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【独自解説】「核兵器は誰の判断で使うのか」国連で「AIによる兵器使用の判断」が議論される?『USスチール』“買収中止命令”の背景から考える、日本・そして世界の『安全保障』

2025年1月13日 11:00
【独自解説】「核兵器は誰の判断で使うのか」国連で「AIによる兵器使用の判断」が議論される?『USスチール』“買収中止命令”の背景から考える、日本・そして世界の『安全保障』
日鉄が買収中止命令を受け米国を提訴

 日本製鉄の『USスチール』買収について、アメリカは安全保障上の懸念があるとして、買収中止命令を出しました。トランプ氏が大統領就任以降、日本の防衛は2025年の重要な課題とされ、生活に欠かせない石油の価格にも、安全保障が大きく影響していくかもしれません。これから日本の安全保障はどう変化していくのか。『読売テレビ』高岡達之特別解説委員の解説です。

■米国はなぜ『USスチール』買収中止命令をだしたのか?『安全保障』に必要な軍事用の「特殊な鉄」 最新の技術がインドに流れてしまう懸念も―

 アメリカの『USスチール』の買収をバイデン大統領に止められた日本製鉄の橋本会長が、大統領を訴えるという大変な決断をしましたが、そこで考えたいのは安全保障です。アメリカが今回この『USスチール』の買収を認めなかったのは、安全保障上の懸念があるからだとのことでしたが、実は2025年の日本を取り巻く安全保障は、大変様変わりをしていくと言われています。

 まず、安全保障ですが、兵器だけではありません。確かに、日本側としては「同盟国じゃないのか」というお怒りの意見を言われる方も多いです。日本製鉄の橋本会長の法廷闘争宣言も、私自身、日本人としては非常に理解できますが、物事には必ず相手がいますので、相手側である大統領が決めたことは、それなりの考え方があって当然です。

 では、なぜ安全保障上の理由なのでしょうか。この話はバイデン政権になってからではなく、以前のトランプ政権の時にもありました。アメリカの国防総省は、基本的にアメリカの国産の鉄を中心に使うという考え方があります。空母・戦闘機・戦車などは、我々が思う“普通の鉄”ではなく、すべて“特殊な鉄”で作られています。

 最新の戦闘機は、ジェット噴射をしながら空母に降りていきますので、高熱に耐える鉄板でなければいけません。そして戦車の鉄板は、中にいる人たちの命を守るわけですから、これも軍事機密です。

 実は日本製鉄は、こういった特殊な鉄、軍事用だけではなく、鉄にいろんな加工ができる高い技術を持った会社だと言われています。アメリカの企業が、その日本製鉄と一緒になれば、日本製鉄の素晴らしい技術が得られるという説得もしましたが、アメリカ側は認めませんでした。

 というのも、日本製鉄はある会社と提携をしています。世界第2位の製鉄会社『アルセロール・ミッタル』という会社です。国籍はルクセンブルクですが、実は“アルセロール”という名前よりも、後ろの“ミッタル”が大事で、これはインドの財閥です。

 ミッタル家というのは、鉄鋼の世界でも世界中に知られた超名門で、この世界第2位の鉄鋼メーカーの半分近くを、ラクシュミ・ミッタルCEOが持っています。ということは、この『アルセロール・ミッタル』は実質、“インドの会社”なんです。

 インドは成長している国なので、日本製鉄も以前からたくさん鉄を買ってもらっています。アメリカからすると、インドとも別に仲は悪くないですが、しかし、いつどうなるかは分かりません。インドは核保有国です。たとえアメリカで生産したとしても、最新の技術がインドに流れたら、という危機感もアメリカ側の理屈としてあります。

 一方、日本の自衛隊に目を向けてみますと、いわゆる防衛増税と言った話もでていますが、自衛隊の装備や、待遇を良くしなければいけない。では自衛隊の“最新”とは何なのでしょうか。それは2024年の秋に進水した最新鋭の輸送艦『ようこう』ですが、自衛隊の長年の念願でもあった、『LSV』という、要するに『軍用のフェリー』です。これを予算の中で、これから毎年進水していくということになっています。

 日本はかつては、ロシアに向かい合うため、北海道にたくさんの自衛隊がいましたが、今警戒しているのは南西諸島です。今まで、そこに人を運ぶために使っていたのが、民間の高速フェリー『ナッチャンWorld』です。これを年間で借り上げて、何かあったら自衛隊員と車をここに乗せて行っていました。

 しかし「民間人にそんな危険を負わせてどうするのか」ということもずっと言われていました。そこで軍用フェリー『ようこう』などの、自衛隊が独自で運航できる輸送船をもっと作りましょうとなってきています。

 しかし、実は世界の基準からいくと、世界の戦争はもっと様変わりしました。この画像はウクライナでのロシア軍です。テレビゲームをやっているのではなく、“戦争”をしています。バーチャルリアリティと言いますが、特殊な画像が出てくる眼鏡をつけて、無人機・ドローンなどを操作して戦争が実際に行われています。

 ロシアとウクライナの戦争ですが、実はそれぞれドローンも無人機も足りない状況です。そうなると、戦場にいないのに影の主役はドローンや無人機を生産している国になります。今回の場合だとトルコとイランが、ロシアとウクライナ双方に武器を売っていると言われています。

 そうすると、そういう国々が、事実上戦争をやっているようなものになります。例えば日本は自衛隊・海上保安庁もアメリカから武器を買っていますが、またアメリカの意見が、日本にとっては大変重要になるということになります。

 結局、世界の軍事の常識は『自分の国で作る能力』があり、『維持できること』だということを振りかざされると、『USスチール』の件も、アメリカの理屈は一応通っているということになります。

■トランプ氏大統領就任で、日本には『2つの脅威』が戻ってくる?国連では「核使用をAIに判断させない」という議論まで―

 アメリカが持ってくるもう一つの難題は石油です。日本は中東からはるばるタンカーで運んできます。遥か遠く離れた中東で戦争が起きたら、すぐに日本では物価が上がります。ところが、一番石油が必要なのが実は有事の時です。アメリカで一番多い戦車でいいますと、1Lあたり141mしか走りません。

 今、アメリカは世界トップクラスの産油国です。天然ガスは前からアメリカから買っていますが、中東から買うと、やはり値段は安いのです。しかしトランプ氏は「アメリカから買え、買わないなら関税をかける」と、すでにヨーロッパにはその宣言をして、EUは「考えます」という返事をしています。

 そして、これからアメリカが日本にも言ってくる可能性があるわけです。もちろん良いことと悪いことがあって、アメリカから石油を買えば、中東での紛争による物価高のリスクはなくなります。しかし、値段を安くしてくれるかどうかは、アメリカ次第という別のリスクが出てきます。

 トランプ氏の公約は、『世界中の戦争を止める、特にウクライナを止める』ということです。戦争が終わるのは良いことですが、日本にとっては『2つの脅威』が戻ってくる可能性があります。

 それは、今ウクライナにかかりきりのロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金総書記の2人です。北朝鮮はロシアに、もう自国の兵隊を派遣していると言われていますが、この2つの国は2024年に大変な条約を結びました。『包括的戦略パートナーシップ条約』という事実上の安全保障条約です。どちらかが戦争状態になった場合、“あらゆる手段”で助けるというもので、当然、核も含まれるという解釈になります。

 また、カムチャッカ半島辺りにいるロシア軍ですが、ウクライナに派遣をされたと言われています。ウクライナの戦争が一旦休止になれば、当然帰ってきます。兵器の整備も戻り、より強い軍隊を置くようになるでしょう。

 北朝鮮も実戦経験を積んだ兵士が帰ってきますので、これは非常に軍事能力が上がりますし、相変わらずミサイルのテストもしています。ロシアも北朝鮮も核保有国です。そうなるとお互いの“核の傘”を持っているという言い方もできます。日本の横にダブルの“核の傘”を持っている国が2か国あるという脅威を2025年は、また実感しないといけません。

 2025年、国際連合は戦後80年になりますが、大変なテーマをグテーレス国連事務総長が話しています。それは「核兵器は一体誰の判断で使うのか」という議論です。信じられないような議論ですが、2024年の11月にアメリカと中国は国際会談で「核兵器を使用する場合、AIに判断させない」ということに合意をしています。

 核兵器を使う最終判断は、大統領や国家主席という『人間』が考えるという、私達からすると当たり前のことですが、そんなことをわざわざ話し合う理由は、「AIを使いましょう」という国が出てきているからです。

 「人間は判断の間違いを犯す、しかしAIに判断させたら間違いがない」ということを言う人たちもいるわけです。「AIに判断させない」と合意しているのはアメリカと中国だけです。ロシアも北朝鮮も一体誰が決めるかなどは話しておらず、AIに判断させる危険性がゼロではありません。

 国連は「2026年までにAIで人を殺傷する兵器の規制を確立しなければならない」としていますが、国連の言うことを聞かない顔ぶれが揃っています。いつか、AIが判断する兵器で、人類が絶望に追い込まれる時代が来るのでしょうか。

(「かんさい情報ネットten.」2025年1月7日放送)

最終更新日:2025年1月13日 11:00