声優・井上和彦 70歳 『美味しんぼ』山岡士郎役でつかんだ演技のコツ「あっ、これはもしかしたら…」
■声優デビュー50周年 初の自伝本
井上さんの自伝本『風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方』。
二枚目から動物まで数々のキャラクターを演じ続けてきた井上さんの、実は話すことが苦手だった10代の頃や、プロボウラーを目指した過去、新人時代の失敗談など、井上さんの歩んできた道が赤裸々につづられています。
■水島裕、三ツ矢雄二…高め合った声優仲間 「オーディションでずっと会っていた」
長年声優として活動を続けてきた井上さん。20代の頃から切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲間の存在を教えてくれました。
――声優を続けてきた中で、お互いに高め合った声優仲間は?
一緒にやってきた人はたくさんいるんですけれども、振り返ってみると今元気でやっているのは水島裕くん(『ときめきトゥナイト』真壁俊役、サモ・ハン・キンポーの吹き替えなど)とか、三ツ矢雄二くん(『タッチ』上杉達也役、『キテレツ大百科』トンガリ役など)とかですね。
デビューした頃から、行くオーディション行くオーディションでずっと会っていたので、「あ、今回は俺が落ちたか」「今回は俺が受かったか」みたいな(笑)。そんな感じで、ニコニコしながらもちょっと悔しいみたいな。そんな20代でしたね。
■『美味しんぼ』でつかんだ演技のコツは…
『美味しんぼ』や『NARUTO-ナルト-』以外にも、『夏目友人帳』のニャンコ先生/斑役や、『名探偵コナン』の白鳥警部役など、井上さんは様々な作品で様々なキャラクターを演じています。
――“これ難しかったな”というキャラはいますか?
どのキャラもそれぞれ難しかったですね。初めていただいた役から、あとはレギュラーでやりはじめて、毎回うなっていて、『サイボーグ009』の島村ジョーとかは、まだあまりお芝居がよく分かっていなかった頃だったので、収録が終わると005役の銀河万丈さんと一緒に、その頃は田中崇さんというお名前だったんですけど、反省会という飲み会を3時間も4時間も。その日のお芝居について、「あの時こういう気持ちで言ったんだけど、どうだったかな」みたいな。勉強させてもらいましたね。
――『美味しんぼ』の山岡士郎役としても井上さんは知られていますね
山岡士郎もそれなりに相当苦労しました。
――どういった点で苦労したんですか?
だらしなくしゃべれなかったんです。それまでずっとヒーローものが多かったので、普通にぽっとしゃべると、(ディレクターから)「井上くんちょっと格好いいんだけど。二日酔いの声で、だらしなくしゃべって」って。それまで気張って地球を守っていたのに、マイクの前でだらしなく二日酔いの声で「あ~。どうも」ってやらなきゃいけないのが、最初は難しくてなかなかできなかったですね。
その時はディレクターさんの話し方にヒントを得て。「あっ、これはもしかしたら…」と思って、そのディレクターさんのしゃべり方をちょっとセリフの中にいただいたんですよ。そしたら「そう。そういう感じ」と言われて、「あれ…?」と思って。それまでは先輩たちのお芝居をマネするというか、お芝居から吸収することが多かったんですけど、そこからは周りの人たちからたくさん色んな役作りのヒントをいただくようになりました。
■『名探偵コナン』の白鳥警部役 “2代目”としての悩み
井上さんは『名探偵コナン』に登場する警部、白鳥任三郎も長年演じています。井上さんは2代目の声優で、それ故に困ったこともあったそうです。
――白鳥警部は井上さんにとってどんなキャラクターですか?
(初代は)塩沢兼人さんという方がやっていらして、僕はその前の年まで劇場版で犯人やっているんですよね。初めはすごく困りましたね。“どうしようかなあ”と思って。白鳥警部が最初に出てきたのは、劇場版の、もしかしたらちょっと犯人っぽくみえるような感じで出られていて、ちょっと怪しい部分がみえていたんですけども、実はそう(犯人)じゃなかったというふうになって。その話を聞いて、“じゃあその怪しいところがなくてもいいのかな”と思って、あまり意識をせずに自分なりの白鳥でやらせてもらおうと思って。初めはもしかしたら違和感があるかもしれないですけど、長いことやっていれば、『井上の演じる白鳥』になるんじゃないかなと。
最初はちょっと背後に塩沢兼人さんがいましたね。すっかりいなくなったのは、(演じて)10年を超えたときに。「あ、僕は兼人より長く白鳥をやらせてもらったぞ」という意識になってから変わりましたね。
■今後の目標は「長生きして…」
声優デビュー50周年、そして70歳を迎えた井上さん。これからも声優として活動を続けていく中でどういった目標があるのでしょうか。
――今後の目標を教えてください
今後の目標ですか? 長生きしたいですね(笑)。長生きして、ちょっとでもたくさんの作品に関わって、いいお芝居を残せるように頑張っていきたいと思います。
役については、「あの役やりたい」「この役やりたい」って大概の役をやらせていただいたので、特に「この役をやりたい」というのはないんですけど、皆さんの心に残るお芝居を提供できればいいかなと思っています。