多くの住宅で浸水被害のあった戸沢村蔵岡地区 村が一部住民に「集団移転」も一つの案として説明
7月25日からの大雨で集落の多のく住宅が浸水被害にあった戸沢村の蔵岡地区。村は29日、この地区の一部の住民に対し「集団移転」を視野にいれた提案を初めて伝えました。地区に住み続けるのか、それとも集団で安全な場所へ移転を進めるのか。これから本格的な協議が始まります。
中川悠アナウンサー「戸沢村の蔵岡地区に来ています。大雨の被害から1か月が経ちました。家の中に入っていた泥などはかき出されていますが、被害の爪痕がいまも多く残っています」
最上川の中流沿いに位置する戸沢村の蔵岡地区。7月25日からの大雨の影響で増水した最上川の水が堤防を超えて集落に流れ込み、多くの家が浸水しました。
住民のおよそ半数にあたる37世帯76人がいまも避難所で生活しています。
蔵岡地区会山崎昇会長「これわかりますか?ここまで水が入ってきた」
蔵岡地区会の会長を務める山崎昇さんも避難所で暮らす1人です。床上浸水した自宅は現在、泥をかぶった畳が撤去され、床の木の板がむき出しになっている状態でした。
蔵岡地区会山崎昇会長「きれいになることで少しずつ希望とか明るさとか一筋の光が見えてきているのかなという感じもしている」
県は現在、旧戸沢小学校に仮設住宅を28戸建設しています。10月上旬に完成予定で、2年間無償で住むことができます。山崎さんも入居を希望していますが、地区の住民からは仮設住宅を出た後、再び蔵岡地区で暮らせるのか不安の声も上がっているといいます。
蔵岡地区会山崎昇会長「二度と災害被害が起こらない土地で過ごすことができないのかなという声も上がっていることは事実。今後の私たちの住み慣れた蔵岡地区の在り方について真剣に考えていきたい」
29日、戸沢村役場では加藤文明村長をはじめとする村の職員と蔵岡地区の一部の住民による意見交換の場が設けられました。2時間の話し合いの中、村からは災害見舞金の金額が2018年の豪雨被害の時に比べておよそ2倍になることなどが説明されたといいます。
そして、村からある提案がなされました。
蔵岡地区会山崎昇さん「『防災集団移転促進事業』という事業も一つの案として説明がありました」
今回提案された「防災集団移転促進事業」は大きな災害が発生した地域や災害が予測される地域に住む住民の集団移転を促進する国の事業です。
これが成立した場合、住民たちは基本的に蔵岡地区から村が安全な場所に用意した別の住宅団地に集団で移転し、新天地での生活を送ることになります。
県内では1974年に旧平田町と大蔵村の一部の地区でこの事業を活用した集団移転が行われています。
村は仮設住宅の入居期間が終わる2年後をめどに集団移転を進めたい考えです。しかし、そのためには蔵岡地区すべての住民から集団移転することへの同意を得る必要があります。
蔵岡地区会山崎昇会長「今後アンケート調査を実施したいという意向も村から示されたので各住民の方々に周知をして準備をしたい」
住民の9割が檀家だという長林寺です。本堂が床上浸水するなど大きな被害を受けました。この寺は再建にかかる費用をクラウドファンディングで募っています。
長林寺 斉藤仙邦住職「このお寺が住民の方々にとって大きな意味を持っていると今回の大雨被害で感じた。位牌が水に流れているという話を聞いてショックを受けている中で、単にお寺が元通りになるとかではなく、これから地域のみんなお寺を中心にしてつながっている人たちの将来に向かって一つ一つ一緒に歩んでいける形までなんとか作り上げていきたい」
斉藤さんは大蔵村の寺の住職も兼務していて、長林寺には誰も住んでいません。そのためこの寺は大雨災害に伴う行政からの見舞金や補助金の対象から外れています。クラウドファンディングの目標額は300万円。集まったお金は寺の修繕費用に使用されます。
再建後は蔵岡地区の住民と支援者を招いた交流イベントを開きたい考えです。
長林寺 斉藤仙邦住職「イベントが開かれば次の年につながる、また次の年につながる。その間に蔵岡地区の人たち力はありますから、いまは本当に落ち込んでいるけど力はありますから。一つ前に自分たちでも行くと思うんですよ。その中でお寺が一緒に手を携えながら前に進むようなことを思っています」
その一方、災害が頻発する最上川中流域の治水対策の一つとして住民たちの集団移転も選択肢の一つだと考えています。
長林寺 斉藤仙邦住職「蔵岡地区を中心とした大きな地域を遊水地として使って中流域の全体の安全性を高めるとか考えていいと思う。中流域の昔からの問題をなんとかしたいという中で自分たちはこういう決断をしなくちゃけないとなったら少しは自分たちも納得して行動できるんじゃないかと思う時がある」
蔵岡地区ではすでに解体作業が行われている建物もあります。一方、家の床下にたまった泥の撤去や排水管の掃除など、再び蔵岡地区で住むための作業も進められています。
ピースボート災害支援センター川村勇太さん「避難所でいろいろ感じて家に帰ってきて生活することを選ばれた人もいる。ただ最低限の生活が担保されているかというとまだそうではないのでそういった意味では全然復旧とか復興とかそういった話ではなく、まだ被災直後という感じだと思う」
村は9月、蔵岡地区のすべての住民を対象にした初めての説明会を開き、集団移転についても詳しく説明する予定です。
県は30日、戸沢村に被災者生活再建支援法の適用を決めました。住宅が大規模半壊した世帯などに最大で300万円の支援金が支給されます。