【著者を取材】ウクライナの作家が描いた戦争の絵本「子供たちに正直に」 主人公の“からだ”に込めた思い
ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナで、絵本作家として活動する夫婦がいます。2人が“戦争”をテーマに描いた絵本が6月3日に出版されると、わずか1か月で重版が決定。日本語含め“世界15の言語”に翻訳されるなど広がりを見せています。今もウクライナ西部のリビウに住むロマナ・ロマニーシンさんとアンドリー・レシヴさんにリモートインタビューし、絵本に込めた思いを聞きました。
■絵本で描かれる戦争 平和な町が突然“闇の中”に
ロマナさん(37)とアンドリーさん(38)が描いた絵本『戦争が町にやってくる』(ブロンズ新社)。“ロンド”と呼ばれる美しい町が舞台で、人々が花を育て、鳥や草木に話しかけながら楽しく暮らしていたある日、この町に「戦争」が突然やってきます。
(『戦争が町にやってくる』より)
ロンドの町の人たちは、戦争がどんなものかしりませんでした。
ところが、戦争は、どこからともなくやってきました。
黒くておそろしい戦争が、地面をゆらし、耳をつんざく音をたてながら、ゆっくりと町にむかってきました。
破壊と混乱と暗闇をつれて。戦争が手をふれると、なにもかもが闇のなかにきえていきました。
「戦争」がロンドに影を落とす中、町を愛するダーンカ、ジールカ、ファビヤンの3人は暗闇から町を救い出そうとします。
■きっかけは2014年のクリミア侵攻「自分たちは“非常に弱い存在”」
制作されたきっかけは2014年、ロシアによるクリミア侵攻を2人が体験したこと。「親子の間で話し合うきっかけになるような本を作ろう」と、2015年にこの絵本が生まれました。
――2014年のクリミア侵攻でどんなことを体験し、どんなことを感じましたか?
ロマナ:とてもつらい時でした。全ての出来事が非常に濃厚でした。かなりのストレスを感じ、多くの人々が命を失いました。私たちはこのような重大な出来事に対して、全く準備ができていませんでした。
アンドリー:自分たちのことを“非常に弱い存在”だと感じました。
■からだが“壊れやすい素材”でできた主人公たち
その経験が絵本に反映された部分があります。それは、戦争から町を救おうとする3人の“からだの特徴”です。
(『戦争が町にやってくる』より)
ダーンカのからだは、うすいガラスみたいにすきとおっていて、電球のように光っていました。いちばん明るくかがやいているのは、心臓です。
ほかにも、ファビヤンは“風船”でできた犬、ジールカは“紙”でできた鳥。いずれも“壊れやすい素材”でできています。
――なぜ、主人公のからだは“壊れやすい素材”なのでしょうか?
アンドリー:“私たち自身”であると表現するため、絵本の中のキャラクターも弱い(壊れやすい)物質で描きました。しかし、戦争の前ではもろい生き物でも、団結して戦えば、破壊されることなどなくなるのです。
■元に戻らない“からだ”「戦争は全ての人々を変える」
絵本では主人公たちが町の人々と団結し、“光の機械”をつくって戦争を打ち倒します。しかし、町も主人公たちも傷つき、以前の状態に全てが戻ることはありません。
――傷ついたからだが“決して元に戻らない”ことを描いた理由は?
アンドリー:読者である子どもたちに対して“正直”であることが、私たちにとって非常に大事です。戦争は全ての人々を変えます。私たちの生活も変えます。戦争の後、建物が建て直されたり、街が復興されたりすることもありますが、私たちの魂や体はダメージを負ったままであり、傷は永遠に残ります。このひどい期間の記憶も永遠に残ります。私たちは子どもたちに対して真摯(しんし)になり、「この変化に対して準備をすべきだ」と伝えたかったのです。
■“スーパーヒーロー”が出てこないワケ
――フィクションの絵本には、“スーパーヒーローが現れて争いを解決する”というストーリーがありますが、この物語をそうしなかったのはなぜですか?
ロマナ:まずは、“スーパーヒーロー”とは何でしょうか? 責任を持ち、自己を犠牲にする準備がある人ですよね。幸運なことに、私たちにはたくさんの“スーパーヒーロー”がいます。自分の命を危険にさらし、他者を助けている兵士や医者、消防士、ボランティア、一般市民など、ウクライナ国民は責任を持ち、自己を犠牲にする準備が出来ています。私たちは“スーパーヒーロー”を待つのではなく、“スーパーヒーロー”のように行動を起こさなくてはならないことも理解しています。誰かが助けるのを待つのではなく、自分が行動し、戦わなくてはならない。それが私たちがこの絵本で表現したいことでもあります。