元宝塚トップ娘役・野々すみ花「覚悟のショートヘア」を振り返る 相手役・大空ゆうひに「好きにすれば」と突き放され…
■娘役はアクセサリーを手作り
安藤アナ:初めての娘役の方にゲストにお越しいただきました。
「私は娘役らしからぬ娘役だったので、ご期待に沿えるかどうか不安です」
安藤アナ:もともと娘役を目指されていたのですか。
「私が宝塚に出会ったのは、父の勧めがきっかけです。初めて見たのはたまたまテレビでやっていた宝塚の舞台中継。その時に大きな羽根を背負った方が大階段を下りてきてパッと手を広げた瞬間、『私もこの舞台に立ちたい』と思いました。その方が娘役の花總まりさん。大先輩なんですけれども、その印象がずっと忘れられなくて。ただただ憧れて、追いかけてきました」
中島アナ:娘役をより輝かせるものとして髪飾りやアクセサリーがあります。当時、使っていらっしゃったものをお持ちいただきました。
「お芝居でもショーの場面でも使っていたものです。特にお気に入りだったものを残していたので、今日持ってくることができました。まだまだあったんですけれども、後輩たちに譲ってきたので、自分のもとにはもうこれしかないです」
中島アナ:娘役さんはアクセサリーを手作りすると聞きます。
「娘役というと髪飾りを作ったりアクセサリーを揃えたりと、みんなときめきますけれども、私はちょっと特殊だったかもしれないです。私は本当に不器用で、なかなか手作りが難しかった。カツラ屋さんや衣裳部さんに自分のイメージを伝えて。上級生や皆さんの助けを借りながら、なんとかやってきました」
「娘役は休みの日に手芸屋さんなどに出向いて、役や作品に合うものを自分で買い揃えて作っていますね。私もそういうことはしていました。あと一番好きだったのは、演じるときに『その当時使われていたもの』を探すこと。例えば1940年代の作品を演じるとき、アンティークショップに行くと、腕時計やイヤリングなどその国で使われていたものが売っていたりする。実際にそういうものを使っていました」
中島アナ:アンティークで同じ時代のものをつけると、何か変わるものですか。
「そこに宿っている時代の空気に助けてもらえるんじゃないか。そうすがっていたのかもしれません。特に娘役は髪飾りやアクセサリーを自分で用意するので、思い出深い作業でしたね」
「こちらの大きなシルバーのネックレスとイヤリングは『仮面のロマネスク』という作品で時代物の大きなドレスの時に使っていました。そしてこちらは私、髪の毛がすごく短かった時があってその時に着けていたショートヘアにもつけられるような髪飾りです」
■覚悟のショートヘア
安藤アナ:ショートヘアで出演された作品と言えば『誰がために鐘は鳴る』です。思い入れはありますか。
「そうですね。『誰がために鐘は鳴る』は、私の演じる役のマリアが、戦争の状況下で髪を刈られてしまうという設定がありました。娘役なんですが、ショートヘア(の役)だったんです。演出の先生方からは『かつらでいい』と。一方、当時相手役の大空さんとは『実際に自分の毛を使った方がいいんじゃないか』という話になりました」
「娘役というのは髪の毛をぴっちりとまとめて、さまざまなかつらを付け替える。そういうものだと思っていたので、自分の髪の毛がなくなる(短くなる)ということにドキドキしてしまって。ちょっと揺らいでいました。演出の先生からも『お願いだから髪の毛は切らないで。責任持てないから』と言われて、自分の気持ちが揺らいでしまった。そのときに相手役の大空さんから『じゃあ好きにすれば』と一度突き放されたことがありました」
「その作品はそれで通せたとしても、宝塚はさまざまな作品がありますので、不安もありました。でも髪の毛を切った瞬間に『これでよかったな』と思いました。今までの先入観や『こうでなければ』という思いがすっと流れていくのを感じて、息がしやすくなった。自分らしさや自分は何ができるのかということをスムーズに考えられるようになった気がします」
中島アナ:『好きにすれば』と突き放された大空さんと実際に対面したときの反応はいかがでしたか。
「切りに行く前日に、ケンカ別れのようになったんです。その後、私が『切ります』とお伝えしたら、美容院まで駆けつけてくださって切る瞬間を見届けてくださいました。切った後の姿を見て『いいんじゃない』と。うれしかったですね」
安藤アナ:(大空さんと野々さんの)トップコンビの絆は私たちも舞台上で見て感じます。
「人生の中で一番深く関わり合った人だと思います。数々の色々な局面に2人で接してきて、トップスターさんは私には知り得ない本当に大変な重責を背負っていらっしゃる。そういったちょっとした部分を見せてくださったり、頼ってくださったり。とてもうれしかったです。特別な関係だったなと思います。いまでもたまにやり取りはしていて、昨年も一緒に観劇に行きましたね」
安藤アナ:実際に舞台で切った髪で演じる。どんな気持ちでしたか。
「本当に恥ずかしかったです。髪の毛を切った翌日に劇団に行った時は本当に恥ずかしくて、もう穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったです。周りの反応は、びっくりはされましたけど『すみかならやるよね』というような言葉もいただきました」
(中編へ続く)
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇 場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回は元花組トップスターの真飛聖さんです。