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【独自解説】いざという時、日本の運命は“どちらが決める”?自衛隊とアメリカ軍が連携を強化したワケ 米・司令官が日本常駐でも“ハワイの上司”が…新システムで懸念される『指揮権』と『星の数』

2024年8月3日 11:00
【独自解説】いざという時、日本の運命は“どちらが決める”?自衛隊とアメリカ軍が連携を強化したワケ 米・司令官が日本常駐でも“ハワイの上司”が…新システムで懸念される『指揮権』と『星の数』
有事の際、どうなる日本―

 2024年7月28日、日米両政府によって開催された『安全保障協議委員会(2プラス2)』。いざという時、つまり“戦争に巻き込まれること”を意味しますが、「誰の判断で」「どういう戦い方をするのか」ということを、日米共に仕組みを新しく変えましょうという合意です。日本の今後の安全保障にとって極めて大切な話を、「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之が解説します。

■『自衛隊』と『アメリカ軍』の違い 制服組トップは“調整役”、有事の時どうなる?

 まず現状ですが、『自衛隊』と『アメリカ軍』は組織も大きさも違いますので、全く一緒にはなりません。日本の場合、『統合幕僚長』が“制服組”のトップで、陸上自衛隊出身の吉田圭秀さんという方です。アメリカの場合は、『統合参謀本部議長』が“制服組”トップと言われていて、日本の『統合幕僚長』とアメリカの『統合参謀本部議長』は対等です。

 ただ、それぞれ“調整役”なので、内閣総理大臣に「こういう方法・方針があります」と、あるいはアメリカ大統領に対して助言はしますが、問題は実際の、いわゆる『武力』です。

 部隊・戦車・イージス艦などを動かす権限は、日本の場合は『陸上幕僚長』『海上幕僚長』『航空幕僚長』という3人の方がそれぞれ持っていて、現状では『陸は陸』『空は空』『海は海』のことしかできません。

 アメリカの場合は、少し変わっています。日本は、ハワイに司令部がある大変大きな部隊『インド太平洋軍』の監督下にあり、その中に『在日米軍』もあります。先ほど『統合参謀本部議長』は“調整役”と言いましたが、アメリカの戦争はちょっと変わっていて、大統領から直接戦う命令を受けるのは『インド太平洋軍司令官』、その地域を担当している司令官です。同時に、この司令官は「こういう戦い方をします」というのを大統領へ直に報告してもいい、という形になっています。

■日本『司令官を一人に』アメリカ『日本に司令官を常駐』 新しい仕組みで変わること

 ですので、有事の時には仕組みも違うし、日本とアメリカには時差もあるので、新しい制度に変えましょうということです。新しい制度に変わると、日本は少しややこしいですが、『統合作戦司令部』を作ります。この意味は、『陸にも海にも空にも“このぐらい出してください”と言える、一人の司令官を決めましょう』ということです。有事の時は、“一人が決める”のが一番簡単ですから。

 アメリカの司令官は一人ですが、ハワイにいるので遠いです。『在日米軍』は自衛隊とよく訓練をしますし、軍事行動も一緒にするでしょうということで、アメリカ軍も日本に新しく『統合軍司令部』を作って、ここの新しい司令官は日本にずっといます。“親”に当たるところはハワイにいますが、日本にいてもらう司令部を作って、『統合作戦司令部』と連携しましょうというのが新しいシステムです。

 ただ、太平洋戦争以降、日本は戦争をしていないので、『一人に任せる』というやり方をあまりやっていません。初めてやったのは、東日本大震災の時です。当時は、「船も必要」「飛行機も必要」「陸上自衛隊の人員も必要」ということで、結局、当時東北を担当していた人がその役目を担いました。

 その人は、陸・海・空それぞれのトップよりも格は下でしたが、上の格の人たちが「皆で応援するから」と言って、陸・海・空を一人で決めるというシステムを作りました。2024年1月に起きた能登半島地震でも、このシステムが採用されました。

 アメリカはずっとこのシステムですが、日本は“ケースバイケース”です。だから、「お互い、ずっと続く組織にしましょうよ」ということです。

■『4つ星』はアメリカ軍でも十数人…軍人の地位を示す“星の数”とは?

 ただ、難しいのが、ここから先です。“星の数”のバランスが合わないんです。

 軍人は偉くなると、“星の数”がとても大切です。極めて人間的な話になりますが、お互いに組織なので、「どちらが上なの」「どちらが偉いの」ということはすごく大事で、こういう部隊の偉い人は“肩”が地位を示します。それが、“星の数”です。

 統合幕僚長・吉田圭秀陸将の肩には星が4つあり、世界的には『星4つ』と言います。日本の場合は桜と星を模った形に変わっていますが、自衛隊の人は『4つ星』という言い方をします。

 この『4つ星』『3つ星』というのが、格を表します。世界的常識では、中将と言われる『3つ星』には実戦部隊の司令官が多く、『4つ星』になるとアメリカ軍でも十数人しかいないと言われているぐらい非常に少なく、物凄く上のトップランクの方です。

■司令官が日本常駐もハワイに“上司”が…有事を誰が判断するかは「これから調整」

 今回、日米共に「有事の時の司令官を新しく作る」と言いました。「アメリカ側の司令官も日本に常駐するから連携しやすくなります」というのが、2024年7月28日の会議でした。が、問題は“星の数”です。

 日本は、これから統合作戦司令官を作りますが、『4つ星』を置くつもりです。現役の『4つ星』から誰かかもしれないし、『3つ星』の方を新しく『4つ星』にするかもしれません。一方、アメリカは『3つ星』を統合軍司令官に置くというふうに言っています。「ここでお互いに話をするから、有事も大丈夫ですよ」ということです。

 これだけ見ると、日本のほうが『4つ星』で格が上なので、世界的には「日本が全部決めるんですね」という話になります。ただ難しいのは、アメリカから来てくれる新しい『3つ星』の方には、上司である『インド太平洋軍司令官(4つ星)』がハワイにいることです。

 先ほども言いましたが、日本は『インド太平洋軍』の指揮下にあり、『インド太平洋軍司令官』は大統領と直接やり取りします。『インド太平洋軍司令官』が日本に来てくれて住んでくれれば良いですが、そう簡単にはいきません。日本に新しくできる司令部の統合軍司令官(3つ星)にとっては上司ですから、我々サラリーマンは身に染みる話ですが、上司に「聞いてないよ」と言われるわけにはいかないんです。

 アメリカ側は「作戦を実際に動かす人を出すんだから、ここで十分、日本の意向も尊重できます。大体、日本のほうが“上”じゃないですか」と言いますが、日本側としては、「とは言いながら、『統合軍司令官』はお一人で全部決められるんですか?当然『インド太平洋軍司令官』に“お伺い”に行くんでしょう?」という心配があります。今の時点では、こういった話はこれからです。

 有事の時に「このぐらい米軍から出してください」あるいは「このぐらい日本から出してください」といったことや、そもそも「“アメリカ・日本・アジア、どこにとっての有事なのか”ということを誰が判断するんですか」という話は、まだ「これから調整していきましょう」ぐらいで留まっています。これは、政治的には極めてセンシティブな話です。

■韓国の司令官は『4つ星』同士 ただ“ある取り決め”に韓国国内で反発の声が…

 韓国には、日本と同じように『在韓米軍』という大きな組織がいます。ただ状況が違うのは、目の前に北朝鮮があって、休戦とはいえ朝鮮戦争が継続中だということです。そして、韓国軍のトップも、韓国にいるアメリカ軍のトップも、『4つ星』です。

 『4つ星』同士にしてあるから、日本よりは同格で一人が全部決められるように見えますが、実はこの二つの軍には取り決めがあり、韓国国内では問題になっています。その取り決めとは、「もし有事になったら在韓アメリカ軍が指揮を執ります」、つまり「韓国の若者たちの命は、在韓アメリカ軍のトップが指示します」というものです。

 日本と違って目の前に敵国がいるから…ということがありますが、こういう事情があって、実は韓国国内では「いい加減この権利を返してもらえ」と、「韓国だって自分で全部決められるじゃないか」という政治家も出てきています。

■「最後はアメリカのほうが日本を守れる」とハッキリ示された2024年・夏

 日本は前から計画していたとはいえ、2024年の夏にバタバタとアメリカの偉い人が日本に来て会議が開かれた理由は、やはり『バイデン大統領の撤退』があったことです。アメリカの大統領が確実に変わり、バイデンさん以外になることが確定しました。

 トランプ前大統領は以前から「日本の役割はわかるが全部払え」と言っていて、韓国に至っては「もう撤収してもいいぐらいだ」ということを、前回の政権では言い続けていました。今もそうかどうかはわかりませんが、「NATOもやめていい」「同盟国なんて関係ない」という考え方です。

 ハリス副大統領は、まだわかりません。“バイデンさんと同じ民主党政権だから”“バイデンさんの後継だから”同じ考え、とは限らないわけです。

 そうなると、国防長官も恐らく変わるでしょうし、実際の現場を預かる日米の防衛当局は、今のうちに“誰が上になっても変わらない仕組み”にしておかないと、「そんなの知らないよ」と言われたら同盟なんてあり得ない、ということになってしまいます。

 実は、アメリカが持ってきた議題は、もう一つあります。「日本に何かあったらアメリカの“核の傘”で守ります」ということを、日米両政府でわざわざ確認しました。「確認しなくても、そういう約束なんじゃないの?」と我々は思うわけですが、「最後はアメリカの“スーパーパワー”のほうが、あなたたちを守れるんだから」ということも、今回ハッキリと示されたということです。

 さあ、日本の“いざという時”に、我々の運命はどちらが決めるのでしょうか―。(「読売テレビ」特別解説委員・高岡達之)

(「かんさい情報ネットten.」2024年7月29日放送)