【特集】倒産件数は全国で過去最多 岐路に立つ“訪問介護” 届かぬ地方の現状 基本報酬の引き下げで事業に影響も《新潟》

【介護福祉士】
「ごめんください」 「おじゃまします 元気そうだ?」
【溝畑諭さん】
「元気そうって、元気そうに見えるだけやろ」
柏崎市に住む溝畑諭さん(72)です。 自宅でのひとり暮らしを支えているのは訪問介護です。
【介護福祉士】
「お昼のお薬、OKだね。じゃあ夜忘れずに飲んでください」
【溝畑諭さん】
「はい、ありがとう」
溝畑さんは入退院を繰り返し、手足にはまひの症状があり、ひとりで歩くことはままなりません。 要介護認定3を受けています。
【溝畑諭さん】
「天気悪いね」
【介護士】
「きょうはね、すごい!血圧126(予想)あたってる!すごいね!計らなくてもいいぐらいだね」
血圧の測定などの健康管理をはじめ、自宅の掃除など週に5日、ヘルパーの支援を受けながら生活しています。
【溝畑諭さん】
「ここまでものを言えるようになって体も動くようになったのは、やっぱり介護を受けられたから」
住み慣れた我が家で生活したい……そんな高齢者の思いに応える訪問介護。 しかし今、危機的状況に陥っています。
いろどり柏崎市にある「いろどり訪問介護」。 溝畑さんを含め40人の訪問介護を請負っています。
土田紗知代表です。 この先の経営に危機感を抱いています。
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「売上落ちました。報酬単価引き下げられてショックです。本当に訪問介護って国からつぶされるための事業になっているんじゃないか」
東京商工リサーチによると、去年1年間で倒産した全国の訪問介護事業者の数は81。過去最多に上りました。 背景にあるのが基本報酬の引き下げです。
3年に一度見直される事業者への介護報酬。 国は去年4月、訪問介護の基本報酬を引き下げました。 その波紋が広がっています。
県内の介護事業所などでつくる新潟県民主医療機関連合会が行ったアンケートによると、報酬改定後の収益について7割以上の事業者が「減少した」と回答。
また約4割の事業所が事業の廃止・撤退を検討しなければいけない状況にあると答えました。
アンケートにつづられた切実な声……。
「なり手のいない訪問介護の報酬が下げるのは納得できない」
「ただでさえ人手不足なのに報酬が下がれば担い手はさらに減るのでは」
「介護を仕事に選んだ人たちをバカにしています」
なぜ訪問介護の基本報酬だけが引き下げられたのか? 厚生労働省は根拠として訪問介護の利益率がほかのサービスの平均を上回っていることを挙げています。
【県民主医療機関連合会・宮野大事務局次長】
「事業規模が小さければ経営体力が非常に低いので、収益が上がる形態というのが非常におおざっぱに考えられてしまった」
訪問介護にはサービス付き高齢者住宅などを回るものと、利用者の自宅を一軒一軒訪問する形があります。 サービス付き高齢者住宅は効率がよく収益につながる一方、一軒一軒まわる訪問介護は移動時間もかかり利益が出にくいといいます。
一括りでとらえられる訪問介護。 介護を担う現場からは地方の実情を反映していないとの声が上がります。
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「柏崎市は車がないと生活できないですし、地方の訪問介護の事業所の現状というものをどこまで理解しているのかという部分がすごく疑問に残る。報酬改定の結果だったと思います」
柏崎市にある「いろどり訪問介護」では、1か月あたり15万円~20万円ほど得られる報酬が減ったといいます。
訪問介護のほか介護タクシー事業も展開していますが、全体の収入も5%ほど落ち込みました。
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「もちろん売り上げ自体が落ちています。経営に関しても訪問介護だけで考えると赤字になる月もあります。報酬単価引き下げって一事業所、訪問介護には大きな苦しい部分を与えているものになっています」
高齢化にともない需要が高まる訪問介護……。
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「1週間のシフトになるんですけど、例えばきょうであれば何時から何時までどこにどんな支援に入っているか見てわかるような形にしています」
多い日にはヘルパー1人で8人の利用者の自宅を回ることもあるといいます。利用者の元まで車で45分かけて通うこともあるといいます。
その移動時間は報酬にはカウントされません。
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「燃料も高騰しているので、職員さんに還元するところが難しいかなという状況がありますね」
訪問介護を受ける溝畑諭さん。 近くに親族はいません。
手足が不自由なため外出は難しくひとりテレビを見ながら1日が過ぎていきます。
【溝畑諭さん】
「まあ(外に)出ることはない。たまに病院行くときに迎えに来てもらったときに往復するくらい」
この日は心待ちにしていた入浴の時間です。
体が不自由なためひとりでは入ることができずヘルパーのサポートを受け週に2日入浴しています。 まひがあり思うように体を動かせないため、ヘルパーのサポートを受けながら体を洗います。 体を洗い終え、湯船につかる至福のひととき。
【溝畑諭さん】
「あー気持ち良かった」
利用者ひとり一人の生活に寄り添う訪問介護。
【ヘルパー・石橋陽子さん】
「訪問だと24時間のうちのほんの30分、1時間しか一緒にはいられないんですけど、それでも楽しみに待ってくださると思うので、こんなに感謝してくださる方ありがたいばっかりです」
【溝畑諭さん】
「健康な人から見たらなんやねんと思うかもしれないけども、介護されている側からしたらものすごくうれしい」
これからさらに増える高齢者の人口。 体が不自由になったとき誰がその暮らしを支えてくれるのか?
【いろどり訪問介護 土田紗知代表】
「訪問介護の職員てその方の生活に入りこんでご利用者の方と関係性がしっかりとできていないと信用、信頼にもつながらないので本当に大変な職種だと思っています。今"いろどり訪問介護”がなくなったときに困る方がたくさんいるので、絶対になんとか継続した経営をしていくという使命は強くあります」
高齢者の暮らしを支える訪問介護。 基本報酬の引き下げはこの実情を反映したものなのでしょうか。