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『少年ジャンプ+』の編集部員・林士平 漫画家と一緒に“物件”巡り「緊急連絡先がなぜか僕」

2023年8月11日 22:05
『少年ジャンプ+』の編集部員・林士平 漫画家と一緒に“物件”巡り「緊急連絡先がなぜか僕」
漫画編集者・林士平さん
『SPY×FAMILY』『ダンダダン』などを担当する漫画編集者・林士平さん(41)にインタビュー。漫画編集の仕事を始めて、今年で17年となる林さんにこれまでの活動、また長い時間をかけ築き上げてきた、漫画家との関係性についてお話を伺いました。

林さんは2006年に集英社へ入社。『月刊少年ジャンプ』『ジャンプSQ.』編集者を歴任し、現在は漫画アプリ『少年ジャンプ+』の編集部員を務めています。連載中の『チェンソーマン』『HEART GEAR』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』の編集を担当しています。

――漫画編集のお仕事について教えてください。

漫画作品のもとになる『ネーム』の前から「次に何書きます」とか「新しく何を書きます」って打ち合わせをして、それの下書きの下書きみたいなネームで良い悪いとか話をして、完成して、それを世の中に発表して、コミックスという形のパッケージングをして、届けるのが基本の仕事で、古くからの漫画編集者の仕事のベースがそれで、最近だといわゆる二次利用です。アニメ、ドラマ、映画、舞台とかミュージカルとかグッズとか宣伝戦略まで全部一応担当編集のもとにチェックが来るので、ライツビジネスをやっているチームと宣伝部のチームと、もちろん作家さんに相談をしながら、どうしたら最大限、全世界の方々に気づいてもらえるかみたいなのも考えて作っています。

――担当されている漫画家さんとは、どのように仕事を進めていますか?

例えば電話で打ち合わせをしたり、絶対直接会って打ち合わせしたいという方もいれば、LINE、メールで返していた方もいらっしゃいますし、バラバラですね。なので、聞いちゃいますけどね。打ち合わせの仕方とか、打ち合わせの頻度とか。大体おひとりの方が多いんで、1対1ですごく長い年月をかけてコミュニケーションをしてチームになっていくので、連載する頃にはかなり近い距離でいるという。

――漫画制作で意識していることは?

難しいんですけど、王道もめちゃくちゃ大事なんですよね。みんなが分かっている物語の形に置いておくと、安心して読めるから、でもそれだけだと飽きちゃうんで、そのバランス調整をよくしている印象はありますね。「どこかで見たなにかの劣化版じゃん」だと売れない。ちょっと新しいだけでも少し、お客さんが「おお」って思ってくれる瞬間、それをどういう部分で作るか。キャラで作るのか、セリフで作るのか、設定で作るのかっていうのを、作家さんとよく議論をしているって感じですかね。

――そのバランスが大事になるんですかね?

作家さんとか作品によりますね。形がある程度できてしまっているジャンルとかあるじゃないですか。恋愛もの、ホラーものとかが多分そうだと思うんですけど、型を崩すのはすごく難しいので、そういう場合は作家さんと型の話を1個ずつ話していって、「何が崩せるか」とか「どうやるべきか」みたいな話をしたりもします。そもそも「何を書かなきゃいけない」というルールがないので、作家さん書きたいものを自由に書けるので、うまくハマらなかったら次のジャンルに行けばいいし、別のジャンルを書けばいいんで、毎打ち合わせ、毎打ち合わせ全く違う話をしていますよ。

■漫画家との関係性「家族的なおつきあいをする方も」

――打ち合わせでは、漫画家さんによっていろんなお話をされているんですね。

します、します。何を書いていいか分からないって方も結構いらっしゃるので、「じゃあ何が面白かったですか、過去」とか「幼い頃、何を読んでいたか」とか「今、何読んでます?」とか「何を見てます?」、「ぶっちゃけ何を作りたいですか?」みたいな話をしながら、ゆっくりゆっくり探っていくというか。

――少し面接のような…

ある種マネジャーでもあるし、多分音楽のマネジャーとか芸能マネジャーに近い職種かもしれないなと思う瞬間もあるんです。その人のメンタルをコントロールして、その人の言い分を出して、題材とか企画とどう食い合わせるかみたいな話をする時もあるし、全部自分でできちゃうって方もいらっしゃるので、そういう場合は本当にマネジメントとか宣伝に徹するという、バラバラですね。あと、一緒に不動産屋を巡る作家さんとかいましたよ(笑)上京してくるから、どこ住んでいいか分からないし、どうやって借りていいか分かんない。保護者が上京してくるわけでもない。「じゃあしょうがない、一緒行くか」っていって一緒に不動産屋を回ったり、「稼いだけど欲しいものがない。でも、久々になにか欲しいものができた」「じゃあ、それを買いに行きましょう」とか、そういうこともあります。

――実際にお住まいが決まったりとかしました?

とある先生と1年間ひたすら家探して、豪邸訪問を毎月したんですよ。「超たけぇ! この家賃」っていうのを、実際に借りられる先生だったので、いくらでも見られたわけですよ。例えば、六本木行って「この辺のカフェ、打ち合わせしやすいですね」とか。3軒内見も予約したのを「一緒に行きましょう」って言って、不動産屋さんと一緒に行って、「ここじゃないっすね」というのを、1年間ひたすらやり続けた年もあったので、実際住む所が決まった時とか、契約の現場に一緒にいましたからね。そもそも緊急連絡先がなぜか僕になりましたから(笑)「なんだ、この仕事」と思いながら(笑)そんな感じである種“家族”的なお付き合いする方もいらっしゃいます。

■漫画編集の仕事で大切なこと「真面目に、丁寧に、全力で、全部やる」

――担当している漫画家さんに伝えていることはありますか?

基本的には「もの見ないと多分いいものを描けませんよ」っていう話は新人の頃からお話をします。別に何でもいいんですけど、小説だろうが、映画だろうが、ドラマだろうが、アニメだろうが、なにか掘り下げて、自分が知っていくジャンルみたいなものを持っておかないと、何作か描いたらすぐさま吐き出し切っちゃうことが多いので、「なるべくたくさん見ましょうね」、「見るのって楽しいですよ」みたいな話をお伝えするようにはしています。

――インプットが必要なんですね。

そうですね。本当になんでもいいんですよ。その先生が摂取するのが苦じゃなく、かつ楽しみながら深めていけるものとかを持っておくと「漫画家って商売においてはとてもそれは役立つものでありますよ」っていうのをお伝えしていますかね。

――漫画編集の仕事をされる上で大切にされていることはなんですか?

本当に真面目に丁寧に全力で全部やる以外にないんですよね。作家さんによって全然対応が違うので、やらなきゃいけないことも。「これを絶対大切に」って言われると難しいんですけど。でも「時間の許す限り全力で働きます」って言うだけですかね。「やれるだけ頑張ります。それで許してください」ってみんなに言っています。