。
その裏には、お互いを支えあいながら漁に励む、親子の絆がありました。

さて、この美宝、気になるのはその味ですよね?

「美宝」を提供する、村上市にある料亭・能登新。
1777年(安永6年)創業の老舗です。

店主、山貝誠さん。

使う食材にこだわり抜く山貝さんが見せてくれたのは、もちろん……

〈料亭・能登新店主 山貝誠さん〉
「とれたての美宝です」

ノドグロ漁を行っている小田政一さん・博幸さん親子がとったばかりの「美宝」です。
その特徴は……?

〈料亭・能登新店主 山貝誠さん〉
「全体に油が広がりますね。うまみも高くなっていくというか。初めて食べる触感と食べ方だったので、最初はびっくりされる」

小田さん親子がとる美宝に惚れ込んだ山貝さん。
その理由は……

〈料亭・能登新店主 山貝誠さん〉
「『ウロコを剥げないようにするために、袋の中に1匹ずつ釣れたら入れて氷漬けにしているんです』と聞いたときに、そこまできれいな状態を保とうとする志が私の中では素晴らしいと思った」

漁師と料理人がつなぐ「宝のバトン」

今回、その美しいウロコを活かした美宝の料理をいただきます。

「のどぐろ松笠 焼き霜お造り」です。

ウロコのついた皮はパリッと、中のお造りは半生の状態で仕上げた逸品です。

〈記者〉
「とろっとした脂が、うまみと一緒に口の中にふわっと広がります。このサクサクとしたウロコまで楽しむことができます。まさに美しい宝という名の通り、ぜいたくな味わいです」

〈料亭・能登新店主 山貝誠さん〉
「最高の処理をしていただいた食材に関して、私たちがどこまで付加価値を高められるのか。この美宝というのはまさに、とっておきの美しい宝なんだろうなと思っています。ブランド化とともに繁栄できていけると、すごくいいと思っている」

県が誇るノドグロの新ブランド「美宝」。
漁師と料理人がつなぐ、大切な「美しい宝」です。