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【独自取材】「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」

2024年2月20日 20:00
【独自取材】「岸田首相が平壌を訪問する日も来るだろう」金与正氏の談話の真の狙いを、元北朝鮮外交官に直撃!訪朝実現、そして南北軍事衝突の可能性は?「日本へのお願いの意味」「岸田政権の難局を見抜いている」
談話を発表した金与正氏

 2024年2月15日、北朝鮮の金正恩総書記の妹・与正氏は、国営メディアを通じ談話を発表。「個人的な見解」と前置きしたうえで、「拉致問題を両国関係の展望の障害物として置かなければ、首相が平壌を訪問する日も来るだろう」としました。岸田首相の訪朝、そして日朝首脳会談は実現するのでしょうか。ウェークアップでは、元北朝鮮の外交官で現在は韓国の国会議員である太永浩(テ・ヨンホ)氏を取材。北朝鮮の狙いをひも解くと、岸田政権のピンチを見抜いている可能性も浮上しました。

金与正氏が語った“岸田首相が訪朝の可能性” 談話の真の狙いは…

 金与正氏の談話には、どのような狙いがあるのでしょうか。元北朝鮮外交官・太永浩氏は、「個人的な見解ではなく、当然、金正恩総書記に委任されて発表した談話だ」としたうえで…。

(元北朝鮮外交官・太永浩氏/現在は韓国の国会議員)
「北朝鮮の意図としては、日朝首脳会談に関心があるということを日本に向けて繰り返し伝えたがっているように見えます。今回が初めてではありません。2023年も北朝鮮は、『日本と会わない理由はない』と言っていました。ただ、日本が拉致問題の解決を主張し続けると、北朝鮮としては会談に出てくることができません。拉致問題解決の主張のトーンを少し下げて日朝首脳会談をやろうという、日本へのお願いの意味が込められているように見えます」

 ただ、北朝鮮も拉致問題を全く議論する気がないわけではないようです。

(太永浩氏)
「北朝鮮として『拉致問題は解決済み』と主張し続けながらも、首脳会談が開かれれば、いろいろな懸案が議論されることになり、拉致問題も自然と議論されることになるというような形を日本が取るべきだと、北朝鮮側は考えています。拉致問題の解決のための首脳会談となると、日本の条件を受け入れてから会談に臨む北朝鮮としては、会談の始まりから全ては拉致問題の解決というひとつの問題に帰結してしまうのです。このような北朝鮮の立場を日本側が考慮してほしい、勘案してほしいという意味が込められていると思います」

日朝首脳会談実現なら、拉致問題の進展は?「岸田首相の“政治的決断”に懸かっている」

 もし日朝首脳会談が実現した場合、拉致問題は具体的にどう進展する可能性があるのか。太永浩氏は、北朝鮮が「少し余地を残す形」での外交戦術をとる可能性があると指摘します。

(太永浩氏)
「もし首脳会談で拉致問題が議題に上がるのであれば、北朝鮮の外交戦術としては、『日本側が提起していない2人の日本人が北朝鮮にいるので、日本側が要求すれば日本に帰国させることはできる』ということを示唆するかもしれません。第一段階として、今、北朝鮮が帰国させることができると言っている2人をまず連れて帰る。そして、北朝鮮が『拉致問題は完全に解決済み』という立場から一歩後退し、『今後、北朝鮮がこの問題を再び調べ直してみてからまた会おう』といったように、少し余地を残すような外交戦術を北朝鮮が使うかもしれません」

(太永浩氏)
「その場合には、岸田首相が日本の国民に向けて、『北朝鮮政府の立場の変化こそ岸田首相が成し遂げた大きな成果の一つであり、拉致問題の解決のために引き続き努力する』と表明できます。このように北朝鮮の政治的スタンスを変えられるか。これは岸田首相の政治的決断に懸かっています。今回の金与正談話でも、『岸田首相が大きな政治的決断を下して、この機会をつかむべきだ』と話していますが、北朝鮮が言っている“政治的決断”という表現を我々は非常に注視すべきだと思います」

元外交官指摘、北朝鮮は「岸田首相が政治的ジレンマを抱え、難局に置かれていることを十分に見抜いている」

 それでは、日朝首脳会談が実現する可能性はどれくらいなのでしょうか。岸田首相は3月に韓国を訪れ、日韓首脳会談も検討しているとされていますが…。

(太永浩氏)
「現時点においては、すぐに日朝首脳会談が実現できる可能性は高くないと思います。なぜなら、北朝鮮の意図は、はっきりしているからです。北朝鮮は日本を日米韓キャンプデービッドの協力体制から引っ張り出して、先に日本との対話の糸口を掴もうとしています。
 しかし、岸田首相の立場としては、単純に金正恩総書記に会った、平壌に一回行ってきたということが目的ではなく、拉致問題の解決に向け、わずかな進展でも図りたいのです。このように、岸田首相の立場と北朝鮮の立場は非常に相反するところなので、調整するのは簡単なことではないと思います」

 にもかかわらず、北朝鮮が秋波を送る背景には何が―。太永浩氏が指摘したのは、「政治とカネ」の問題などによる支持率低下に苦しむ岸田首相のピンチを、北朝鮮が見抜いている可能性です。

(太永浩氏)
「岸田首相は下がった支持率を早く戻さないといけないという、政治的プレッシャーが大きいため、韓国訪問や平壌訪問のような政治的勝負に出て、支持率を反転させるチャンスにできるかが注目されています。北朝鮮も、岸田首相が政治的ジレンマを抱え、難局に置かれていることを十分に見抜いています」

緊張高まる南北関係…軍事衝突の可能性は?

 北朝鮮は2024年1月、「韓国との統一はできない」との認識を示し、祖国平和統一委員会など、南北対話の窓口機関を廃止することに決めています。南北軍事衝突の危機感について尋ねました。

(太永浩氏)
「韓国国民の中にも、2024年内に戦争が起きるのではとの不安が少しあります。しかし現在、北朝鮮が対外的に出しているレトリックと北朝鮮内部の状況を見てみると、レトリックと北朝鮮内部の状況が一致していません。
 対外的には、巡航ミサイルの開発もして試験発射もしており、また大きな挑発をするかのように騒ぎ立てていますが、北朝鮮内部をみると、北朝鮮で製造される全ての弾薬とミサイルを今ロシアに送り続けています。それでロシアから先端技術をもらい受け、ミサイル開発を進展させています。
 もし北朝鮮がことし戦争を引き起こすような国ならば、あんなふうに自分が持っている砲弾とミサイルをロシアに大量に輸出せず、備蓄して戦争準備をするでしょう。ですから今北朝鮮は、韓国の総選挙とアメリカ大統領選挙を目前に控え、対外的にはアメリカと韓国を揺さぶり、対内的にはウクライナ侵攻という好材料を利用して、砲弾とミサイルを売って、早くお金をたくさん稼ぐ魂胆だと思います」

(「ウェークアップ」 2024年2月17日公開分を加筆・編集)

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