声優・諏訪部順一 いつの間にか声優に 演じるキャラクターは“常にオーダーメイド”
■諏訪部順一 最初はアニメの現場は「どちらかと言えばストレスの方が大きかった」
諏訪部さんはもともと、ナレーターやラジオDJとしての適性を認められ事務所に入ったそうです。声を使う仕事をする中、アニメのオーディションを受け、いつの間にか声優の仕事になっていたといいます。
――声優になって大変だったことは?
正直に言うと最初は、アニメの現場って何にも分からない、右も左も分からない状態で入っているので、どちらかと言えばストレスの方が大きかったんです。例えばナレーションの現場だと、自分のペースで自由が利く感じでプレーできるようになっていたんですが、アニメの現場ではボールすら蹴れないような状態で、このギャップに自分の中でかなり苦しんだ時期もありました。でも、やればやるほど面白くなって楽しくなって、周りが見えてくると他の人の芝居も聞こえてくるように見えるようになってきて、気が付けば今にいたって四半世紀超える形でこの業界でお仕事させていただいています。
――声優の奥深さ、面白さはどんなところに感じますか?
やはり自分の体、身体と違った存在を演じられるっていうのはすごく面白いですよね。見かけに縛られない形で、年齢も関係なく、なんだったら人間じゃないものも演じられます。そういう面白さはすごくあると思います。あと今、日本のアニメーションって世界中の方が見てくださっています。僕らは基本的に日本語で表現していますが、それを世界中の方が見て、なんだったら(日本語を)覚えてくださって…。これってとてもすごいことだと思うので、だからやればやるほど、ナレーションでもそうなんですけど、日本語の大切さというかアイデンティティーみたいなものにもつながるというか、大切にしたいなと思う気持ちが強くなってきましたね。
■諏訪部順一 役作りは“心の機微をイメージしながら”
――『銀河英雄伝説 Die Neue These』の見どころは?
宇宙船同士の艦隊戦もCGなどを駆使して、美しく描かれています。それと人間の内面的なものも深く描かれている作品でもあるので、昨今の混迷する実際の世界情勢にもなぞらえて考えさせられるような重厚な作品です。
――演じたオーベルシュタインはどんなキャラクターですか?
オーベルシュタインは目的のためならば手段を選ばないようなタイプで、ダーティーな手を使ってでも目的を遂行するべきというマキャヴェリズムの具現化したような部分もあるんですが、「きれいなところはあなた(銀河帝国軍の元帥、ラインハルト・フォン・ローエングラム)に、ダーティーは請け負いましょう」みたいな部分があったりもします。そういうリアリストなところが僕はすごく気に入っている部分ではあるんです。ただ一人の人間なので、彼の中の感情の表面的には出てこないその心の機微みたいなものも自分の中ではイメージしながら演じています。
■諏訪部順一 演じるキャラクターは“常にオーダーメイド”
――声優として大切にしていることは何ですか?
やはり作品やキャラクターと真摯(しんし)に向き合って愛情を注ぐべきだなと、誰よりも愛したいとは思うようになりました。作品を愛してくださっている方たちと可視化するようなイベントも結構あります。イベントにいらっしゃる多くの皆さんが、いや、それ以上の皆さんが作品に愛情とかいろんなものを注ぎ込んでくださっている、大切に思ってくださっているのに、(声優を)やっている自分が“流れ”でやっているみたいなことは、絶対にあり得ないじゃないですか。今SNSなどでご感想とか見させていただくのも多いですし、そういったことをすごく思うようになりました。演じる上でもやはり任せていただいたキャラクターを1個の存在として説得力あるものにしたいなという意識がすごく強くあるので、常にオーダーメイドというか、ワンオフ(一点もの)で類型的に演じるようなことは絶対にしないように常々心がけていることです。
【諏訪部順一プロフィル】
東京都出身。『テニスの王子様』の跡部景吾や、『呪術廻戦』の両面宿儺、『Fate/stay night』のアーチャーなどの声で知られる人気声優。多くの番組でナレーションも担当している。第六回声優アワード 歌唱賞、第七回声優アワード 助演男優賞、第十二回声優アワード 助演男優賞、第十三回声優アワード パーソナリティ賞、第十七回声優アワード 富山敬賞と、数多くの受賞歴がある。
【お話を聞いて一答遼談!(編集後記)】
諏訪部さんの「作品にたくさんのファンが愛情を注いでくれているのに、演じている自分が生半可な気持ちで取り組めない」という思いに、諏訪部さんのプロフェッショナルな部分を感じました。これはどの仕事にも共通することだと思います。自分の仕事や結果を求めている人がいる限り、自分が手を抜くことはできない。プロとして成長する大きなモチベーションであると改めて感じました。
諏訪部さんが発する一言一句全て耳心地がよかったです。そのお声もまた、作品やキャラクター、そしてファンの皆さんに向き合い続けたからこそ磨かれたものだと感じました。
企画・取材:日本テレビ 伊藤遼